3-3
「ごめんね、急に呼び出して」
「別にいいよ、暇してたし。でも、どうしたの?何の用?」
「んーとね、久しぶりに佐倉くんとゆっくり話でもしようかと思って」
瀬尾さんと話をした後、私は彼にメールを送り、駅の近くで待ち合わせをした。
彼の家と私の家は駅を挟んで学校の反対側にあり、その中間地点がちょうどこの駅になる。
「ふぅん。まぁいいけど」
彼は一度家に帰っていたから、制服ではなく私服だ。そういえば、彼の私服姿を見るのも久しぶりな気がする。
雑なTシャツにパーカーとジーンズ、記憶にある彼の姿とほとんど変わらない。
「で、どこか入るの?」
彼が聞いてくる。
「そうだね。ちょっと行ってみたい喫茶店あるから、そこ覗いてみよっか」
あらかじめ見当をつけていた店が一つある。
この時間帯、駅の近くは私たちのような学生で混み合うけれど、多分、その店なら席は空いてるだろう。
*
駅ビルから少し離れたところにある、セピア色の目立つレトロな店構えの喫茶店。
静かな雰囲気が漂っていて、学生たちが会話を楽しむような場所とはちょっと違う。
店内に入って見渡してみると客はまばらに入っていて、どうやら席は空いている。
冷房がよく効いている。
今日はいつも以上に日差しが強いから、店の中の空気がとても気持ち良く感じられる。
私たちは店の奥にあるテーブル席を選んで、対面に座った。
「佐倉くんは何頼む?」
「アイスコーヒーかな」
店員を呼び、注文をする。私はアイスカフェラテを頼んだ。
少し待っている間、彼と他愛もない話をする。
試験が近いから勉強が大変だとか、最近暑すぎて困るとか、そんな程度のものだ。
だけど、久しぶりのそんな会話が、私には。
注文した飲み物が届く。
二人してそれを口に含み、身体の中から涼しさを得て一息ついた。
私は、会話をどう切り出したものか悩んでいた。
彼に何と言って話を始めようか。
少し俯いて考え込んでいる私を不思議そうに見ている彼の顔が、ちらりと視界に入ってきた。
黙っていても仕方ない。
とにかく、話し始めてしまおう。
「あのさ、佐倉くん」
「なに?」
「瀬尾さんのこと、なんだけど」
瀬尾さんの名前を聞いて彼の顔に少しだけ動揺が浮かんだけど、すぐに消えた。
あぁ、やっぱり。
「瀬尾さんがどうかしたの?」
彼は素知らぬ顔で聞いてくる。
「最近、瀬尾さんとは話してる?」
「まぁ、朝に軽く話すくらいなら」
「あの屋上では?」
「……そういえば、最近は行ってないね」
「どうして?」
「どうしてって言われても。ただ、なんとなく」
彼の表情に変化はない。
「ほら、暑いしさ」
おどけたように口にする。
だけど、その目は笑っていないことに彼は気づいているだろうか。
「でも、どうしてそんなこと聞くの?」
彼の純粋な疑問にどう答えたものか、悩む。
「この前屋上で会ったとき、二人、仲良さそうだったから」
ちょっとだけ誤魔化すような台詞を口にした。
「……別に、仲良いってわけじゃないよ。いつも、会話はそんなに続かないし」
いつも。
そう言えるくらいには話をしていること、それ自体が、私から見た彼にとっては普通ではないことなのに。
「ただ、同じ場所で時間を潰してるってだけ」
私はそれがどういう状況なのかをよく知らない。
彼と瀬尾さんだけの、二人だけの空間なのだ。
以前、彼とどんな風にして過ごしているのかを、それとなく瀬尾さんに聞いてみたことがある。
瀬尾さんは、時々会話をするくらいで、彼が絡んでくるから付き合ってるだけ、そう言っていたけど、言葉を口にする瀬尾さんの表情には少しだけ笑顔が浮かんでいた。きっと、彼女にとっては良いひとときなのだ。
多分、彼女自身は気付いていないのだろうけど。
「瀬尾さんのこと、気になるの?」
彼が尋ねてくる。
「まぁね。最近、たまに生徒会室で話すことがあるから」
「瀬尾さん、そんなに呼び出されるようなことしてるの?」
「そういうわけじゃないんだけどね。まぁ、色々とあって」
「ふぅん」
彼はそれ以上追求してこなかった。
私の方には、彼に訊いてみたいことがあった。
瀬尾さんのことを、どう思っているのか。
でも、正直に答えてくれるはずがなかったから、口をついて出そうになったその言葉を喉の奥に押し込める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます