行間2


「まったく、人間って奴はすごいよ。僕の想像そうぞうを簡単にうわまわる結末を必然的に出すんだからさ。僕がどれだけ想像しようと、人間.....生命は、僕の想像した『必然』を『必然』で上書きするんだからさ。.....そんなところも大好きなんだけどさ.....。──どう思う、月詠つくよみちゃん?」


「どう思うって、私には貴方アナタが何を言いたいのか微塵みじんも細胞レベルで理解できないけど。

.....理解したくもないけど。それと、月詠ちゃんなんてアダ名で呼ばないで。吐き気がする」


さまざまなインテリグッズが揃うとあるマンションの最上階の1室。

部屋の中には2人の男女。

どちらも顔立かおだちは整っていて、学生ならどちらもモテそうな顔立ちだ。


月詠ちゃん、と呼ばれた黒髪ロングの女性は、月詠ちゃん、と呼んだ黒髪短髪の男性の方を向かずに、PCボードとPC画面を映し出した映像物をカチャカチャとPC手馴てなれた様子で操作する。


「ちぇっ。つれないなー月詠ちゃんは。僕と君の仲じゃないかっ」


「気色悪いわよ貴方アナタ。貴方と私の関係は、学生同士の友情ごっことは違うでしょう。そんな気色悪い事を言うなら、少しは私の後始末残業に協力したらどう?元々貴方が介入したから、私が後始末するはめになっているんだから。そもそも、私.....貴方の本名、教えて貰ってないのだけれど」


「ヤダ。面倒臭い。僕の本名なんて、たまたま知ってしまうので十分さっ!」


黒髪短髪の男性はそう言うと、座っていた黒色のソファーからいきおい良く立ちあがり、特殊硝子で覆われた壁へとコツコツと歩きだす。

夜の街を照らす月光げっこうが元々、くろな影を濃く、巨大に、部屋を覆う。


「今回の件。貴方が介入かいにゅうする必要あった?」


「あるさ。14区のど真ん中にある十字路じゅうじろ公園こうえんをあそこまで派手はでに散らかしたんだから。誰が介入しないとすぐに彼らだってバレる。この島の科学は発展してるからね♪」


「──にね。今回の件だけど、貴方じゃなくても良かったんじゃないの?」


「そだね♪.....だけど、するなら僕が良かった。それだけだよ。.....それに今回の件で彼らの物語が次へと1歩進むんだ。楽しみだよ。──本当にね」


「──ッ!?」


ふと見えた彼の表情にわずかながら背筋が震える月詠ちゃん(?)。


──本当に気色悪い人。

と、彼女は再確認する。


「後はま〜、調査隊ドロシーに捕まるよりよっぽど良いと思ったんだよ。あんな面白そうなコマ.....調査隊ドロシーや警察の奴らに渡すのはしのびなくてね。いや〜彼らは実に幸運だね。神様にでも愛されてるのかな月詠ちゃん」


「うるさい黙れ。.....私は調査隊ドロシーつかまえられる方が何倍も幸運だと思うけどね。だって、彼ら.....これから貴方の駒になるんでしょ?」


「しないよ〜。僕がそんな悪い人に見えるって言うのかい?」


「ええ」


「酷いな〜」


「( 自分で言ったんだろうが)」


感情が篭っていない言葉に若干呆れるが、今

に始まった事では無いので適当てきとうに流す。


「.........!」


何の脈絡も無く月詠ちゃん(?)は回転椅子をぐるっと回した。綺麗きれいにスイーと回る回転椅子に月詠ちゃん(?)は満足顔を浮かべる。


月詠ちゃん(?)の満足顔に黒髪短髪の男性は小学生かよ、と心の中でツッコム。

何周かした回転椅子は次第に遠心力が落ち、ちょうどぴったりに月光に照らされた男性の正面に止まる。

結局、あの奇妙な行動にはどんな意味があったのか、彼でも想像できず、知っているのは彼女だけだった。


「〜〜♪(満足顔)」


「(意味なんて無いんじゃないか?)」


彼女の評価を改めるべきかもしれない、とひそかに思うのだった。


「.............」


「.............」


向き合うかたちとなった、黒髪短髪の男性と黒髪ロングの月詠ちゃん(?)。

会話は無く、レトロな時計が同間隔どうかんかくで奏でる、チクタクだけが部屋中に響きわたる。

常人ならこの二人の静寂に胃をキリキリと痛んだ事だろう。

二人の間に居心地悪さは無い。

“客”が来なければ、部屋にいる時間を二人で過ごすことになるのだから。

馴染なじんだものだ。

と、月詠ちゃん(?)は嘆息する。

しばしの沈黙をやぶったのは、黒髪ロングの月詠ちゃん(?)だった。


「さっき、貴方がで所属している調査隊ドロシーの部下から連絡がきたわよ」


「へ〜」


「.........出るのはいつも私だけど。」


「苦労をかけるね〜」


「.........公園での調査についてだったけど、私が『こちらも独自で捜査そうさしたいから、あまり現場をらすな。それと、証拠品と思わしき物は写真に撮ってまとめて送って』って、言っといたわ」


