3-3

「ごめんね、急に呼び出して」

「別にいいよ、暇してたし。でも、どうしたの?何の用?」

「んーとね、久しぶりに佐倉くんとゆっくり話でもしようかと思って」


瀬尾さんと話をした後、私は彼にメールを送り、駅の近くで待ち合わせをした。

彼の家と私の家は駅を挟んで学校の反対側にあり、その中間地点がちょうどこの駅になる。

「ふぅん。まぁいいけど」

彼は一度家に帰っていたから、制服ではなく私服だ。そういえば、彼の私服姿を見るのも久しぶりな気がする。

雑なTシャツにパーカーとジーンズ、記憶にある彼の姿とほとんど変わらない。

「で、どこか入るの?」

彼が聞いてくる。

「そうだね。ちょっと行ってみたい喫茶店あるから、そこ覗いてみよっか」

あらかじめ見当をつけていた店が一つある。

この時間帯、駅の近くは私たちのような学生で混み合うけれど、多分、その店なら席は空いてるだろう。



駅ビルから少し離れたところにある、セピア色の目立つレトロな店構えの喫茶店。

静かな雰囲気が漂っていて、学生たちが会話を楽しむような場所とはちょっと違う。

店内に入って見渡してみると客はまばらに入っていて、どうやら席は空いている。

冷房がよく効いている。

今日はいつも以上に日差しが強いから、店の中の空気がとても気持ち良く感じられる。

私たちは店の奥にあるテーブル席を選んで、対面に座った。

「佐倉くんは何頼む?」

「アイスコーヒーかな」

店員を呼び、注文をする。私はアイスカフェラテを頼んだ。


少し待っている間、彼と他愛もない話をする。

試験が近いから勉強が大変だとか、最近暑すぎて困るとか、そんな程度のものだ。

だけど、久しぶりのそんな会話が、私には。


注文した飲み物が届く。

二人してそれを口に含み、身体の中から涼しさを得て一息ついた。

私は、会話をどう切り出したものか悩んでいた。

彼に何と言って話を始めようか。

少し俯いて考え込んでいる私を不思議そうに見ている彼の顔が、ちらりと視界に入ってきた。

黙っていても仕方ない。

とにかく、話し始めてしまおう。


「あのさ、佐倉くん」

「なに?」

「瀬尾さんのこと、なんだけど」

瀬尾さんの名前を聞いて彼の顔に少しだけ動揺が浮かんだけど、すぐに消えた。

あぁ、やっぱり。

「瀬尾さんがどうかしたの?」

彼は素知らぬ顔で聞いてくる。

「最近、瀬尾さんとは話してる?」

「まぁ、朝に軽く話すくらいなら」

「あの屋上では?」

「……そういえば、最近は行ってないね」

「どうして?」

「どうしてって言われても。ただ、なんとなく」

彼の表情に変化はない。

「ほら、暑いしさ」

おどけたように口にする。

だけど、その目は笑っていないことに彼は気づいているだろうか。

「でも、どうしてそんなこと聞くの?」

彼の純粋な疑問にどう答えたものか、悩む。

「この前屋上で会ったとき、二人、仲良さそうだったから」

ちょっとだけ誤魔化すような台詞を口にした。

「……別に、仲良いってわけじゃないよ。いつも、会話はそんなに続かないし」

いつも。

そう言えるくらいには話をしていること、それ自体が、私から見た彼にとっては普通ではないことなのに。

「ただ、同じ場所で時間を潰してるってだけ」


私はそれがどういう状況なのかをよく知らない。

彼と瀬尾さんだけの、二人だけの空間なのだ。

以前、彼とどんな風にして過ごしているのかを、それとなく瀬尾さんに聞いてみたことがある。

瀬尾さんは、時々会話をするくらいで、彼が絡んでくるから付き合ってるだけ、そう言っていたけど、言葉を口にする瀬尾さんの表情には少しだけ笑顔が浮かんでいた。きっと、彼女にとっては良いひとときなのだ。

多分、彼女自身は気付いていないのだろうけど。


「瀬尾さんのこと、気になるの?」

彼が尋ねてくる。

「まぁね。最近、たまに生徒会室で話すことがあるから」

「瀬尾さん、そんなに呼び出されるようなことしてるの?」

「そういうわけじゃないんだけどね。まぁ、色々とあって」

「ふぅん」

彼はそれ以上追求してこなかった。


私の方には、彼に訊いてみたいことがあった。

瀬尾さんのことを、どう思っているのか。

でも、正直に答えてくれるはずがなかったから、口をついて出そうになったその言葉を喉の奥に押し込める。

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