第6話 果実将誕生!
「おかえりなさいおにいちゃん!」
ゴブリン達を倒して帰ってくると、ラシエルが笑顔で出迎えてくれる。
「ただいまラシエル」
俺は駆け寄ってきたラシエルを抱きかかえて抱きしめると、ラシエルも小さな手で俺を抱きしめてくる。
「おけがはありませんでしたか?」
「俺は大丈夫。ただ果実兵達が怪我を負ってしまったんだが、薬草で治るのか? それとも俺を直してくれた世界樹の雫が必要か?」
負傷した果実兵達をどう治療すればいいか分からなかった俺は、ラシエルにどうすればいいのかと尋ねると、ラシエルは首を横に振ってその必要はないと答える。
「だいじょうぶです。けがをしたこたちはわたしのねもとでつちにうまれば、とちのえいようをすってしぜんになおります」
「そ……そうなんだ。それは良かった」
どうやら思った以上に植物だったらしい。果実兵ってマンドラゴラみたいなものなんだろか?
「さて、それじゃあ倒したゴブリンの死体を持ち帰って、ラシエルの肥料にするか」
「あたらしいひりょうですね」
「「「「!!」」」」
さっそくゴブリンの死体を運んで来ようとすると、果実兵達が自分達に任せろと駆けだしていった。
「なんか、する事無いなぁ」
することが無くなって手持無沙汰になった俺は、とりあえずラシエルの頭を撫でる。
「ふにゃあ」
そしてしばらくすると、ゴブリンの死体を担いだ果実兵達が戻ってきた。
「おお、結構力持ちだな」
果実兵達は両肩に一体ずつゴブリンの死体を担いでおり、危なげなく世界樹の下へと歩いてゆく。
「これなら荷物持ちなんかでも役に立ってくれそうだな」
収穫した果物を運ぶのも果実兵達に任せたり、家の立て直しを手伝ってもらうのもありかもな。
「ん?」
と、そんな実兵達の中で、一人だけゴブリンを一匹しか担いでいないヤツがいた。
「果実兵にも個人差があるのかな?」
まあ一体くらいなら俺が運ぶか。
そう思って残ったゴブリンの死体を探した俺だったが、不思議な事にゴブリンの死体はどこにもなかった。
「あれ? 確かゴブリン達の数は20体だったよな?」
数え間違えたか? そう思った俺だったが、そうではないと気付かされる。
「あれは!」
そして俺はようやく気づいた。
村の外、森へ続く道に点々と血が流れていた事に。
「しまった! そういう事か!」
俺は慌てて埋められようとしているゴブリン達を確認する。
「ゴブリンが17、そしてホブゴブリンは……2!?」
やられた! あの突撃はそういう事だったのか!
「全員囮か! リーダーのホブゴブリンが逃げ出す為の!」
俺を狙わせたのも、指揮官である俺が狙われれば、仲間である果実兵が俺を守ろうと突撃してきたゴブリン達に集中すると判断しての事だろう。
そして自分への注意が逸れた瞬間を狙って、あのリーダーゴブリンは全力で逃亡したのか。
もちろんゴブリン達も自分が捨て石になったとは思っていないだろう。
自分より強い群れのリーダーが突撃を命じたから、それに従ったに過ぎない。
「ゴブリン達の目的は仲間を探すだけでなく、偵察も兼ねていたのか」
けれど迎撃に出てきた俺達の数が少なかったことで、数で勝る自分達なら容易に対処できると考えたんだろう。
「だとすれば不味いな。次は本気で来るぞ」
自分達に対抗できる戦力が居ると知った以上ゴブリン達が何もしないとは思えない。
恐らく次は本気で襲ってくるはずだ。
こちらの数を圧倒できる数で、それも上位種のゴブリンと共に。
「どうやら、まだまだ安心はできないみたいだな」
「どうしたんですかおにいちゃん!」
ホブゴブリンが逃げた事に気づいて難しい顔をしていた事で、ラシエルが気遣うように声をかけてくる。
「すまないラシエル。どうやら敵を逃してしまったみたいだ。次はもっと多くの敵が攻めてくると思う」
「もっとかじつへいがほしいですか?」
「そうだな。なるべく多く味方が欲しい」
「わかりました! いっぱいみのらせます!」
そう言うとラシエルは世界樹の枝に大量の果実兵の実を実らせる。
「えーい!」
そして世界樹の枝から落ちた果実兵達が形を成し、俺の前に整列する。
「ひーふーみー……50体か。元から居た奴等と合わせると全部で60体……というかよくまぁこんなにも用意出来たなぁ」
てっきり10体くらいかと思ったんだが、予想外に大量に実らせてくれて驚いた。
「この人数で……いけるか?」
ゴブリンなら問題なく戦えるが、上位種のゴブリンはどうだろうな。
ホブゴブリンとの戦闘で傷を負った果実兵がいたし、上位種相手だと不安だな。
「もっと果実兵を実らせることは出来るか?」
「うーん」
