1ー2 平均的な1日


チャラン♪問題です。

問1:俺、白石拓也しらいしたくやは主人公でしょうか?

答え:いいえ違います。モブです。


問2:白石拓也にはヒロインがいますか?

答え:いいえいません。今までも。


問3:白石拓也は「異能いのう」を使えますか?

答え:使えません。覚醒かくせいもしません。


問4:白石拓也には幼馴染おさななじみがいますか?

答え:いません。従兄弟いとこが二人います。


問5:白石拓也は何かの生まれ変わりですか?

答え:いいえ。前世ぜんせでも平均的な一般人です。


問6:白石拓也には美人・可愛い知り合いの先輩せんぱいはいますか?

答え:いません。できたこともありません。


問7:白石拓也には美人・可愛い知り合いの後輩こうはいがいますか?

答え:いません。先輩と呼ばれたこともありません。


問8:白石拓也は昔、女の子と何か約束事をしましたか?

答え:いいえ。女の子とはまともに話したことが少ないです。


問9:白石拓也はラッキースケベをしますか?

答え:いいえ。そんな事したら捕まるわ。


問10:白石拓也は昔、暗殺者や殺し屋とかシリアスな過去かこを持っていますか?

答え:いいえ。おねしょをしたトラウマなら持っています。


問11:白石拓也はイケメンですか?

答え:いいえ。そうだったら良いのに。


問12:白石拓也には兄弟がいますか?

答え:います。妹と弟が。二人とも俺のことをお兄ちゃんなんて呼ばず、拓也たくやと呼んでいます。.....6歳も離れてるのに。


問13:白石拓也は美少女と友達と呼ばれる関係になれますか?

答え:いいえ。


最後の問題:かねあいどっちが大事?

