第22話 懲りない男

22-1.エキサイト

 電話の向こうはがやがやと賑やかで、どこかお店の中のようだ。金曜の夜だし、順子も遊びに出かけてるんだろうなってフツウに考えたのだけど。

『いいから来て! 理沙が手が付けられなくて……』

 向こうでがちゃがちゃ騒いでいる声は理沙かあ。うーん、シュラバっぽい。


 高い声で店の名前を叫ぶ順子にはいはいと返事をして私は通話を切った。

「修羅場ですか? わたしも行きます」

 なんであんたは目を輝かせてるんですかって思ったけど、何事にも動じない由希ちゃんなら一緒に行ってもらってもいいかも。


 順子たちがいるらしいダイニングバーが入っている商業ビルはすぐそこだったので私と由希ちゃんは足早に路地を駅方面へと向かった。





 現場へ到着してみればお店の前の通路で順子と理沙がもみ合っていた。それを順子のカレシのユウタくんがオロオロしながら見ていて、あわやキャットファイトの様相の女子たちを前に、がたいのいいユウタくんが何もできずに突っ立っている光景は現代社会っぽいよね、なんてのんきに思えたり。


「なんでケンカしてんの? あんたたちは」

「紗紀子!」

 ふたりの声がキレイにハモる。

「ケンカしてんじゃない、このわからずやを止めようと」

「いいとこに来た! あいつボコるの手伝ってよっ。今度こそただじゃおかない!」

「だからあんたはちょっと冷静に」

「うっさいな、なんであたしが我慢しなきゃならないの!?」


 事の核心がわかってしまって、うーむ、と私は眉根を寄せる。ここはユウタくんに説明を求めるべきだよな。


 じろっと目を向ければ、正直者なユウタくんはぺらぺらと過不足なく語ってくれた。

 今夜はWデートの予定が、理沙のカレシのコウジくんが、お父さんがぎっくり腰で付き添っていなければならなくなったとドタキャンしたこと。理沙がくさくさしていたので慰めようと三人で飲みに来たところ、よその合コングループに混じっているコウジくんを発見したこと。


 コウジ……相変わらずこりないやつだ。いっそ清々しいぞ。わ、私は一応反省するけど、あんたは絶対しないだろ。


「ユウタくんは知らなかったんだね?」

 コウジの居場所まで知っていたなら理沙と順子をここに連れてくるわけないけど、合コン参加の話自体は聞いてたかもしれないもんね。

「知らないっす、マジ知らなかったっす」

 ユウタくんが必死に否定するのを、理沙と順子も睨むように見ていた。


「もうっ。これはあたしとコウジの問題だから! あんたら帰っていいから!」

 順子の手を振り払おうとする理沙。

「そんなこと言って、あんたたちふたり事件にでもなったら寝覚めが悪いでしょ」

 意地になって理沙の腕から手を離さそうとしない順子。エキサイトしてるなあ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る