4-4

電話がかかってきた。知らない番号からだ。

放っておいても一向に鳴り止まないから、いったん店の外に出て、電話に出ることにした。


「遅い!」

通話ボタンを押して聞こえてきたのは、そんな一声だった。

「……瀬尾さん?」

「そうだよ」

「どうしてこの番号知ってるの?教えたことないよね?」

「田島に聞いた。けど、今はそんなことどうでもいいでしょ」

いや、どうでもよくはないが。


「佐倉、あんた、今どこにいるの」

「どこって、えっと駅近くの喫茶店の……」

なんて名前の店だったか。

店名も確認せずに適当に入ったので、すぐにはわからない。

「いいよもう、どこでもいい」

どこかに店名が書いてないか探していたら、瀬尾さんの方から会話を打ち切られた。


「どこでもいいからさ。今から学校に来て」

「は?」

「学校。屋上。いつもの場所」

「え?」

唐突過ぎる。

「とにかく、今すぐ来て」

「いや、いきなりそんなこと言われても……」

アイスコーヒーがまだ飲みかけなんだけど。

「いいから。話したいこと、あるの」

「それって、電話じゃダメなの?」

「ダメ」

にべもない。

「待ってるから。絶対来てよね」

瀬尾さんはそう言うと、僕の返事も待たずに通話を切ってしまった。


いったいなんなんだ。

そんなことを思いつつも、なんだか無視するわけにもいかない気がしていて、店内に戻った僕は残っていたアイスコーヒーを一気に飲み干して、店を後にしたのだった。

冷えたものを一気に摂取したから、首の裏が痛い。



実習棟の奥。いつもの屋上。

私は入口の扉から真っ直ぐ進んだ先にあるフェンスに寄りかかり、佐倉を待っていた。

あいつは確か駅の近くにいると言っていた。

自転車なら急げば五分もかからない。

そろそろ来るころだろう。

そう思っていたら、扉の奥にある階段から足音が響いてきた。

心臓の鼓動が高鳴る。

身体の熱が、増していく。


ドアノブがガチャガチャと動かされ、鍵の開く音がした。

扉が、開かれる。



彼は、どこにもいなかった。

もう帰ってしまったのだろうか。


あれから何度か電話をかけてみたけれど、彼は出てくれなかった。

自分の気持ちは決まったけれど、向ける相手がいなければどうしようもない。

だけど、明日までこの感情を持ち越すなんて、我慢出来そうにない。

家に押し掛けてしまおうか。隣同士だから、それも簡単だ。


そんなことを考えていたら、ふと気付いた。


そういえば、あの場所をまだ探していなかった。

私の足は、自然とそこへ向かっていた。

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