答え:金。




──これが、白石拓也しらいしたくやという人間モブだった。







〈7月25日〉

俺、白石拓也は昼休み中の時間を殆どをライトノベルを読むのに使っている。

4限のチャイムが鳴ると自分の席に座り、黒い正カバンから母親に作ってもらった弁当べんとうを取り出してひとりで食う。

クラスメートと一緒に食べるのも良いが、クラスのほとんどが昼飯を食べるグループを作っている。

高2にもなると、クラス内のグループは作り終わっている。中にはグループ内を転々 てんてんとしているやつもいるが、やはり少ない。

俺はクラス内でグループを作らなかった。

いや、作れなかった。

理由は単純たんじゅん。俺のコミュニケーション能力が低かったからだ。

家に帰ってはスマホ、漫画、小説、ゲーム、テレビ、寝る。といった完璧なインテリ系男子だったのだ。そんな俺が話したこともない他人に話しかけれる訳が無い。

俺は世間で言う「ぼっち」なのかもしれない。

しかし、俺にも学校で話すクラスメートはいる。登校中に話すクラスメートはいる。下校中に話すクラスメートもいる。

そんな俺だが、昼飯を一緒に食うクラスメートはいない。

たまに一緒に食うクラスメートはいるが.....。

自分でも不思議ふしぎだが昼飯を一緒に食うクラスメートだけはいないのだ。

別に不自由ではないし、寂しくはない。

不思議に思っているだけだ。

調べようとはしない。

飯友(命名)も今更作ろうとは思はない。

面倒臭いし。

そんな、はたから見たらぼっちにしか見えない俺、白石拓也は弁当を食い終えて、ライトノベルを読みふけるのだった。

こっちの方が面白いし。

クラスメートとの会話もいいけど、ライトノベルを読んでる方が落ち着く。

ぼっちの思考かもしれないが、俺にとってはどうでも良かった。


「さっ、読みますか」


しおりを挟んでいるページまでめくり、その小説の世界観にのめり込む。

別の世界の物語を読むことは白石拓也にとってはとても楽しいことだった。

5限は教室移動なので10分前には自教室を出る俺だったのだった。




昼休みが終わり、5限の授業が始まる。

5限は世界史。

日本以外の国々を中心に歴史を学ぶ文系の高校生には必修科目だ。

世界史教師──琴木大輔ことぎだいすけ

子持ちで年齢28歳。

野球部顧問で家ではよく娘と野球観戦をするらしい。家内での力関係は嫁の方が強いらしい。娘は今反抗期らしい。

と、「らしい」を多く使って誰かに向かってどうでもいい情報を説明する俺、白石拓也は、絶賛睡魔と奮闘中ふんとうちゅうだった。


「(眠い!)」


その一言に尽きる。

睡魔すいまという名の悪魔あくまは俺を夢へと誘おうとする。俺も負けじと目をこするが、あまり意味は無かった。

教科書と配布されたプリントの文字が段々と薄らけてくる。

琴木先生はプリントに印刷している文章を説明しているが、白石には途切れ途切れで聞こえて、何を言っているのか理解出来なかった。


「(ヤバイ。マジで眠い!)」


昼飯後なのも原因の一つなのだが、恐らくは一番の原因は昨日夜ふかしした事だろう。

午前2時を回ってもネットのSSを読んでいたのは確かに自分の失態だ。

別に後悔は無いけど。

自分の席は運良く一番端っこの最後。ここなら、寝たとしてもバレないだろう、と考える俺だが、琴木先生への“罪悪感”で今も寝れずにいる。


──罪悪感ざいあくかん


俺、白石拓也しらいしたくやはら昔から“罪悪感”を覚えやすい人間だった。

特に代表的なものは“無機物むきぶつ”だ。

食べるや食べ残し行為、壊すことや捨てる行為が俺に今尚いまなお罪悪感ざいあくかん”をいだかせる。

何と言うのだろうか。

多分、「かわいそう」が一番適している。


食べられるの“かわいそう”。

残されて“かわいそう”。

壊されて“かわいそう”。

捨てられて“かわいそう”。


と。

自分でも分かってる。

コレはだ。

俺が嫌う、人を馬鹿にする行為だ。

殺されること。取り残されること。嫌われること。見限られること。

それらを自分に投影とうえいして、自分がそうなったら嫌だな、と無意識に同情している。

その事実を知ったときは、心底自分を嫌いになったっけ。

.....クソッタレが。

嫌いだと言っておきながら、俺が同情するなんて、救いようがないアホだな俺は.....。

自分がちっぽけな人間だと再確認する白石拓也だった。

.....その後、罪悪感云々言っていた白石拓也は結局、睡魔に負けて授業終わり10前まで爆睡するのだった。



終礼しゅうれい

7限の授業が終わり、帰る準備をする俺。

クラスの皆も担任がまだ来ていないので、大声でしゃべったりして、騒がしい。

俺は誰ともしゃべらずに机にうつ伏せになる。眠たくはないが、今はこうしていたい気分だった。

俺はふと今日を振り返ってみた。

今日も大きな出来事は無く、いつも通りな平穏な日常を過ごした。

・登校して。

・午前の授業をめんどいけど受けて。

・昼飯食って、ライトノベル読んで。

・午後の授業を眠いながら受けて。

・そして、今に至る。


──うん。なんて普通なんだろ。


ハッキリ言って面白くは無いし、デジャヴを感じる日常だったけど、一方でそれが不思議と安心するのだが。

クラスメートと漫画やアニメの話しをするのは楽しくない訳ではないけれど、俺にはそれがひどく面倒臭い事に思えた。

これじゃいけない事だと分かっていても、それで行動するかは別問題だ。

行動には“対価”が必要だ。

その行動に見合う“対価”が。

難しい事じゃない。

要はクラスメートと楽しく話すことでどれだけ自分が利益を得るか。

ザッと考えても、「楽しい学校生活」って言うキャッチフレーズが頭に思い浮かぶ。

俺はそのキャッチフレーズが示すような「楽しい学校生活」をこなせてるのだろうか。

変化なき日常。デジャヴを感じる日々。劇的でも悲劇的でもない多数の人々が今尚送る平均的 へいきんてき人生じんせい


日常系アニメのような、面白楽しいギャグ満載まんさいの日常でもない。

日に日に生気を奪う勉強、将来、大学、就職などなど俺にとっては大して興味も無い問題だが、親にとっては大きな意味を持つ問題。

高校生になったら中学より楽しいよ、と中学のクラスメートが言っていたがホントにそうか。俺には歳を重ねるにつれて辛く、重荷になっていくんだが。.....これならまだ中学の方がマシだと思える。

