第2話 亡き友との再会

今朝、一人の男がコーヒーチェーン店の窓際のカウンターでカフェを飲んでいた。

どうやら時間を潰しているようだ。


ミリタリーのジャケットを着た男はどこか哀愁が漂っていた。


「そろそろ予約の時間だな、行くとするか・・・」


男は立ち上がり街外れにある雑居ビルに入って行った。

エレベーターに乗ると地下1階を押した。

地下1階でエレベーターを降りると・・・そこにはピンク色のネオン菅が輝いていた。


「ここが噂のメディテーションルームか・・・」


店の中に男が入って行った。


支配人ミタ「いらっしゃいませ、ご予約のお客様でしょうか?」

「ええ、予約していたキタニです」とミリタリーのジャケットを着た男が答えた。


支配人ミタ「キタニ様、お待ちしておりました。それではご案内いたします。こちらへどうぞ」


支配人のミタは奥の部屋へ案内した。

101号室へキタニは案内された。


VRCとボディに書かれた大きなイスにキタニは座った。

VRCが動き出した。キタニは仰向けになった。


上から大きなVRゴーグルが下りてきてキタニの目元を覆いつくした。


支配人ミタがいつものセリフを言った。

「ここはお客様がご自由に仮想世界をお楽しみいただける瞑想の部屋です。

実に様々なお客様にご来店いただいております。


きっと他にはない特別な体験をすることができるはずです。

肩の力を抜いてリラックスして席にお座りください。


それでは始めさせていただきます!3・2・1・・・GO!」


キタニの視界にはVRゴーグルの中で山々の風景が映し出されていた。


キタニ「ああ、懐かしい・・・あの山だ」

俺は大学を卒業して26才になった。でも、あいつはあのとき亡くなったから22才のままなんだろうな・・・。


大学を卒業する前に登った最後の山で遭難したんだ・・・確か。


二人で最後に登った山を見るとキタニの目には涙が溢れていた。

そして、後ろから聞き覚えのある声がした。


「あれ?キタニ、久しぶりだな・・・」


キタニはまさか!?と思い振り返った。そこには大学時代、一緒に山岳部として過ごした亡き友人ユウジの姿があった。


キタニは震えた・・・。

キタニ「ユウジ・・・・!お前なのか!?」

ユウジ「ヤダなぁ。4年も経ったら俺の顔、忘れちゃうのかよ」

ユウジは笑っていた。


キタニは目を丸くして驚いた・・・。

仮想世界では過去や未来、もしくは異次元でもなんでも体感できると言われていた。だが、これは紛れもなく俺が一緒に山を登った友達のユウジだ。


キタニは地面に膝をついた。そして、ユウジに謝罪の言葉を述べた。

キタニ「ごめんなぁ・・・ユウジ。あのとき俺も体力や意識が限界でお前を助けられなかったんだ。先に救助された俺がなんとか生き残ることができたけど、お前は一歩遅かったと救助隊に言われたよ」


キタニは目を真っ赤にして泣いていた。

ユウジはキタニの肩にそっと手を当てて話し始めた。


ユウジ「いや・・・いいんだよ。お前が俺の分までしっかり生きてくれたらそれでいいんだ。俺もあのとき自分が助からなかったことぐらいわかっていたよ」


キタニは感情がたかぶって言葉が出なかった・・・。

涙だけがボロボロとこぼれていた。


いろんな感情が入り混じって心の整理が付かなかった。


ユウジは「気にするなって、お前のせいじゃないんだから」と友を思いやる気さくな話し方だった。


キタニはしばらくしてやっと落ち着きを取り戻した。

やっと心の整理がついたキタニだった。あれから4年間、彼は心から喜んだり、笑えることがなかった。


ずっと亡き友のことを考えていた。


そんな彼がこのメディテーションルームを利用しようと考えたのは、亡き友ユウジに会って話をして心の浄化をしたいと思ったからだった。


落ち着きを取り戻したキタニはユウジと山の頂上で思い出を話した。たくさんお互いの思い出を話してお互いを懐かしんだ。そして、別れの時間が来た。


キタニ「ありがとう!ユウジ。お前にまた会えるとは思わなかった。こうやって話したかったんだ。俺はお前と一生、友達のままだ。もしまた会いたくなったら、ここに来るよ。またな!」


ユウジ「ああ、お前は自分の人生をがんばれ!俺は山岳部でお前に出会えてよかったと思っている。それに山が危険なことぐらい、俺たちはわかっていたんだ。わかっていてチャレンジしたんだよ。だから、代償はあっても構わなかったさ。じゃあな、また時間があるときに話そうぜ」


キタニは心の中でひっかかっていたモヤモヤがスッキリ晴れて、やっと心の底から笑える笑顔を取り戻せた。

これからの人生で起こることに対して、喜びや嬉しさも感じられるようになった気がした。


スッキリした気分で亡き友と別れると視界は暗くなった。

VRゴーグルがうえに上がり、VRCは元のイスの状態に戻った。


支配人ミタ「いかがだったでしょうか?当店のサービスに満足いただけていましたら幸いでございます。またのご来店をお待ちしております」


キタニ「支配人のミタさん、ありがとう。このサービスは俺にとって特別だったよ。本当に感謝してもしきれない」


支配人ミタ「こちらこそ、ありがとうございます。キタニ様に満足していただけて私も光栄でございます」

ミタは笑顔で深々と頭を下げた。


メディテーションルームのサービスが終わって店を後にしたキタニだったが想像していたものよりも鮮明に画面に映し出された友ユウジに出会えたことに驚いていた。

それにユウジが自分の肩に手を置いたときの感触もリアルだった。


まるで目の前に本当に亡き友がいるように感じられた。


噂ではこのメディテーションルームは「仮想世界」を自由に操れるという話がある。

過去、未来、異次元、自分が見たいものが見れて、会いたい人に会えるという。


現実に起きた過去を見ることができたり、まだ見たことがない未来が見えたり、キタニのように亡くした友人に出会えるケースもある。


本人が望むもの、望んだ結果を映し出すといわれている。


俺もここに来るまでは、にわかに信じがたかった。しかし、刑事がここを利用して事件の犯人を捕まえたという話まである。


きっと事件があった当日をVR越しに刑事は目撃したのだろう。


確かにここを利用する客は多種多様であり、様々な人がいろんな理由でここに来ることがわかった。


キタニにとってメディテーションルームはなくてはならないものになっていた。

彼だけではなく、一度利用した客がリピーターになることが多いそうだ。


支配人のミタとVRCと書かれたマシーンにはまだまだ謎がありそうだ。







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