堆積する日常について
2-1
佐倉乙彦。確か彼はそういう名前だったはずだ。
二年になって最初のホームルームで、全員が自己紹介をさせられた。その時に聞いたきりだから多少曖昧だが、違っていたところで別に構わない。
あの日以来、彼は私に構うようになってきた。
*
「瀬尾さん、おはよう」
「……おはよう」
屋上で佐倉と遭遇した翌日の朝、彼は昨日と同じように声をかけてきた。
「何、読んでるの?」
「なんだっていいでしょ、興味でもあるの?」
「まぁね」
なんだか嘘っぽい。
「……ただのライトノベル。多分、君は知らないよ」
「だろうね。僕、あまり本読まないから」
やはり嘘ではないか。
「ていうか、ライトノベルってどんな本のことを指すの?そのあたり、よくわからないんだよね」
「私だってわからないよ。ただ、出してる側がライトノベルだって自称してるからそう呼んでるだけ」
「普通の小説とどう違うのかな?」
「違いっていうか、境界線なんてないんじゃないの?」
そういうのややこしいし、考えたくない。
「そういうもん?」
「言ったじゃん、私だってわからないよって」
「それもそうだね、ごめん」
私は大きく溜息を吐く。こいつ、なんだか言動がふわふわしてて落ち着かないな。
「……用はそれだけ?」
「ん、まぁ、そんなとこ。読書の邪魔してごめんね」
「いいよ、別に」
謝り癖でもあるのか。
「じゃぁね」
この私の返事を聞いて、佐倉は自分の席の方へと去っていく。
実際のところ、読書に対する集中力はほとんど途切れていて頭を持て余していたところだなんだけど、それは言わないでおこう。
人を相手にするのは疲れる。
そして、そんな私をクラスの一部の連中が怪訝そうな目で見てくることには、もう慣れている。
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