25-2.なれそめ





 私と佐藤のヤツが出会ったのは居酒屋でだった。友人グループで来店して、隣のテーブルで飲んでいたのがいつの間にか交ざっていたのだ。

 学生時代にありがちな月並みな出会いのシーンだ。いや、学生だったからでもないか。男女の出会いのパターンなんてそもそも限られてる。合コンで出会うか、職場で出会うか。


 当時の私は恋愛経験皆無(井口くんという初カレはいたものの)で高校は女子校だったし、大学でもさほど異性との交流はなく、その点、今ではとても考えられない温室育ちだった。

 かといって純情なわけではなく、人並みの経験をする準備はいつでもできていたわけだ。オンナノコってそういうものだ。


 私が処女だったとヤツは今でも知らないはずだ。初体験なんてそんなもん。

 ところが頭ではこんなものかと思いはしても、私はすっかりヤツに引っ張られてしまった。のぼせていたのだと思う。

 若い頃の恋愛あるあるだ。頭ではわりと冷静なことを考えていても、からだがすべて台無しにしてしまう。

 勝手に熱くなる頬だとか、耳にうるさいほどの自分の鼓動だとか。


 馬鹿みたいに毎日ベタベタして、おかしくなったみたいに毎日セックスしてた。

 たまに外にデートに出かけても喧嘩するのがオチだった。それで間があいても、またなし崩しにセックスして、同じことの繰り返しだ。

 そんなことを三年間。我が身のオロカシサを学ぶには充分すぎる時間だった。


 ある日ふつっとどうでもよくなった。ヤツもきっとそうだった。たから自然消滅で別れた。

 出会いから別れまで、私とヤツはとても月並みだったのだ。




「やい」

 場所は駅前の居酒屋エリアではなく、山側のインターチェンジ近くにある老舗のスペインレストランだった。広々とした店舗でよく貸し切りパーティの会場になるお店だ。

 いいなあ、個人で来ると高いんだよね、この店。今夜はクリスマスパーティでもやってるんだろうか、いいなー。

 くそー、くそー、とブツブツ繰り返しながらクルマを降りた私は、店内に向かうまでもなく呼び止められた。店舗前の丸い花壇の縁のベンチに佐藤のヤツが座っていた。


 寒そうに肩をすぼめて両手をポケットに入れ、マフラーに顎を埋めている。スーツじゃなくてジーンズにダウンジャケットなあたり、仕事じゃなくてプライベートで飲みに来たのかな。


「酔ってんの?」

「酔ってねーわ。二度死にそうな目に合ってからちびっとしか飲まねーわ」

「そんなん知らんわ」

「そうか? 知らなかったか?」

 きょとんと目を丸くされ、なんでコイツは私がコイツのことをなんでも知っているような口ぶりで話すのか改めて意味がわからないと思った。

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