The Meditation Room

hiroumi

第1話 刑事

ここは街外れの人通りも少ない雑居ビルだ。

このビルに入っている店には”最近、噂になっている”サービス業を展開している店があるという。

その店には実に様々な客が来店しているそうだ。


客層は職業も性別もバラバラで使う用途も多岐に渡るそうだ。

それにも関わらず、お店のサービスは”同じ”である。

実に不思議なサービス業なのだ。


私が今回そのサービスを受けるきっかけになったのは”ある事件”があったからだ。

どうしても自分では消化できないことがあったので友人の勧めでここへ来た。


雑居ビルを地下1階に降りると、そこには「メディテーションルーム」という文字をかたどったネオン菅がガラスのショーウィンドウに取り付けられていた。


どうやらこの店らしいな・・・。

ネオン菅の色はピンク色でかなり怪しい雰囲気だ。


さっそくお店に入ってみよう・・・。


ドアを開けて中に入ると雑居ビルに入っている店舗には珍しくとてもキレイに整理整頓されていた。

どこかオシャレな雰囲気を感じさせる。


店に入ると芳香ほうこうの香りが漂っていた。


「いらっしゃいませ!ご予約のお客様でしょうか?」

「ええ、予約していたゴトウです」

「ゴトウ様、お待ちしておりました。支配人のミタでございます。こちらへどうぞ」


私は支配人のミタの指示に従って、奥の部屋へと進んでいった。

奥の部屋には左右に部屋がずらりと並んでいる。


私の部屋は3号室だそうだ。


大きなマッサージチェアのようなものに座った。ボディにVRCと書かれている。

座ったらすぐにVRCが仰向けの体勢になるように形を変形させた。


上から大きなVRゴーグルが下りて来て、私の目を覆いつくした。


どうやらこのVRCと書かれたマシーンでは実体験をしたかのような体感が得られるらしい。

手を置くひじ掛けが端末機になっていて電気信号が伝わってくるそうだ。

神経に電気信号を送ることによって五感を感じるようになるってやつかな・・・。


支配人ミタがいつものお約束の言葉を言う。

「ここはお客様がご自由に仮想世界をお楽しみいただける瞑想の部屋です。

実に様々なお客様にご来店いただいております。


きっと他にはない特別な体験をすることができるはずです。

肩の力を抜いてリラックスして席にお座りください。


それでは始めさせていただきます!3・2・1・・・GO!」


ゴトウ刑事の視界には、事件があった現場が再現された。


ゴトウ刑事「あの日の事件前だ・・・」

このあとすぐに事件が起きる・・・。

ゴトウ刑事はツバを飲み込んだ。


マンションの一室に女性がいる。見た目は20代で紺色のスーツを着ていた。

家に帰ってきたばかりのOLのようだ。


女性は料理をしていた。鍋料理みたいだな・・・。


玄関のチャイムが鳴った。


女性「はーい、今、出まーす」

ゴトウ刑事「あっ!待て!開けるな・・・」


ゴトウ刑事の声は女性には届かない。


女性は玄関のドアを開けると覆面をした男が押し入って来た。

女性「キャー!誰?何するの!?」


覆面の男は女性の上に馬乗りになり彼女の両手を抑えつけた。

それでも必死に抵抗する女性の足がバタバタしている。


覆面の男「やぁいつも見てたよ。なんたって俺は向かいのマンションの同じ階に住んでいるからな」

女性「いやぁヤメテー!誰か助けてー」


覆面の男は嫌がる彼女の服をムリヤリはぎ取った。

覆面の男「たまらねぇな・・・いい体してると思ってたぜ」


覆面の男はそのまま抵抗する女性をレイプした。

セックスが終わると覆面の男は立ち上がり台所へ向かった。


台所のコンロに火をつけて鍋を置いた。そこに油を入れて女性が料理の途中だった鶏肉をそのまま鍋の中に入れた。


そして、台所から出火したように見せるために近くにある燃えやすそうなものに火をつけて台所にばらまいた。


そして、男は立ち去った。


レイプされて放心状態だった女性は火事に巻き込まれて死んでしまった。


ゴトウ刑事「この会話は本物のようだが・・・まさか?」


ゴトウ刑事が見ていた画面が真っ暗になりVRゴーグルがうえに上がった。

VRCが元のイスの状態に戻った。


支配人ミタ「いかがだったでしょうか?仮想世界をお楽しみいただけましたか?それではまたのご来店をお待ちしております。本日は誠にありがとうございました」


ゴトウ刑事「一つ聞きたいんだけど、この仮想世界で体感した声や動きっていうのは実際に”起きていたことなのかな?”」


支配人ミタ「ええ、過去に戻れば実際に起きていたことが再現され、未来にいけばこれから起きることが体感できます」


ゴトウ刑事は、にわかに信じられない・・・といった様子だった。

じゃあ犯人は向かいのマンションに住んでいる奴ということになるが・・・・?


この事件は火事で片付けられようとしていた。事故と事件の両面から捜査が進められていたが、あまりにも手掛かりが少なかったため「事故」と判断されそうになっていた。


料理している女性が玄関付近で倒れているのを見れば、事件だと誰でも気づくはずなのに・・・だ。

残念ながら犯人の手によってマンションの一室が焼けて何もかも証拠が隠滅されてしまっていたのだ。


そこはゴトウ刑事の勘が働いていた。


玄関のところで女性が倒れていたが火事から逃げようとして玄関に向かって倒れていたのではなく、玄関で何かがあったため、中に入ろうとして倒れていたのだと推理したのだ。


ゴトウ刑事はすぐに捜査班に連絡を入れた。


ゴトウ刑事「事件があった場所の向かいのマンションの同じ階に住んでいる住人を調べてみてくれ」とケータイから捜査班の一人に連絡した。


捜査班の一人「ハイ、わかりました。すぐ調べます」


この後、マンションの向かいの同じ階に住んでいる住人はすべてリストアップされた。

その中でもっとも怪しかったのは、事件のあった部屋の真向かいで大柄な男が一人で住んでいることだった。

他の住人は夫婦、家族、女性のみであった。


犯人と思われる大柄な男は、事件が起きた後に引っ越しをしていることもわかった。

捜査班は行き先を調べて星をマークした。

その数ヶ月後に殺人・強姦・放火の容疑でその大柄な男は逮捕された。


ゴトウ刑事は事件に巻き込まれた女性の墓に花束を持って行った。


ゴトウ刑事「お嬢さん、事件は解決しましたよ。無事、犯人を逮捕することができました。あなたに酷いことをした男はこれから法廷で裁かれます。

あなたの恨みは私が晴らしました。安心してください。

それでは私はこれから仕事があるのでこの辺で失礼します」


事故ではなく事件として無事、解決できた。

ゴトウ刑事はホッとした。


事故や事件は時間と共に風化して忘れられる。時間が過ぎれば犯人の特定も難しくなる。


今回はわらをもすがる気持ちで「メディテーションルーム」を利用した。


思わぬ収穫があったが支配人が言っていた「過去に戻れば過去が見える」「未来に行けば未来を体感できる」という言葉が未だに信じられなかった。


それでも問題の解決に至ったのはあのメディテーションルームのおかげなのだ。


ゴトウ刑事、33才の試練はまだまだこれから続くのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る