俺は廊下側のら窓から見える日本国旗を眺める。パタパタと風で揺れる日本国旗はなぜか俺の心をいやす。

でも、これじゃのときと一緒だな.........。



.....ここで唐突とうとつだが、俺は前世持ちだ。

なーに、自分の人生に変更点が打たれるのはいつも唐突だ。

人生何が起きるか分からない、明日には地球が滅びてるかもしれない。異世界召喚されるかもしれない。空から美少女が落ちてくるかもしれない。

必然ひつぜんより偶然ぐうぜんを求めよってね。

だから、可笑しくはないだろ。


.....そんなことより、俺の前世についてだ。

前世の記憶は殆どおぼえていない。

あるのは感覚的なものだけだ。

「あぁ、前世の記憶あるわ」程度のものだ。

俺は異世界召喚された訳でもなく、ただ普通に転生しただけらしい。

この世界で赤ん坊の頃から生きて、今まで過ごしてきた。流石に気付いたのは。高校生ぐらいの頃だったけど。赤ん坊の時に気付いていたらヤバかった。何が、とは言わないが。

自分が前世持ちだと気付いた時は最高に嬉しかったな。俺にも何らかの『異能』があるんじゃないか、この後の人生には壮大そうだいな物語が用意されているだ、みたいな今では夢物語だがその時は期待したもんだ。

能力は何かな、とか。


例えば、『時止め』『能力無効化』『全ての魔法が使える』『魔眼』『武器の複製』『古今東西の財宝を内包する蔵』『聖剣』『魔剣』『催眠術』『コピー』『最強の肉体』『向きの操作』『気の習得』『能力作り』『レベルMAX』『成長限界突破』『未来予知』『不老不死』などなどetc.....。