しかしラシエルは首をひねって難しい顔になる。
「まだえいようがたりないので、かじつへいをふやすにはもっとひりょうがほしいです」
「肥料か……」
となると森の外周に居るゴブリンを狩りながら敵の数を減らしつつ、倒したゴブリンを肥料にして味方を増やす方針になるな。
「分かった。新しい肥料を探してくるよ」
俺は10体をラシエルの護衛として残し、土に埋まって治療中の4体を除いた46体の果実兵と共に森へと向かった。
◆
「よし突撃!」
「「「「!!」」」」
俺達はさっそく遭遇したゴブリンの集団と戦闘を開始する。
ゴブリン達の数は10体で、新メンバーの初陣と、集団戦の訓練にはちょうどいい人数か。
「10人は反対側に回り込んで逃げ道を塞いでくれ!」
「「「「!!」」」」
俺の指示を受けた果実兵達がゴブリンの背後を取ろうと後ろに回り込もうとする……のだが。
「ああ、お前はそのまま戦ってくれ!」
果実兵達との連携が上手くいかず、なんと中央で戦闘している果実兵まで背後に回ろうとしたので慌てて止める。
「端にいる奴が後ろに回り込んでくれ!」
「「「「!!」」」」
改めて命令をしたら、今度は端の果実兵が後ろに回った事で、自分が端になった果実兵まで後ろに回り始めたのだ。
「うぉぉっ、うまくいう事を聞いてくれん!」
いやいう事を聞いてはくれるのだが、果実兵は元が果物だからなのか、どうにも融通が利かなかった。
お陰で俺は戦闘どころではなく、後方で指揮に専念する羽目になってしまった。
「今回は数の優位で勝てたけど、これ以上果実兵が多くなったら間違いなく軍団が崩壊するぞ」
せめて数人ならいいんだが、急場しのぎのリーダーにこの人数を細かく指示するのは無理だ。
「果実兵にリーダーを割り振るか」
軍団を臨機応変に動かす為、俺は数体の果実兵をチームのリーダーに任命する。
「お前達に部隊のリーダーをやってもらう。それぞれ4人の果実兵を部下にして行動するんだ。大まかな指揮は俺が出すから、お前達は指示をスムーズに実行できるように部下を動かしてほしい。出来るか?」
「「「「!!」」」」
リーダーに任命された果実兵達が任せろと胸を叩く。
これで何とかなる……かな?
「よし、それじゃあ改めて行くぞ!」
「「「「!!」」」」
再び遭遇したゴブリンの集団に、俺達は向かってゆく。
今度のゴブリン達は20、さっきよりも多いな!
「両端のチームは回り込んで背後を取れ! 中央のチームは真正面からゴブリン達を相手しろ!」
「「「「!!」」」」
すると今度は他の果実兵達も背後に行こうとはせずに、その場に待機し続ける。
「よし、今度はうまくいった!」
……と思ったんだが。
何と今度はど真ん中のチームから離れた位置にいる果実兵のチーム達が棒立ちになっていた。
「おいおいお前達も戦ってくれ!」
「「「「!!」」」」
俺の指示を受けて、ようやく左右の果実兵が動き出す。
「まさか、中央の部隊だけって言ったから、左右の部隊は指示を受けてなかった判断になったのか……」
つまり両端以外の部隊で戦えと言えばよかったという事……か?
「臨機応変ぇ……」
指示ミスによってトラブルに巻き込まれたものの、何とか勝利することは出来た。
数の有利と背後から攻撃のお陰だ。
「けど、このままじゃこちらよりも数の多い敵と遭遇したら間違いなく負けるぞ」
うーむ。味方の負傷者も増えてきたし、ここはいったん戻って作戦を練るとするか。
◆
「おかえりなさいおにいちゃん!」
「ただいまラシエル」
出迎えたラシエルを抱え上げて、抱き寄せる。
ラシエルは果実兵達が運んできたゴブリンを見ると、俺に尋ねてくる。
「またかじつへいをみのらせますか?」
うーん、確かに果実兵を増やしたくはあるんだが……
「その前に聞きたいんだが、果実兵ともっと連携を取りたいんだが、何かいい方法はないか? 今のままだと指示が上手くいかなくてもっと強い敵が現れたら負けてしまうかもしれないんだ」
「かじつへいとのれんけいですか……」
俺の言葉にラシエルは難しい顔になる。
うーん、これは無理そうだな。
やはり俺がもっとしっかりと指示を出すしかないか。
「おにいちゃん」
と思ったら、ラシエルが真剣な顔で俺を見つめてくる。
「どうしたラシエル?」
「あたらしいひりょうをぜんぶつかってもいいですか?」
「ん? それはかまわないが」
元々ラシエルの為に持ってきたものだ。それをどう使おうとラシエルの自由だしな。
「ありがとうございます! それではおにいちゃんがおのぞみのかじつへいとれんけいのとれるみをみのらせますね!」
「え?」
果実兵と連携の取れる実!? そんなのまであるのか!?
