第8章 護衛選抜試験編

第142話 モルドレッド学園長の提案

 アデルたちがオルブライト王国から帰国した翌日。

 国別異能対戦に参加した五人は学園長室を訪れていた。

 学園長に大会結果を報告するためだ。


「――ということがありまして、大会は中止になりました」


 シュヴァルツが事の顛末をモルドレッドに報告する。


「そうか……いや、君たちに怪我がなく何よりだ」


 モルドレッドはそう言って五人を労った。

 

「しかし"クリファ"か、ふむ……」


 モルドレッドが少しだけ思案気な顔を見せる。


「何か気になることでも?」

「まあ、な。そちらに関しては私も調べてみよう。ところでアデルくん」


 モルドレッドはシュヴァルツの問いに鷹揚な態度で答えた後、アデルへと視線を向けた。


「なんでしょうか」

「クリフォト教国にいくということだが本当かね。それもリーゼロッテくんと二人で」

「はい」


 モルドレッドの問いにアデルは頷く。

 なんで知っているのかと聞き直したりはしない。

 アデルの返事を聞いたところで、モルドレッドの雰囲気が変わった。

 その場にいた全員が姿勢を正す。


「そうか。私としては今のままでは許可できない」

「なっ!? どうしてですか!」


 そう言って声を荒げたのは、リーゼロッテだ。

 彼女の父親である公王とアデルの父親であるディクセンが許可しているのだ。

 リーゼロッテの反応は理解できる。

 だが、アデルは憤慨するリーゼロッテの肩にそっと手を置いた。


「落ち着いてください、リーゼロッテ」

「でも……!」

「学園長はと仰ったではありませんか」

「そ、そういえば」


 リーゼロッテがハッとした表情を浮かべる。

 アデルは優しく諭すように言葉を続けた。


「学園長が提示した問題を解決すれば許可を頂ける、ということで宜しいですよね?」

「ああ。あの一言だけでそこまで読み取れる洞察力、見事だ」

「恐縮です」


 アデルが頭を下げる。


「問題の内容というものに興味がありますね」

「ボクも気になるなぁ」


 反応を示したのはシュヴァルツとヴァイスだった。

 リーラは関心がないのか、直立不動を崩していない。


「なに、それほど難しいことではない。言うまでもないがアデルくんは世界最高の魔力の持ち主というだけでなく、類まれなる異能を扱うことができる」


 モルドレッドがアデルを見ながらそう言った。

 なお彼が言う「類まれなる異能」とは、「英雄達の幻燈投影ファンタズマゴリー」だけではなく、「魔力供給エイル」も含まれている。

 

「更にリーゼロッテくんは優秀な生徒であると同時に、この国の第一王女という立場だ。二人だけで教国にというわけにはいくまい」

「シャルロッテ様も同行しますが?」


 アデルの問いかけに、


「シャルロッテ・ウル・オルブライトの力は素晴らしいものではあるが、彼女はあくまでオルブライト王国の人間だ」


 モルドレッドは迷わず即答する。

 なるほど、とアデルは頷いた。

 確かにシャルロッテが一緒だから安心だということにはならない。

 シャルロッテも一人だけでクリフォト教国に行かないだろう。

 

「護衛が必要ということですね」


 いち早くモルドレッドの意図に気づいたアデルがそう告げると、


「その通り。そして人選は学園内の生徒から決めるつもりだ。既に公王の許可も得ている」


 モルドレッドの言葉に訝しげな表情を返さなかったのはアデルとシュヴァルツだけだった。


「学園内の生徒から……全学年が対象ですか?」

「さすがに四年生は対象外だが、一年生から三年生までの全てのクラスから募集をかけることになるだろう」


 シュヴァルツの疑問にモルドレッドが答える。

 それに強く興味を示したのはシュヴァルツではなくヴァイスだった。


 彼はオルブライト王国で起きた、アイリス教皇襲撃事件に関する報告をアデルから聞いている。

 襲撃犯に対しては全く惹かれるものがなかったのだが、"クリファ"は別だ。

 講義でしか聞いたことがない、人類を絶滅の危機へと追いやった未知の生物。

 今まで自分とまともにやりあえるのはシュヴァルツやリーラを含めても、片手で足りる程度しかいない。

 戦うことがなによりも好きなヴァイスにとって、"クリファ"と戦えるかもしれないというのは、非常に興味がそそられる話だった。


「護衛自体は仕方のないことかと思いますが、そもそもリーゼロッテの護衛はリビエラさんがいますが?」

「それは問題ない。君たち一人につき二人の護衛をつけるつもりでいた。リビエラくんは特例として選抜試験に参加することなく、リーゼロッテくんの護衛にということで公王とも話をつけてある」


 リビエラを護衛につける代わりに他の護衛はモルドレッドが選抜した人員をという取り決めがなされているのかもしれない。

 一人につき二人の護衛というのも悪くない。

 教国に行く理由を考えれば分かることだが、護衛が多すぎると人目につくし、身動きが取りにくくなるからだ。

 それに恐らくシャルロッテもゼクスとノインを連れてくるだろう、アデルはそう考えていた。


「はいはーい! 護衛はどうやって決めるんですか! 試合形式とか?」


 ヴァイスの問い掛けに、モルドレッドは悠然と首を左右に振った。


「そのあたりは検討中だが、少なくとも戦闘能力の多寡だけで決めはしない」

「えー、試合形式が手っ取り早いと思うけどなぁ」

「詳細は後日追って連絡しよう。無論、護衛には危険が伴うので参加する際に誓約書にサインしてもらうが」


 危険が伴うのは当然だ。

 "クリファ"復活を目論むような輩を相手にするのだ。

 アデルたちが相対した賊は異能持ちではなかったが、だからといって全員がそうだとは限らない。

 それに異能でなくとも物理的な攻撃を直接受ければ怪我だってするし、場合によっては命の危険もあるだろう。

 

 誰だって己の命は大切だ。

 ならば自分たちの護衛を希望する生徒は少ないのではないか、アデルはそう考えていた。

 

「私からは以上だ。今日はゆっくり休み、明日からまた頑張ってくれ」


 モルドレッドはそう言って、この問題に関する話を終わらせた。

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