第7話 ゴブリン討伐作戦開始!

 新しく生まれた果実将であるリジェ達と共に、俺はゴブリン退治の為に森へとやって来た。

 指揮官であるリジェと、これだけの数の果実兵が居れば、ゴブリンの10や20怖くないな。


「では6人一組になって散開!」


 と思ったら、何故かリジェは果実兵達をパーティ分けして分散させてしまった。


「おいおい、メンバーを分けて良いのか? これからゴブリン狩りをするんだろ?」


 不安に思った俺に、リジェは問題ないと笑う。


「あまり大人数で動いても非効率ですので。ああ、ご安心ください。他の果実兵のパーティにも私が通信で指揮しておりますから、効率が下がる事はありません」


「通信?」


 なんだそりゃ?


「はい。遠距離の者と会話をする魔法の様なものです。あまりに長距離だと無理ですが、この森の中なら十分会話可能です。これで戦力を無駄に遊ばせずに作戦を遂行できます」


 へぇ、そんな事が出来るんだ。凄いな、俺も冒険者時代にそれが出来ていたら、メンバーとはぐれた時にもっと早く合流出来たのになぁ。


「それで、作戦って具体的には何をするんだ?」


「基本は少数のゴブリン達を各個撃破ですね。相手は我々の10倍以上の数ですから」


 そんなに差があるのか……って、ん?


「何で相手の数が分かるんだ?」


「すでに相手の拠点と、具体的な数は確認しています」


「ええっ!? いつの間に!?」


「私達は周囲の植物から情報を得る事が出来るのです。なのでこの先にいる植物からゴブリンの位置を確認しております」


「そんな事が出来たのか!? 凄いな!」


 凄すぎる、これも果実将の力なのか!?


「本来なら果実兵にも出来るのですが、彼らは私と違って会話が出来ませんし、栄養が少ないので我が王の命令に従う事しか出来ないので、その事を伝える事が出来なかったみたいです」


「はー、そうだったのか」


 確かに、果実兵達とは会話が出来ないからなぁ。

 と言うか、栄養が少ないからって、栄養が多いともっといろいろ考えて行動する事が出来るって事なのか?

 そういえば、リジェを実らせた時にラシエルが珍しく疲れた様子だったが、あれもその所為だったって事か?


「ただ敵の数は分かっても、強さまでは戦わないと分からないのが難点ですね」


「さすがにそう都合よくはないか」


 言葉で教えても、実感がないと理解できないのは人間と同じだな。


「とはいえ、相手の動きが分かるのは戦略上非常に重要です。我々は食料採取に出かけた数の少ない敵を一方的に先制攻撃出来るのが利点です。これで可能なら相手を殲滅、勝てなくても相手の強さを知ることができます」


「ふむふむ」


 確かにその通りだ。不意打ちが出来るかどうかで狩りの成功率は大きく変わるからなぁ。

 逆に相手に不意打ちされるとほんと困る。特に後ろから後衛を攻撃されるとパーティが崩壊しかねない……というか昔崩壊しかけた。


「なぁ、相手の強さを知るのは良いんだが、果実兵達で勝てない相手が出たらどうやって戦うんだ? 俺の見立てだと、果実兵の強さはホブゴブリンとそう大差ないぞ。ホブゴブリン以上のゴブリンと遭遇したら、果実兵達を集めて数で攻めるのか?」


 前の戦いでゴブリン相手には余裕で勝てたが、ホブゴブリン相手だと負傷してたからな。


「いえ、それについては訂正があります。彼等果実兵は、お母様の込めた栄養によって強さが変わるのです」


「そうなのか!?」


 またしても新しい情報に、俺は頭がクラクラしそうになる。


「無論強さに上限はありますが、それでも与える事の出来るだけの栄養を与えれば、果実兵達は更に強くなります」


 はー、栄養を与えれば強くなるとか、果実兵は便利だなぁ。

 あれ? でも待てよ。


「あーでも、今居る果実兵はこれ以上強くならないって事だよな?」


 そうだ、すでに世界樹から切り離された果実兵達はこれ以上栄養を与えられる事は無い。

 つまり今居る果実兵達は成長しないという話になる。


「いえ、すでに実った果実兵を強くすることは可能です」


「ええっ!? 出来るの!?」


「はい。肥料を撒いた栄養のある土に埋めれば、土地の栄養を吸って果実兵は強化されます。更にお母様の傍に埋めれば、お母様の力を分けて戴いて更に強くなります。今治療の為に埋まっている果実兵達も、傷が治れば以前よりも強くなっていますよ」


