第25話 執念深い男

25-1.お裾分けの行方




 翌日の二十五日は惰性で切り抜けられるくらいの仕事量で、気が付けば三日間の死闘はあっさりと和やかに終焉を迎えた。

 昨日のカオスっぷりがすごすぎたから、一夜明けた今日がクリスマス本番だろうにって拍子抜け感が半端なかった。

 クリスマスイブ、いろんな意味で半端ない。


 それはそうと今日もクリスマスケーキをもらった。昨日の小振りのまかない用とは異なりがっつりした大きさのチョコレートケーキだ。

 自宅の冷蔵庫には昨日のケーキが手付かずで残っている。急いで食べなくても二三日は大丈夫なことは知っているけど、毎日ケーキを食べられることが嬉しいほど甘い物が得意なわけじゃない。

 自分で食べきれる自信がない。ならば早々に人に譲るべき。

 なら、実家に持っていくか。甥っ子たちなら喜んで食べてくれそうだ。


 そんなこんなで仕事のあと、クルマの中から実家に電話した。

『いらないいらない。ウチにもまだ食べ残しがあるんだから』

「え、なんで」

『あたしと父さんと美樹ちゃんとでケーキ買ってきちゃってさ』

「相談しなかったの?」

『みんなで気を遣いあったんだよ』

 同じ屋根の下でかみ合ってない感じ、胃がさわさわするだろうなぁ。うう、美樹ちゃんガンバレ。

『いろんな種類食べられるって子どもたちが喜んでるんだからいいんだよ。でもさすがにもういらないから自分で食べな』

 あっさり突き放されて私はなんだよーと口を尖らす。

『元旦には来れる? お店はやってるんでしょ』

「うん、でも午後四時で閉店だから仕事のあとで行く」

『そうかね、わかったよ』


 あてがはずれた私は母親との通話を切ってウームと唸る。

 ケーキ好きな晃代か詩織の家に届けるか。

 あるいは由希ちゃんに電話してみるか。

 このところ、由希ちゃんのフットワークの軽さを殊更あてにしている自覚のある私は、どうしようかなーと少し躊躇しちゃう。


 面倒になって、とりあえず帰るか、と結論付けるのと当時にスマホの画面が明るくなった。

 珍しく理沙からの電話だった。

「はーい?」

『紗己子ぉ、どこにいるぅ?』

「仕事終わって今から帰るとこ」

『あんたのさー、元カレに会っちゃってさぁ』

「え。だれ」

『あのさぁ、銀行に就職した』

 げ。

『あんたに会いたいから連絡先』

「絶対ダメ」

『うんうん、だからさぁ、呼び出せって』


 がやがやした環境音をとむにゃむにゃした話し方。できあがってる。まだ八時前だっていうのにいつから飲んでるんだろ。

 シラフでも押しに弱い理沙のこと、ヤツにしつこく追及されれば私の情報をあらいざらい吐いてしまいそうだ。

「……わかった。行く」

 くそー、くそー。仕事終わりで疲れてるっていうのに。お腹だって空いてるのに。ちきしょー。

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