2-3

それから佐倉は、昼休みと放課後の時々に屋上へ顔を出すようになった。

そして、私と同じように給水塔の上で本を読んだり、何かを書いたりしている。

なんで来るんだよって気持ちだったけど、別にここは私専用の場所ってわけじゃないし、黙って静かにそこにいるだけだから邪魔だとも言いづらく、仕方ないから放っておくしかなかった。


時々話しかけてきたりするけど、察しがいいのかちょうどこちらの集中力が途切れた時を狙ってくるので、余計に遮断しにくい。どうせ暇だし、と構ってしまう。

話をする時、佐倉の瞳はじっとこっちを見据えている。


だけど、不思議と自分が凝視されているという感覚は無くて、その眼を見返すことに恥ずかしさを感じたりすることはなかった。

人の目を見て話せと言われたことはあるけれど、ここまで実践しなくてもいいのではないか、と少し思ったりはした。


そんな風にやたらと構われるもんだから、一度はまさかこいつは私に気があるんじゃないかと勘繰りもしたけど、普段の様子を見るにそんなこともなさそうだ。

そういう雰囲気を出そうという気が全く感じられない。


まぁ、私にはそんな経験無いから単に気付いてないだけかもしれないけど、それでも、佐倉の様子は普通過ぎる。

本当にこの場所が気に入っただけなのだろうか?

それを訊いてみたいという気持ちがないわけではないけど、薮蛇になりそうなので躊躇している。


とにかく、私だけのものだったこの場所に、するりと佐倉が入り込んできた。

周りの景色に同化していて、自分がそれをいつの間にか受け入れてしまっているのが、なんだか悔しい。



夏休みに入るまでずっと、そんな感じの関係が続いていた。

さすがに休みに入れば屋上には行かなくなる。

元々引きこもり気質の私だから、用がなければ学校に行くはずもない。


でも、時々、あの場所の解放感が恋しくなる。

暇を持て余したときは、あいつと話でもしようかと思ったりもする。

その度に、私は佐倉の連絡先を知らないということに気付いて少しがっかりするのだった。

暇潰しの相手がいない。

そのことにである。


去年と同じような夏休み。

少し違うのは、ちょっとだけ、早く終わらないかなという気持ちが自分の中に湧いていること。

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