「おお! それは凄いな!」


 なるほど、果実兵は果物なのに畑の野菜みたいに土に埋めて成長できるのか。

 ああ、そういえば負傷した時に土に埋まって栄養補給をしながら治療するんだから、強化のために栄養を補給できでもおかしくないのか。


「そういう訳ですので、我々は一体でも多くのゴブリンを狩り、肥料となる物を集めてお母様に栄養を蓄えて戴き、これから実る果実兵と治療のために土に埋まる果実兵の強化をする事が急務となります」


「成る程な。そこまで考えていたんだ。いや、やるべき事がはっきりしてるのはありがたいな」


 正直俺一人じゃ、手当たり次第にゴブリン達を襲うくらいしか策を考え付かなかっただろうな。

いやほんと考える事の出来る人間、いや人間じゃなくて果物だけど……が増えるのはありがたい。


「ふふふ、これでも私、将軍ですから」


 俺が称賛すると、リジェは誇らしげに笑みを浮かべる。


「よし、それじゃあゴブリンを探そう!」


「ええ!」


「「「「!!」」」」


 俺の号令に、リジェと果実兵達が元気よく返事をした。


 ◆


「我が王、この先にゴブリンが居ます」


 森の中を歩いていたら、リジェがそう言って俺を制止した。


「凄いな、俺には何処にいるのか全然分からないぞ」


 これが森の中の情報が分かるリジェの力か。

 うっそうとした森の中だと、本当に便利な力だな。


「森は私達のテリトリーですからね。よし、お前達はゆっくり音を立てない様に回り込め。そして私達が攻撃を開始し、相手が反撃しようとした瞬間側面から奇襲しろ」


「「「っ!!」」」


 リジェの指示を受け、6人の果実兵のうち、三人だけがゴブリン達の背後に向かってゆく。

 おお、俺の時は指示した全員が同じ事をしようと動いていたけど、同じ果実から生まれたリジェが命じると細かい所まで指示が伝わるんだな。 いやホント、凄くありがたい。


「よし、それじゃあやるか」


「我が王」


 俺は剣を構えてゴブリンに襲撃を仕掛けようとするのだが、何故かそこでリジェが止めた。


「ここは我々だけで戦わせては戴けませんか? 我々の真価を、我が王に感じてほしいのです」


 ふむ、リジェとしては初陣だし、自分の価値を俺に見せたいんだろうな。

 それに確かに彼女の言う通り、リジェという指揮官を得た果実兵の力を確認してみたくもある。


「分かった。それじゃあ今回は任せるよ」


「お任せください!」


 リジェに全てを任せる事を許可すると、リジェがやる気に満ちた笑みを浮かべる。


「者共、行け!」


「「!!」」


 リジェの号令を受けて、果実兵達がゴブリン達に襲い掛かる。


「ギャガ!?」


 突然の奇襲に、ゴブリン達は反応できない。

 ゴブリンの数は7、ちょうどリジェ達と同じ人数だが、半分が後ろに回っているので今はこちらが人数的に不利だ。

 そしてリジェは指揮の為に後方で待機しているので、この戦いは完全に果実兵だけの戦いだな。


 果実兵達は3体で1体のゴブリンに襲い掛かり、確実に1体を撃破する。

 残り6体か。

 

「グギャガァッ!」


 仲間が倒され、ようやく敵襲だと理解したゴブリン達が武器を構える。


「ギャギャァ!!」


「「「!!」」」


「ギャガァーッ!!」


 ゴブリン達が反撃を行おうと果実兵達に武器を振りかぶると、側面から果実兵達が襲い掛かる。


「ッ!?」


 完全に意識外からの攻撃に3体のゴブリン達が致命傷を負う。

 これで残り3体!


「ギャギャギャッ!!」


 そんな中、一体だけ明らかに異質なゴブリンが雄たけびを上げた。

 そいつはゴブリンなのに人間なみに大きく、更に鎧を身に纏っていた。


「リジェ! そいつはゴブリンナイトだ! ホブゴブリンより強いぞ!」


 奴はゴブリンナイト。

 ホブゴブリンよりも強く、熟練の冒険者でも苦戦する相手だ。


「承知っ!」


 俺の言葉を受けて、初めてリジェが動く。

 リジェは足場の悪い森の中だというのに、まるで整地された石畳を走る様に危なげなく駆ける。


「はぁっ!」


「グギャアァッ!!」


 そして手にした槍を振るうと、一撃でゴブリンナイトの首が跳ね飛んだ。

 って跳ね飛んだ!?


