1-4
「なぁ佐倉。お前、瀬尾と何かあったの?」
昼休みが始まるなり僕の席までやってきた田島が、声を潜めながら唐突に訊いてきた。
「は?何?何の話?」
「いや、朝、話してたじゃん。内容は知らんけど」
こいつの席まで聞こえるような音量ではなかったからな。
何かあったと言えば確かにあったが、しかし、昨日のことを具体的に話すのもいかがなものだろうか。
「ん、まぁ、昨日の帰り際に遭遇した」
ということで、名誉を守りつつ、嘘にならない程度にボカして伝えることにした。
「遭遇したって、そりゃそんくらい誰にでもあるだろ。……いや、そうでもないか」
「なに一人で完結してるんだよ。話が見えないぞ」
「ん、あぁ、瀬尾ってさ、ほら、今みたいに昼休みとかになるとすぐどっか行っちまうから」
田島はそう言って後ろの席を指差す。
授業が終わるまでは確かにそこにいたであろう瀬尾さんは、影も形もなく消えていた。
「だからさ、案外、遭遇してるやつ少ないかもなって思ってよ」
「それはいいんだけどさ。どうして瀬尾さんのこと訊いてきたわけ?別に僕が誰かと話すのが珍しいわけじゃないだろ?」
「んー、まぁ、そうとはいいづらいけど、それでいいや。俺が言いたいのはお前じゃなくて、瀬尾の方だよ。あいつが人と話してんの見るの、かなり久しぶりだわ。授業中に当てられたときくらいしか声聞いたことないんじゃないかってくらいだよ」
「そんなに?」
「だよ。お前だってそうだろ?」
「……確かにね」
そもそもクラスメイトだという認識すらなかったのだから記憶以前の問題だが、それは置いておこう。
「昨日遭遇したって言ってたけどよ。その時もなんか話したのか?」
「いや、特に会話はしてないよ」
彼女があの様子だったし、できるはずもない。
「ふぅん……」
「それがどうしたってんだよ。瀬尾さんのこと、気になってんの?」
僕は田島に問い掛けた。
そもそも、なぜこいつが瀬尾さんのことを話題に出してきたのかがわからない。
「いや、気になるっていうか、瀬尾だからさ……ほら」
「ほら?」
田島は僕の返事を聞いて、何かに気付いたような顔をする。
「そうか、お前はあの噂、知らねぇんだな」
「噂?どんな噂だよ」
「あー、ま、今話すような内容じゃないんだよな、これ」
田島はそう言って、周囲に目を配るような仕草をする。
人がいると気兼ねするような話なのだろうか。
「気になるか?」
田島が訊いてくる。
「そりゃそんな話し方されたら気になるに決まってんでしょ」
「だよな。そんじゃぁ放課後にでも続き話すよ」
「あぁ、別にいいけど……」
「今はとりあえず飯行こうぜ」
そう言う田島に引っ張られ、僕は食堂に向かった。
なんだかモヤモヤとした気持ちが残りはしたが、きっと放課後には解消されるのだろう。
とりあえず、今は目の前の空腹を埋めるのを優先しよう。
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