「ありがとう。仕事が早いね〜」


「(ブチッ)」


むかついたので、1発殴った。

後悔は無い。

とても清々しい気分だ。


「それと噂程度なのだけれど、先日、【金色ゴールド】と【緑色グリーン】が衝突しょうとつしたって聞いたのだけれど──」


「知ってるよ。だって、互いに衝突するよう仕向しむけたのは僕だから」


「.........!」


「驚くなよ。理由があってやった事だ」


「.........理由を聞いても?」


「え〜どっしよっかな〜。月詠つくよみちゃんが僕の足を膝まづいてペロペロと舐めるなら特別に教えて上げても良いけど?」


「(ブチッ)結構」


さらにむかついたので、2発目を殴った。

後悔は無い。

とても清々しい気分だ。


「いっ、痛って〜。酷いな月詠ちゃん。2回も殴るなんていけないんだゾ☆」


「(ブチッ)」


超むかついたので、3発目を殴った。

後悔は無い。

とても清々しい気分だ。


「ったく、冗談が分からないなー。月詠ちゃんは.....」


「冗談は嫌いなの。.....話しの続きだけど、衝突とした【緑色グリーン】と【金色ゴールド】以外の【赤色レッド】と【茶色ブラウン】が目的はそれぞれ違うだろうけど、動きが表面化し始めてるわ」


「だろ〜ね。【緑色グリーン】と【金色ゴールド】は昔から犬猿の仲で、今回の衝突は僕が誘導したものだ。けど、【金色ゴールド】や【赤色レッド】【茶色ブラウン】がかかげるのは自らのグループがトップに立つことだ。そのため、【赤色レッド】と【茶色ブラウン】は、【緑色グリーン】と【金色ゴールド】が衝突したのを好機こうきとみて動き始めた、ってところかな」


「.........貴方、もしかしてが目的で.....」


「さぁ〜、どうかな?」


黒髪短髪の男性は、ニヤニヤと笑いながら特殊硝子から見える景色を見下ろす。

その顔を見て、詮索せんさくは更に疲れるだけだと悟った月詠ちゃん(?)だった。


「見ろよ月詠ちゃん。生命せいめいがゴミのようだ。僕はね、月詠ちゃん。ここから見下ろす景色けしきがそこそこ気にいっているんだ。知ってた?」


「さぁ、どうでもいいわ。そんな事」


月詠ちゃん?は、短く区切り、黒髪短髪の男に興味無しの態度をとる。

黒髪短髪の男性も想像通りの対応で特に何とも思っていないようだった。


「人ってさ、何で高い所から自分以外の生命を見下ろすのが好きなのか知っているかい?」


「さぁ、どうして」


単純 たんじゅんさ。みんな.....自分以外の生命を支配したい、隷属したい欲求があるからさ。神や王様だってそうさ。自分の思い通りに動いている、自分は他者とは位が違う。そんな無意識な欲求を高台たかだいから見下ろして解消かいしょうしているのさ」


黒髪短髪の男性は下界地上でワラワラとうごめく生命をわらう。

自分は神だ。自分は王だ。傍からはそんな傲慢ごうまんな態度に見える。下界で馬鹿みたいに騒いでる自分たちを嘲笑っているんだと。

──しかし、彼女だけは違った。


「貴方、


月詠ちゃん?は、誰にも聞こえない声量で一言だけつぶやく。もう黒髪短髪の男性と話したくないのか、その後はクソ野郎の後始末残業のため、奇妙なPCを手馴れた手つきで操作して、後始末残業の作業に戻る。


黒髪短髪の男性が何を言っても、何も反応しないだろう事はわざわざ創造しなくても解った。

黒髪短髪の男性は彼女の態度を硝子がらす越しにながめ、やれやれと肩をすくめる。

黒髪短髪の男性は、視線を下界からデスク上の無造作に置かれた沢山の奇妙な線が書かれた紙に落とす。

黒髪短髪の口がよりいっそう口元がり上がる。目もギラギラ輝く。

その時の黒髪短髪の男性は、獲物を見つけた狼のようだった、と月詠ちゃん?は語る。獲物がかわいそうだ、とも語る。

黒髪短髪の男性は、手を大きく広げ、瞳孔どうこうを全開まで開け、わらう。


今日.....昨日は本当に面白い一日だった。

ごく普通の少年が【緑色グリーン】のトップである彼女と交差こうさした。

ごく普通の少年が見たことも無い『能力』を使う男と交差こうさした。

それ以外も沢山の出来事があったが、この二つは特に面白かった。

その出来事はこの男の琴線きんせんに触れるには、十二分すぎた。


「──そうだ!僕は人間にんげんが好きだ。おとこが好きだ。おんなが好きだ。動物どうぶつが好きだ。植物しょくぶつが好きだ。物質ぶっしつが好きだ。無機物むきぶつが好きだ────ッ!!!」


静寂の空間を食い破り、世界中に存在する多種多様たしゅたよう永劫不滅えいごうふめつ獲物闊歩かっぽする地平線・水平線の彼方まで届くように彼は告白する。


「そして──生命せいめいが大好きだーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!」


嗤う。嗤う。嗤う。嗤う。嗤う。嗤う。嗤う。嗤う。嗤う。嗤う。嗤う。


「見よ!世界よ!僕はこんなにも生命を愛してるんだ!運命だって、必然だって?そんな『みえない力』なんてクソくらえだ!」


誰にも渡さないぞ。

彼らは僕のものだ。

神だろうと、王様だろうと、装着者ホルダーだろうと、異能使いだろうと、一般人だろうと、モブだろうと、邪魔じゃまはさせない。


「僕は『人間』だーーーーーッ!!!」


わらい」から「わらい」に変わる。

そんな彼の姿をあきれた目で見る月詠つくよみちゃん(?)は、


「──気色悪い人」


相も変わらずの毒舌家だった。









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