「ええっ!? 一撃!?」


 そして返す槍で残り2体のゴブリンを串刺しにすると、槍を振るって刺さったゴブリン達を引き抜く。


「とまぁ、こんなところです」


 いや、こんなところですってあっさり言うか?

 ゴブリンナイトって結構強いんだぜ?

 それを一瞬で……


「す、凄いな、あっという間だったよ。それにリジェがこんなに強いとは思わなかったよ」


 果実兵達よりは強いと思っていたが、まさか一撃とは。


「ふふっ、これでも将軍ですからね」


 果実兵達の動きも良く、命令の意図も完璧に伝わる。そのうえ強いとは……


「植物達からの情報でこのゴブリンが他の個体と異質である事は確認していましたので私が相手をしましたが、これなら十分に栄養を補給した果実兵で対応できそうですね。ゴブリンナイト対策に何体かの果実兵は栄養を十分に補給することをお母様に提案するべきでしょう」


「そうだな」


 もしかして、さっき伏兵の果実兵達に側面からの攻撃を命じたのは、果実兵がゴブリンナイトとぶつからない様に配慮していたからなのか?

 実際の強さを確認する前に、そこまで考えて果実兵達を動かしていたのか。


「さぁ、次のゴブリンを狩りに行きましょう! 我が王!」


「ああっ! 今度は俺も戦うぞ!」


 リジェの強さと果実兵達の連携に問題ない事も分かったし、今度は俺も活躍するぞー!


 ◆


「ただいまー」


「おかえりなさいおにいちゃん!」


 村に帰るとラシエルが笑顔で出迎えてくれたので、俺はラシエルを抱きかかえて世界樹の根元に腰掛ける。

 既に他の果実兵達も戻ってきているようで、世界樹の根元にゴブリンの死体を埋めていた。

 うーん、座る場所変えたほうが良いかな?


「ただいま戻りましたお母様」


 回収したゴブリンの死体を果実兵に任せて、リジェがラシエルの下へと挨拶にやってくる。


「リジェはおやくにたちましたかおにいちゃん?」


 するとラシエルがリジェが役に立ったかと俺に聞いてきた。

 うーん、子供がちゃんと真面目に働いているか心配になった親みたいなセリフだな。


「ああ、凄く役に立ってくれたよ。ゴブリンだけでなく、食べ物や肥料になる物を沢山集めてくれたしな」


 そうなのだ。リジェはゴブリンを倒すだけでなく、道すがら食料や腐葉土などと言った、俺やラシエルの役に立つものも回収してくれた。

 元が世界樹から生まれた果実なので、人の利になる植物の居る場所が分かるのだとか。


「お役に立てたならなによりです」


 リジェが少しだけ誇らしげに微笑むと、ラシエルがリジェに手招きをする。


「リジェ」


「はい? 何でしょうかお母様」


 そしてラシエルと目線を合わせる為にしゃがんだリジェの頭を撫でた。


「えらいえらい。よくがんばりましたね」


「ふわっ!?」


 突然頭を撫でられたリジェが、これまでのクールな印象とは裏腹に驚きの声を上げる。

 そして最初は戸惑っていたものの、次第にその顔がだらしなく笑みを浮かべる。


「はわわわわっ……ふにゃあ」


「よしよし」


 ラシエルに撫でられる今のリジェの姿は、甘えん坊の大型犬の様だ。


「えへへ、お母様ぁ~」


「凄腕の将軍も、母親には形無しか」


 そしてリジェのなでなでが終わると、名残惜しそうにその手を見つめる。

 うーん、凛々しく戦っていたリジェとは別人って感じだな。


「じー……」


 なんて事を考えていたら、リジェの視線が俺に向いていた。


「ん?」


 そして俺の顔と手を交互に見つめている。

 これって、まさか……


「あー……リジェ?」


「はい!」


 リジェは期待に満ちた目でこちらに近寄ってくる。

 それも頭を撫でやすいように、やや頭を下げ気味で。


「よく頑張ってくれた、ありがとうな」


 その無言の要求に逆らえずにリジェの頭を撫でると、リジェの口から熱っぽいため息が溢れる。


「はにゃぁ……」


 もう完全にダラけた犬みたいだなぁ。

 さっきまでの猟犬はどこに行った?


 そしたら、またしても視線を感じた。


「ん?」


「じー……」


「「「「!」」」」


 見ればリジェの後ろには、ラシエルと果実兵達が列をなしているじゃないか。

 もしかしてこれは、全員撫でろって事か?


「「「「キラキラキラ」」」」


「お、おおう……」


 結局、俺はその眼差しに負けて、全員の頭を撫でる事になったのだった。

 うう、撫ですぎて腕が痛いぜ。

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