──だけど、どれだけアクションを起こしても何も起きなかった。

それどころか、敵に襲われるイベントや美少女と知り合うことも、能力覚醒も、可愛い幼馴染みも、女の子のことの約束事も何も何も何も無かったのだ。

俺の胸にはある疑惑が渦巻うずまいた。

嘘だ。認めたくない。きっと自分が気付いていないだけだ。明日には俺も.....。

俺は泣きじゃくる幼い子供のように現実から目を逸らし続けた。

俺は最後の頼みのつな──親に聞いてみたことがある。


「母さんは漫画とか小説みたいな実は魔法使いとか英雄の孫みたいな過去を持っているか」


と。

母親の返答:バカじゃないの。

至極当然しごくとうぜんの返答だった。

我ながらバカな質問をしたなと思う。

だって。分かっていたから。気付いたから。理解していたから。こんな、よくある結末になると予感していたから。

最後の頼みの綱だって、心の中では9割諦めていたのだから。

.....今追い返しても記憶から抹消まっしょうしたい恥ずかしいトラウマの一つだ。

母親からしてみれば、高校生にもなった息子が厨二病ちゅうにびょうが、また発症したと思ったことだろう。

けれど、当の本人.....俺、白石拓也にとっては最後の砦が潰されたのだ。最後の希望が慈悲 じひも無く跡形もなく粉砕されたのだ。

あの時受けた衝撃はすごかった。

頭の中をスクラッシュされた気分だった。

人ってのは希望が潰えるとあんな気分に支配されるんだな、と今は笑い話で済まされるがあの時.....高1の頃はそのせいで家族にひどくあたったもんだ。

今は当時程ではないけど、やっぱりその当時の振る舞いが今も引きずっている。

.....まぁつまり、俺が何を言いたいのかと言うとだな──。


──俺は『主人公ヒーロー』ではない。

──この世界は小説の中の世界だろう。

──そして、俺は物語の『背景モブ』だ。


単純で簡単な当たり前で当然な回答だ。

必然ひつぜんな結果だと白石拓也は知っている。





俺の日常は平均的へいきんてきだ。

俺の人生も。

特別挙げることが何もない。

挙げる事柄を探す方が難しい。

自分でも悲しいが嘘偽りのない事実だ。

短所はすぐ思い付く。長所は思い付かない。


──それと同じだ。


自分のいい所なんていくら考えても思い付きやしない。悪い所ばかり思い付く。

自己評価じこひょうかは低めでちょうど良い。

自己評価が高すぎると、天狗だの、イキってるだの、調子に乗ってるだの、良い言葉が見つからない。

それなら最初から低かったら良い。下にいるのだからこれ以上下に落ちる方が難しい状況にすればいいのだ。

君は過小評価し過ぎと、ヒロイン(いない)や友人(いない)に言われるかもしれないが、いないから別にいいよね。

過大評価なんて自分以上の存在が現れると、恐怖したり、悲しくなったり、憤慨したり、不安になったり、劣等感を抱いたり、馬鹿馬鹿しいばかりだ。

俺はそんな感情を抱きたくない。

負の感情なんて抱いて何の価値があるんだ。


嫌なことからは逃げる。

辛いことからも逃げる。

痛いことからも逃げる。


それが負の感情を抱かないようにする俺の生き方だ。カッコ悪いと思ってくれてもいい。見下せばいいし、罵ればいい。

俺もカッコイイお前達をバカにする。

俺は主人公基質の精神なんて持ちたくないからな。俺が持っていない主人公の資質は、その人があらかじめ持っている行動原理こうどうげんりで決まると思ってくれてもいい。

・助けたいから助けた。

・女の子を守るのは当たり前。

・自分のため。

・見捨てれない。

・贖罪のため。

・仕事だから。

俺からしたら、今挙げた行動原理を全て理解できるが、持ったとしても行動に起こそうとは思わない。

行動することでの見返りが俺は欲しいからだ。タダ働きなんて御免だ。何かしたならその分の報酬をくれ。美少女を助けたなら、一発ぐらいヤッテも許してくれるよな、的な。

最後の方は極端きょくたんな例だが、つまりはそういう事だ。


「“対価たいか”なき行動はありえない」。俺はそう確信している。

「助けたいから」って理解も傍からは“対価”を支払っていないじゃないか。カッコイイ!

と、思われるが、俺はそうは思わない。

「助けたいから」が理由で行動することで発生する“対価”は目に見える物じゃない。目には見えない物だ。


──『自己満足じこまんぞく』。


だと、俺は思う。

目に見えない『感情』も“対価”に入っている。最もな例がハーレム系主人公だろう。

『目の前で傷付いている人がいるのにそれを見過ごす事なんて俺には出来ない!』──的なテンプレなセリフを吐く主人公またはソレに随する人物。コイツらだって、立派に“対価”を受け取っているのだ。

それは、助けた人からの『好意』だ。

それなのに、受け取ってるくせに、「助けることに理由なんていらない」「体が勝手に動いて」「かわいい女の子を助けるのは当たり前」なんて。


まるで.....“対価”なんか受け取っていない、みたいな自慢顔を浮かべてる奴らがそんなセリフを吐くな。

そんな理由で行動できるのは、一種の異常者だけだ。それか、主人公気取りのクソ野郎だけだ。

人は“対価”があって初めて行動する生き物だ。

どんな些細ささいな事だろうと、どんな些細な感情だろうと、な。


.....だからだろうか。

.....そうだからだろうか。

.....俺が主人公を好きにはなれないのは。

屁理屈な考えだと自分でも分かってる。

だけど、俺は2次元の行動原理に現実感をどうしても挟み込んでしまう。

そうしたら、2次元の人達が薄っぺらく、偽善者ぎぜんしゃばかりに見えてくる。


そして、そんな風に見る俺が、

──どうしようもないくらいに大ッ嫌いだ。








.....。

.........。

...............。

.....................と。

心の中で自分自身の闇に葛藤かっとうする俺カッコイイーと密かに思ってる.....俺、白石拓也しらいしたくやは放課後に14区の【ミルキーロード】に来ていたのだった。


「わぁ、スンゴッ!人、多ッ!」


加えて、テンション上昇中でもあった。


「やっぱり、放課後は学生が多いな。どの店も学生だらけだ」


もちろん大人もいるが、全体的な比率は素人でも一目で分かる程に学生が多い。お洒落しゃれなカフェも服屋もファンシーショップもゲームセンターも学生で店内が7割は埋まってる。

