22-2.相場が決まってる

「いいじゃないですかぁ。ボコっちゃいましょうよぉ」

 言おうとしていたことを先に由希ちゃんに言われてしまった。いいんだけど、由希ちゃんのカワイイ言い方がめっちゃ怖い。笑顔だけど目が笑ってないし。

「そぉゆうオトコはぁ、簀巻きにして東京湾って相場が決まってるじゃないですかぁ?」


 わけがわからない、というふうに眉を寄せる順子に押さえられたまま理沙が目を輝かせた。

「そうそう! 簀巻きで東京湾!」

「ですけど、時代は芦ノ湖だと思うんですよ」

「いいねー」

 あかん、私もついていけない。

 理沙は少し落ち着いたようだし、順子の手を引きはがし、私はふたりを押しとどめた。


「具体案はともかく、ボコるのは私も賛成」

 暴力はダメだけど、お灸をすえてやってもいいだろう。よってたかって口撃されれば、こぶしで殴られるほうがマシだってなるだろうけど。


「じゃあ、とりあえず連れ出しましょうよ、そのクズ男」

「人の彼氏をクズって……」

「いいや、クズだよ! あんなやつ。クズでいいの!」

「理沙は別れるんだね、コウジくんと」

 大事なことを確認すると、理沙は大きく頷いた。

「でもその前に、ひとこと言ってやんなきゃ気がすまない!」

 ひとことでなんかすまないだろうに。私はちょっと笑ってしまう。


「ええと、じゃあ、ゆーっくりお話できる場所に拉致るってことで」

「だね。そうなると、カラオケボックス?」

「オーケーオーケー。じゃあ呼び出そう」

 理沙が張り切ってスマホを取り出す。が、理沙が呼んだところでほいほい出てくるとは思えないよねえ。

「じゃあ、ユウタくん?」


「あ、いっそのこと。バレて理沙が怒ってる、謝りに来いって言っちゃえば」

 真っ当な順子の提案は他の全員に却下された。

「百パーばっくれますよ、アイツ」

「そーだ、そーだ」

「それなら、合コン中のところに乗り込むの?」

 人目を気にする順子は、ひたすら騒ぎを大きくしようとする理沙をとどめようとしていたわけで。通路の真ん中でこうやってがちゃがちゃしてるのも目立つといえば目立つのだけど。


「わかりました。スマートに連れ出せばいいんですね。じゃあ、わたしが釣りあげてきます。クズがどれだか教えてください」

 問答無用で由希ちゃんが店内へと向かったので、残された私たちは目配せしあい、結果、順子がこそこそと由希ちゃんに同行し、ものの数分で戻ってきた。


「あとは任せてくださいって言われたけどどうするの?」

 由希ちゃんの狙いがまるでわかってなさそうな順子は不思議そうに首を傾げていて、隣でユウタくんが目を細めて微笑んだ。

「いいんすよ、順子さんはそれで」

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