4-4
電話がかかってきた。知らない番号からだ。
放っておいても一向に鳴り止まないから、いったん店の外に出て、電話に出ることにした。
「遅い!」
通話ボタンを押して聞こえてきたのは、そんな一声だった。
「……瀬尾さん?」
「そうだよ」
「どうしてこの番号知ってるの?教えたことないよね?」
「田島に聞いた。けど、今はそんなことどうでもいいでしょ」
いや、どうでもよくはないが。
「佐倉、あんた、今どこにいるの」
「どこって、えっと駅近くの喫茶店の……」
なんて名前の店だったか。
店名も確認せずに適当に入ったので、すぐにはわからない。
「いいよもう、どこでもいい」
どこかに店名が書いてないか探していたら、瀬尾さんの方から会話を打ち切られた。
「どこでもいいからさ。今から学校に来て」
「は?」
「学校。屋上。いつもの場所」
「え?」
唐突過ぎる。
「とにかく、今すぐ来て」
「いや、いきなりそんなこと言われても……」
アイスコーヒーがまだ飲みかけなんだけど。
「いいから。話したいこと、あるの」
「それって、電話じゃダメなの?」
「ダメ」
にべもない。
「待ってるから。絶対来てよね」
瀬尾さんはそう言うと、僕の返事も待たずに通話を切ってしまった。
いったいなんなんだ。
そんなことを思いつつも、なんだか無視するわけにもいかない気がしていて、店内に戻った僕は残っていたアイスコーヒーを一気に飲み干して、店を後にしたのだった。
冷えたものを一気に摂取したから、首の裏が痛い。
*
実習棟の奥。いつもの屋上。
私は入口の扉から真っ直ぐ進んだ先にあるフェンスに寄りかかり、佐倉を待っていた。
あいつは確か駅の近くにいると言っていた。
自転車なら急げば五分もかからない。
そろそろ来るころだろう。
そう思っていたら、扉の奥にある階段から足音が響いてきた。
心臓の鼓動が高鳴る。
身体の熱が、増していく。
ドアノブがガチャガチャと動かされ、鍵の開く音がした。
扉が、開かれる。
*
彼は、どこにもいなかった。
もう帰ってしまったのだろうか。
あれから何度か電話をかけてみたけれど、彼は出てくれなかった。
自分の気持ちは決まったけれど、向ける相手がいなければどうしようもない。
だけど、明日までこの感情を持ち越すなんて、我慢出来そうにない。
家に押し掛けてしまおうか。隣同士だから、それも簡単だ。
そんなことを考えていたら、ふと気付いた。
そういえば、あの場所をまだ探していなかった。
私の足は、自然とそこへ向かっていた。
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