俺はポカンとした顔でながめていた。

この島に来て1年半ぐらい経ったが、この場所に来たのは今日が初めてだったからだ。

本当なら1年半も住んでいたのなら、一度は来ていても可笑しくはない場所だ。

俺が住んでいるのは15区にある【アトラス・マンション】と呼ばれるマンションだ。

この14区に来るのも自転車なら30分、電車なら15分程度で来れる。

.....にも関わらずに一度も来たことがないのは、ある理由がある。

ある雑誌には、【ミルキーロード】はこう書かれている。


『ここ14区の【ミルキーロード】は、冬でも無いのに夜にイルミネーションが街を彩る太っ腹なデートスポット名所の一つ。

彼氏彼女の皆さん!

ここ【ミルキーロード】で愛の告白、デート、プロポーズしてみませんか。

ロマンチックな星が綺麗に見れる展望台。

初デートでも楽しく過ごせる多種多様の店舗が立ち並ぶ繁華街。

女の子なら誰でも喜ぶ豪華な結婚式場。

なんでもござれ!

これを読んでる貴方も【ミルキーロード】にラブラブエナジーをチャージしに来ませんか?

PS.彼氏彼女になって、1週間以内の方々はどの店でも半額です♥』


誰が行くか!!

俺みたいな非リア充で童貞なブサメンにリア充どもが発するラブラブエナジーをどうチャージするんだよ!?


問:彼女いますか(笑)?

答:いません(怒)。

問:友達いますか(笑)?

答:いません(怒)。


.....誰と来いって言うんだよ!

俺みたいな非リア充がそんな場所にいたら、数分でリア充が発するラブラブエナジーで気持ち悪くなるわ!


.....。

.........。

.............ってな理由で来なかった訳だ。

なのになぜ来たか?

答えは単純だ。


「(可愛い女の子を発見するためだ!)」


俺は今まで逃げてきた。

現実逃避げんじつとうひをして「いつか出逢えるよ」と可愛い女の子を発見することを怠ってきた。

しかし!俺は逃げない!可愛い女の子を美人な女の子をこの手で見つけるんだ!

と、意気揚々いきようようと決心する白石拓也なのだが、彼はある事実に気付いていなかった。いや、気付いていながら目を逸らしたのかもしれない。


【ミルキーロード】にいる女の子はほとんどが野郎どもの彼女になっている事実に。




【10分後】

俺は彼女が欲しかった訳じゃない。

俺は彼女とイチャコラしたかった訳じゃない。

俺は彼女とセッ〇スしかった訳じゃない。

俺は周りが言う彼女がいなくて悔しいという常識を自分の中に取り入れて、俺も彼女がいなくて悔しい.....気持ちになろうとした。

周りに話しを合わせる。別段不思議な事ではない。彼女なんて別にいらない、と俺が熱弁ねつべんを語ったとしても周りの空気が悪くなるし、気味悪がられるだけだろ。俺もそこまで語るきはない。ただ理解してほしい。

俺は彼女なんていなくていいし、金の無駄使いだと思うし、一々デートしに出かけるのも面倒臭い。俺が彼女を持ったとしても、退屈していないか、怒っていないか、疲れてないか、と彼女の顔色を伺うばかりで、彼女に楽しいデートと思われるとはとても想像できない。


.....ここに来るまで、俺はそんな気持ちを抱いていた。彼女なんていらない。一人でいる方が気楽だ。どうせ財布だろ。荷物持ちはキツイだろうな。2次元の女の子の方が可愛いわ!。俺の中で渦巻く非リア充のテンプレな本音が【ミルキーロード】で.....虚勢へと変わった。