「むむむっ!」
ラシエルが気合を入れると、世界樹の枝にこれまでとは雰囲気の違う実が生り始める。
「これは……」
今まで実ってきた実は、なんというか果物の実の延長という感じだったんだが、今回の実はなんというか宝石のような輝きを放っていた。
「えーい!」
そして宝石の輝きを放つ実が完全に熟すると、ボトリと音を立てて落ちる。
だが実が地面に落ちる前にその形が変わってゆき、美しい人型の何かが華麗に着地した。
「果実将、お呼びに預かり参上致しました」
そういって立ち上がったのは、槍を手にした美しい鎧姿の女性だった。
「ラシエル、この人は……?」
あまりの事に俺は何が起きているのかと困惑する。
だってこの人、完全に人間にしか見えないんだけど!?
いやよく見れば頭の側面から青々とした葉っぱが生えていたりと、人間ではないっぽさがあるが、それでも見た目はほぼ完全に人間だ。
「このこはかじつしょう。おにいちゃんにかわってかじつへいをしきするしょうぐんです」
「果実兵を指揮する将軍だって!?」
まさかの新戦力に驚いていると、果実将は俺の前にやってきて優雅に跪いた。
「初めまして我が王。私は果実将。貴方様の忠実な僕です」
「あ、ああ、よろしく……」
明らかに俺よりも偉い人っぽいムーヴで臣下の礼を取ってくる。
ええと、これどうすれば良いの?
「我が王よ、よろしければ私に名前を授けてくれませんか?」
「え? 名前?」
ラシエルと初めて出会った時の様な事を言われて、俺は困惑する。
「ええと、そういうのは生みの親であるラシエルがつけたほうが良いんじゃないか?」
流石に妙齢の美人に名前を付けるとか、すごく抵抗がある
だがラシエルは首を横に振って拒絶する。
「このこのなまえはおにいちゃんがつけてあげてください」
お、おおう……マジかよ……
「……」
果実将は期待を込めた眼差しで俺を見つめてくる。
「う、うーん」
一体どんな名前を付ければいいんだ一体?
ラシエルの時は世界樹と妹の名前から思いついたけど、この人は……
「ん?」
ふと、改めて果実将を見つめると、俺はその眼差しに誰かを思い出す。
「リズ姉?」
ふと、かつて村で暮らしていた頃に仲の良かった年上の少女の事を思い出す。
「リズネェ、それが私の名前ですか?」
「あ、いや……ええと、ええっと……」
リズナ、それはかつて俺の村にいた姉の様に思っていた女性の名前だ。
ラシエルといい、何故この二人から故郷の皆の事を思い出してしまったんだろうか?
いや、今はそんな事を考えている場合じゃない。
早くこの果実将の名前を考えてやらないと。
だが一度思い出してしまった名前を消すことは出来ず、俺は強引に名前をひねり出す。
「リジェ、リジェなんてどうかな?」
「リジェ、それが私の名前!」
与えられた名前を聞いた果実将が、プルプルと体を震わせる。
リズ姉と果実将、つまり将軍であるジェネラルから強引に付けてしまったんだが、さすがにこの安直なネーミングは怒らせちゃったか!?
「リジェ! それが私の名前なのですね!」
と思ったら、果実将、いやリジェは恍惚の表情で身もだえを始めた。
「ええと、気に入って……貰えたかな?」
「はい! 我が王から直々に頂いた名前! 響きも素晴らしくて最高です!」
良かった、気に入ってもらえたみたいだ。
「よかったですねリジェ」
「はい、お母様!」
と言うか、リジェにとってラシエルは母親扱いなんだな。
確かに関係から言ったらそれが正しいんだが、見た目の上では明らかにラシエルの方が年下なので、その光景は非常に奇妙に見えた。
「ともあれ、よろしく頼むよリジェ」
「お任せください我が王!」
「ふわぁ~」
と、ラシエルがため息を吐きながらへたり込む。
「大丈夫かラシエル!?」
「はい。でもおおきなみをつけたから、つかれちゃいました」
どうやら果実将であるリジェを産み出す為に、結構な無理をさせてしまったらしい。
そうだよな。世界樹の聖霊とはいえ、この子はまだ子供なんだもんな。
それなのに俺の為に色々してくれようとして、本当に頭が下がる思いだ。
「ありがとうなラシエル」
「えへへ」
感謝の言葉と共に頭を撫でてやると、ラシエルが嬉しそうに笑みを浮かべる。
「よし、それじゃあ森に巣くうゴブリン達を倒して、村に平和を取り戻すとするか! 協力してくれるかリジェ?」
「お任せください我が王。私の指揮で果実兵達を一流の戦士に変えてごらんに入れましょう。全員整列!」
「「「「!」」」」
自信に満ちた表情の果実将が、号令をかけると、60体の果実兵が一瞬で綺麗に整列する。
「さぁ我が王よ、栄光を掴みに行きましょう!」
「ああっ!」
よし、指揮官を得た事で戦力は整った。
いよいよ本格的な戦いの始まりだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます