1-7
「なぁ佐倉。このあとラーメン食いに行かね?腹減った」
ぼんやりと空を眺めていた田島が口を開いた。
「あぁ、いいけど」
「よし、じゃぁ行こうぜ」
田島はそう言ってフェンスから身体を離して扉へと向かっていく。
追いかけようとして、僕はふと思い立って歩を止める。
その様子を怪訝に思った田島が振り向く。
「おい、どうしたんだよ」
「ちょっと先行ってて」
「ん?何かあんのか?」
「ちょっとね。すぐ終わるから、下で待っててよ」
そう言う僕に対して不思議そうな表情を浮かべつつも、田島はわかったと言って扉の方へ再び向かい始める。
僕は、田島が屋上から出て階段を下りていったのを確認すると、入口の建物、給水塔の備えられたそれの横へと周りこむ。
梯子がついている。多分、間違いない。
はたしてその梯子を使って建物の屋根へと上ると、そこでは一人の女の子が給水塔に寄りかかりながら静かに読書をしていた。
瀬尾陶子。彼女である。
「やっぱり瀬尾さんだ」
瀬尾さんは本から目を離し、屋根に上がってきた僕の方を見る。
「……気付いてたんだ」
「まぁね」
屋上に来てすぐ、瀬尾さんの名前が出たときに建物の上から物音がした。もしやと思って来てみれば、予想通り彼女がそこにいたというわけである。
「で、わざわざ何しに来たの」
瀬尾さんが淡々と口を開く。少し突き放すような印象があるのは気のせいではないだろう。
「ちょっと謝りに」
「は?」
彼女は、何のことだかさっぱりわからないといった感じの表情だ。
「さっきまでそこでしてた話。気持ちのいいもんじゃなかっただろうなって思って」
自分の噂話をされるというのは、ましてやポジティヴではない話題となれば、あまり気分の良いものではないだろう。
「ごめんね」
「……いいよ、そんなこと。ほんとのことだし」
彼女は相変わらず無表情だ。
しばらく、無言のまま互いに顔を見つめあっていた。
「ねぇ、用はそれだけ?」
痺れを切らしたのか、瀬尾さんが口を開いた。
「うん」
「だったら早く戻ったら?人、待たせてるんでしょ」
「そうだね、そうするよ」
僕の用はもう済んだし、あまり歓迎もされていないみたいだから、お言葉通り、田島の元へ向かうとするか。
ただその前に、一つだけ彼女に聞いておこう。
「瀬尾さんって、いつもここで本読んでるの?」
「それが何か?」
「いや、なんでもない」
こういう答えが来るだろうという予想通りの反応であった。
そして梯子を下りる際、もう一度瀬尾さんの方へ向き、僕は口を開く。
「それじゃぁまた明日」
瀬尾さんの返事はなかった。
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