「(.....か、彼女欲しいー!!!)」


彼は今、開いたのだ。本当の色欲の扉を。今までの彼の本音はリア充どもに対する虚勢きょせいへと堕ちる。


「(彼女欲しい。おてて繋ぎたい。腕組みたい。髪の毛をよしよししたい。下の名前で呼び合いたい。アダ名で呼ばれたい。キスしたい。セッ〇スしたいーーーーーッ!)」


意志が性欲へと変わり始め、己の女の子に対する欲望が爆発する。

当たり前だが、白石にも性欲はある。

オ〇二ーもする。今回は目にしたことのないリア充オーラに目を焼かれ、一種の暴走状態におちいったのだ。まぁ、それもほんの数分の出来事だが。


「(──ッ!?お、落ち着け、俺!惑わされるな。俺には彼女なんていらない!彼女に使う金は俺のモンだーーーーッ!!」


しかしどれだけ言うおうが、その言葉は本音ではなく虚勢なのだ。

彼.....白石拓也はリア充を見たら、嫉妬しっとし、虚勢を張り、心の中では彼女が欲しくてたまらない──本当の非リア充になったのだ。


「(どこ見渡してもカップルばっかり。イチャイチャしてキスして、あ〜んまでしてる。コレは最早【ミルキーロード】ではない。【イチャイチャロード】だーーーーーッ!」


絶叫する。

変えようがない現実に。

少年よ、お前も俺たち非リア充の仲間だ。

と、野郎どもが手招きしているが、幻覚に違いない。無視しよう。

地に縫い付けられた足を1歩踏み出す。

そして、非リア充の代名詞のあの言葉を【イチャイチャロード】に存在するリア充どもに対して叫ぶ。


「(リア充爆発しろーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!)」


その後も暫く、精神がすりえり、口の中がなぜか甘い味が広がって不思議とブラックコーヒーが無償に飲みたくなった白石拓也は、たまたま発見した自販機で買うのだった。







「それにしても、店.....多いなー」


ぶらぶらと宛も無く【ミルキーロード】を歩き回る。両耳にはイヤホンをし、微量な音量でお気に入りのアニソンを流す。

服装は全体的に黒が多く占めている。

黒のパーカーにジーパン。左肩から右腰へ青の小型バックを担ぐ。

シンプルでオシャレの「オ」の文字もない。

通り過ぎる人達は、少なくとも自分よりオシャレしているのはひと目でわかる。母親はもっと服装に気をつけなさい、と言うが俺には着れれば何でもいいのだ。


「カップルは見慣みなれたけど.....学校帰りの学生も多いな。殆どが二人以上。一人の俺は目立つのかな.....?」


チラッと横目で見てくる人が多い。

それが気になる。

実際には無意識の動作で、ソコに感情はないのだが、白石は初めての【ミルキーロード】で若干テンションが上がっているので、余計に気にするようになっているのだが。


「こんなに多いと、美少女とすれ違っても気付かずに通り過ぎるかな。まぁ、それもいいけど。普段は中々来ない場所に来てるんだから今日は少しでも楽しめるように、ハッチャケるか。.....まずは、食べ物屋でも探すか」


少し歩いた先に、プリンの屋台があった。

プリン屋なんて聞いたことのないので、白石が興味をかれるには十分だった。

屋台から遠くにある地点で、行列ぎょうれつが並んであるか確かめる。

.....行列はできていない。

ホッとして、胸を撫で下ろす。

行列を並ぶのは別に構わないが、できるなら【ミルキーロード】での初めての食事は楽な感じで食べたい。

屋台に近づき、ドキドキしながらメニューに目を通そうとする。

その目は、女の子の様にキラキラしていた。


『いらっしゃいませ。今、夏限定のプリンが販売してますが、試食していきますか?』


プリン屋のAIは教科書通りのセリフを流して、客の.....俺に試食をするか、問を投げる。

俺は「はい」と答える。

すると屋台から、ワーム状の機械の手が飛び出る。その手には、試食様の夏限定プリンが皿の上に乗って爪楊枝つまようじに刺さってあらわれた。

どうやら爪楊枝でも食べられるように固定化ブロックされているようだ。

プリンを爪楊枝で食べるなんてと思いながらつまもうとすると手を止めて .....手を合わせる。


「いただきます」


食べる時は必ず言わなければならないことを言う。

俺は爪楊枝を摘んで口に運ぶ。

どんな味なのかな、とドキドキしながら味わう。

──数秒の硬直。


「.........ん?」


.........なんだコレ?

