第二章 領主の野望編
第11話 建築!? マイホーム!
「さて、ゴブリンの脅威も去った事だし、そろそろ住むところを何とかしないとなぁ」
俺は世界樹によって半分埋まった村を眺めながら、これからの事を考える。
「住む所ですか?」
俺が考え事をしていると、世界樹の枝に乗ったラシエルがやってきた。
ゴブリンキングの栄養を得て成長したラシエルは、愛らしさはそのままに美しく成長し、さながら花の妖精といった風情だ。
「ああ、今までは晴れていたから良かったけど、いつ雨が降るとも限らないからな」
「私、雨は美味しくて好きですよ?」
ああうん、世界樹的にはそうなるよね。
「だからさ、そろそろ家を建てようかなと思ってさ」
そうなのだ。いい加減廃墟で暮らすものどうかと思う。今は良いが、冬が来たらマズイしな。
「それなら、私の中で暮らしたら良いのでは?」
「え? 中?」
それはどういう意味かと聞こうとしたら、突然世界樹の幹に穴が開き始めた。
「なっ!?」
穴はどんどん大きくなり、人ひとりが入れる大きさになってようやく止まった。
「どうぞ入ってみてください」
中に入ると、穴の中は丸い空洞になっていた。
「これなら雨風が防げますよ。どうですか?」
「なんとまぁ……」
世界樹が成長したことで、ラシエルを乗せて枝が動くようになったのは知っていたが、まさか形まで変える事が出来るようになったとは……
とはいえ……
「ありがたいけど、流石にドアや窓がないとな。このままじゃ暗いし、外から丸見えだ」
うん、これじゃあ洞窟暮らしと変わらない。
かといってラシエルの本体である世界樹に穴をあけたり釘を打ち付けるわけにもいかない。
「分かりました、窓とドアですね」
とラシエルが言うと、壁に小さな穴が開き、蓋の付いた窓が出来る。更に入り口の脇からドアがせり出してきて、部屋が真っ暗になった。
「おっといけない」
慌ててドアを開けて光を要れるラシエル。
「はい、ドアと窓です! これで大丈夫ですね」
「あー……うん」
凄いな。どういう構造なのか良く分からないけれど、ちゃんと樹とドアが繋がっていて、普通に開く。
「となると後は家具一式か」
流石に家具は無理だろう。
一人で運ぶのは無理だから、何とか町の外まで運んで果実兵達に運んでもらお……
「はい、家具ですね!」
などと考えている間に、天井から枝が伸びてきて、モコモコと木の実が実り、それが瞬く間にベッドや布団、机や椅子へと変化していった。
「というか、無機物……加工した物まで実るのか」
ラシエルのあまりの出鱈目さに、眩暈がしてくる。
そういえばゴブリンキングとの戦いで剣や鎧を実らせてくれたっけ。
というか、それ以上にリジェ達というとんでもない存在を実らせた事こそ驚きだもんな。
「他に欲しいものはありますか?」
だが当のラシエルはそんな素振りなど微塵も見せず、足りないものは無いかと聞いてきた。
「あ、ああそうだな。夜に使う明かりが欲しいからランプか何かが欲しいかな。ああ、でも世界樹の中で火を使うのは不味いか」
さすがに自分の体の中で火を焚かれたらラシエルもたまったもんじゃないよな。
「それなら大丈夫です。私から生まれたものは私を焼いたりできませんから!」
「凄いなそれ!?」
「えへへ。でも、お兄ちゃんが気になるのなら、これはどうでしょう?」
そう言ってラシエルが実らせたのは、手のひらに収まるサイズの半透明の石だった。
「これは……?」
なんか見覚えがあるような……
「奇光石です」
「奇光石だって!?」
奇光石、それは暗い所で光る不思議な石の名前だ。
石の純度が高いほど強く光り、純度の高い石は室内の灯りとして重宝されている。
ただし、家の明かりとして使える程の純度の物は少なく、採取できる場所は魔物が多い上に採取をするにはコツがあるらしい。
その為、奇光石は非常に高価で大抵は貴族や金持ちに独占されている代物だ。
その奇光石がこんなに簡単に手に入るだなんて……
「これで暗くても大丈夫ですね!」
「あ、ああ、ありがとうラシエル」
まぁラシエルの実らせるものについては、驚くだけ無駄だな。
もう何を実らせても驚かないぞーっ!
あ、うん、それは無理な気がしてきた。
「我が王」
と、その時だった。
リジェが緊迫した様子で俺の下へやってきた。
「どうしたリジェ?」
もしかしてゴブリン達の討ち洩らしでもあったのか?
「不審な者達が村に近づいてきました」
「不審な者達?」
この村は10年前に廃墟になってる事は知られている筈……
一体何者なんだ?
「なので悪さをする前に捕らえておきました」
「そうか、ありが……と……え?」
え? 捕らえた? 偵察とかじゃなしに?
だがそんな俺の驚きなどどこ吹く風、リジェは褒めてくれと言わんばかりに胸を張って自信満々な表情をしていた。
「……ムフーン!」
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