24-6.ひとりぼっち
「今年は紗紀子ちゃんいて助かったわあ。去年は閉店作業の後に伝票のチェックをしてたから午前様だったのよう」
マダム・ミチコは疲れのせいで気力が萎えたようにじんわり涙ぐみながらつぶやいた。商売っ気があるようなないような人だから、ここまで繁盛しちゃうのは嬉しいような嬉しくないような、なのかもしれない。お金儲けがすべてじゃないもんね。
今日はフルメンバーだけど明日は出勤しない人もいるってことで、帰り際にはまかない用特別仕様のクリスマスケーキが全員に配られた。小振りなのにやたらとデコラティブな食べるのがもったいないようなシロモノだった。パティシエールさんがナニカ暴走しちゃった感じの。
疲れ切ったからだをクルマのシートに沈めて、しばらくぼーっとしてから気合を入れ直さないと帰路につくのも億劫だった。クリスマスイブってどの方向からでも魔のイベントなんだなぁ。
スマホを確認すると弥生さんからメッセージがきていた。
『事務所にいなくてごめんねー。ケーキ届けてくれてありがとー』
『すっごいカワイイ。食べるのが楽しみー』
『また今度飲みに行こうね!』
過不足ないメッセージで、人付き合いが上手なだけあるなぁと感じる。返信をしなくちゃって使命感のわかない内容だもの。私はただ、お辞儀のスタンプを送っておいた。
国道はまだ交通量が多くて、ネオンがきらびやかなショッピングモールに向かうのだろう車で右折レーンがいっぱいだった。イブの夜はまだまだこれからかー、自分にはカンケイないけどーなんて気持ちで交差点を左折する。
いつもとは違うルートな上にぼんやりしていたせいで自分がどこに向かっているのか一瞬わからなくなった。うう、ボーっと生きてんじゃねーよ! ダメじゃん、自分。でもなんか、引っ張られちゃうんだよ。
昼間エヌバンでうろうろした工場街の大通りのコインランドリーの駐車場にクルマをとめる。店内は煌々と明るかったけれど人影がなかった。洗濯乾燥機が何台かくるくる回っている。
脇道の奥は真っ暗だったけど、その手前からは灯りがもれていた。シャッターが半分開いていて、作業台に向かっている林さんの横顔が見えた。弥生さんが一緒にいるだろうって高確率で予想してたのに、ひとりきりだった。イブの夜にひとりぼっちで仕事してるよ、あのヒト。
何がしたかったのか、したいのかもわからない私は、そーっとクルマに引き返して今度こそ帰宅した。
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