美味おいしくない。

そして、不味まずくもない。

首をかしげ、この味について考える。


「(ん〜〜)」


茶色のプリン。

チョコ味かと思ったらそうじゃない。

甘くはない。

辛くもなく、酸っぱくもない。

苦み.....があるのか?

どこかで食べたことがある馴染なじみのある味。

どこで.....家か?

しかし、家でこんな茶色の物体なんて見たこともない。この馴染なじみのある味は、確かに家で食べたことのある味なのだが.....。

ごくりと飲み込む。

本来なら夏限定プリンに対するリアクションをするのだが、どんなリアクションしたらいいのか俺にはわからなかった。

悩む。

単純に味について悩む。


「(ん〜。この麦麦しい味、どこかで.....ん?麦麦しい味?.........えッ、ま、まさか、嘘だろ。.........嘘だよな?)」


俺はガチガチと首を動かす。

問わねばなるまい。この味、もし本当なら、俺の予想通りなら.....。

ヤツだ。奴の味だ!


「.....すみません。コレ何味ですか?」


麦茶味むぎちゃあじです』


即答 そくとうだった。

短い言葉だった。

AIシステムが流す言葉なので、当然なのだが。

流されたその言葉は、真実だけを語った。

予想通り。

馴染みのあるあの味は、『麦茶むぎちゃ』の味だったのだ。

そりゃあ美味しくないし、不味くないわな。

真顔になる俺。


『夏限定──麦茶むぎちゃプリンりますか?』


Alシステムから流れる言葉に俺は、首を横に振る。

そのジェッスチャーにAIシステムは、要らないと判断して、ワーム状の手が屋台の中へと戻っていく。

──俺はなぜだが小さな疑問を聞いた。


「どうやって、作ったの」


『誰が言うかバカが!』


AIシステムになぜか罵倒ばとうされる。

罵倒したAIシステムは俺が店に来る前の、基準配置スタンダードに戻る。

残ったのは、真顔の俺とむなしい静寂だけだった。


ここで、補足だが。白石拓也は楽しもうとしていたのだ。屁理屈屋で現実逃避しているバカな人間だが、そんな彼なりにテンションを上げて人通りの多い【ミルキーロード】まで足を運んで、既視感きしかんが多い人生を少しでも未知みちくつがえそうとしたのだ。

その一発目は、楽で美味しい食べ物から始めようとした。美味しい食べ物を食べれば、よりテンションは上がると踏んで。

.........しかし、世界は彼を、白石拓也を拒絶した。偶然?.....いや、必然だろ。

世界に偶然はない。

すべての事柄は必然だ。

運命うんめい』という名の『流れ』で決まっている。

なら、彼の決心も必然。

彼が失敗するのも必然。


「.....失敗したな。別の所で食べれば良かったのに。なんでこの屋台にしたのかな。へっ、人集まりが少ない訳だ。よく見ると他のメニューも珍味物ばかりじゃないか。タランチュラ味のプリンってなんだよ。.........なんで、気付かなかったかなーー」


白石拓也しらいしたくやソラを仰ぐ。

自分でもわからなかった。

無意識にそうしなければならないと、思ったたんだ。

白石拓也はソラに何か祈るように見つめる。

──数秒。

ソラを見上げた視線が地面に向く。

──その姿は、ソラに頭を下げる人間のようだった。


「...................................................帰るか」


その一言を呟いて、自転車置き場の方角へ足を進める。

白石拓也は思う。

──こんなのは、よくある結末けつまつだと。


〈7月26日〉白石拓也は再び、よくある結末と交わる。

──コレもまた必然運命だろう。











































































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