21-2.ズレ
しばらくしてぱっちりと目を開けたつぶらな黒い瞳がまたかわいくて、抱っこさせてもらったけれど、小ささはもちろん軽くて温かくて柔らかくてふにゃっとしててすぐにつぶれてしまいそうで、存在そのもので守ってと訴えてくる。
癒しをくれつつ庇護を要求してくる、小さなかわいい生き物って不思議だな。
ミルクの匂いがするほっぺたはよく伸びるおもちみたいな柔らかさで、目のあたりは晃代に似てるって私は思った。
「スキルがないから子守りはできないけど、買い物とか行ってあげるよ、なかなか外にも出れないでしょ」
「ありがと。ダンナもおむつ買ってきたりはしてくれるから」
あの偉そうなダンナさんがおむつをねぇ。
「最初はおむつ替えるの嫌そうだったけど、やってくれるようになったし。夜中の授乳もやってくれるんだよ」
あの偉そうなダンナさんが!
「それはすごい。晃代がんばったねぇ」
「うん。へへ。でもそのヘンの意識もさ、入院中に他のママさんの話を聞いてたら、そんなの当然だって言う人もいるし。でもうちのお母さんからは旦那様にそんなことさせてって怒られて、それでもケンカ」
「世代間のミゾだねえ」
「理解のある人はそうじゃないだろうけど、うちのお母さんは頭が固いんだよね。自分がワンオペ育児で苦労したせいもあるんだろうけど。あんたは夜泣きがひどかったからお父さんを起こさないように公園であやしてたんだ、なんて言われても、そんなのこっちに言わせれば外でうるさくするのは近所迷惑だよねってなるし。ピントがずれてて話がかみ合わないから何でケンカしてるのかわからなくなっちゃうんだよね」
相槌を打ちながら、弟の嫁の美樹ちゃんにストレスを与えるような言動をしちゃってなかっただろうかと我が身を振り返っちゃう。その点、うちの父母はいい意味でも悪い意味でもクールでドライだからなあ。
「あたしも産後の情緒不安定でイライラしてるからケンカになっちゃうんだなって自覚はあってさ。お母さんがヒールになってるおかげでダンナとはケンカしないですんでるし」
へへって笑う晃代はほんとにたくましくなったと思う。
「じゃあ、今度は晃代が食べたいケーキを買ってきてあげる」
「やった。じゃあさ、紗紀のお店のロールケーキがいいなぁ。あれ、評判いいのに食べたことなくて」
「そうそう。あれ、私は和三盆フルーツがおススメ」
詩織がほわわんと言う。
「じゃあ、それで! 楽しみにしてるね」
「そう言われたらまた来ないわけにはいかないねー」
「ふふ、蒼汰も待ってるよ~って」
晃代が赤ちゃんの手を振りながらアピールする。くそ、あざとい。
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