1-3


翌日の朝、教室に入って驚いた。

僕と瀬尾さんはクラスメイトだったのである。


教室の窓際、その最後部で窓の外を眺める姿は正しく昨日の彼女であった。

何故そのことに昨日は気付かなかったのか、全くもって不思議でならない。

昨日は散らばって乱れていた黒髪は、今日は丁寧に撫で付けられているようだ。

驚きのあまりじっと見つめていると、彼女がこちらを向いた。

すると、無表情だったそれがばつの悪そうな顔に変わる。


そのままただ目を合わせているのも難だったので、僕は彼女の席へと近付き、声をかけた。

「おはよう」

「……おはよう」

だいぶ間はあったが、返事はあった。

「体調の方は平気なの?」

「……うん、平気」

なによりだ。

「大丈夫だって、昨日も言ったじゃん」

「昨日のあの様子じゃぁ無理があるよ」

「……ていうかさ、さっきの表情、何?まるで「昨日はクラスメイトだって気付かなかった」みたいな顔してたけど」

言い返せなくて話題を変えたようだ。

しかし、表情だけでよくわかるなそんなこと。

「その通りだよ。なんかごめん」

僕は誤魔化さずに答えた。

「別にいいよ。そもそも目立ちたくないし、その方が気が楽」

彼女は、はぁ、と大きく溜息を吐いた。


「用は終わり?ならさっさと席についたら?そろそろホームルーム始まるよ」

彼女が言う。

どうやら、会話はここで打ち切りということらしい。

「わかったよ。それじゃぁ」

彼女の態度はつっけんどんという感じだが、昨日の様子からするにそれがデフォルトなのだろう。あまり気にすることではない。


それよりも、僕にはずっと気になっていることがあった。

瀬尾さんと会話をしている間、ずっと教室の一部から感じていた、奇異の目で見られている感覚のことだ。

彼女の席を離れ自分の席へ戻る間も、微かにそれは続いていた。

なんだかむず痒くはあったのだが、ホームルームが始まる頃にはすっかりそのことを忘れてしまっていた。


何故、そんな目で見られていたのか。

僕がその理由を知るのは、少しだけ時間が経ってからのことだった。

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