第21話 癒しの男

21-1.ひとそれぞれ

 新婚旅行から戻った詩織が晃代におみやげを届けるっていうから、私も一緒にくっついて行った。

 出産直後の晃代は披露宴に来ていなかったから会いたかったし、赤ちゃんの顔も見たかった。


 授乳や沐浴、オムツ替えと、すべてが赤ちゃん中心の生活サイクルになるのは、弟の嫁の美樹ちゃんを見ていてよく知っている。バタバタしているところへお邪魔しては申し訳ないので、手が空いたのを知らせてもらってからマンションの晃代の部屋へと上がった。

 インターフォンに手を伸ばす前に玄関扉が開いて、晃代が口元に指をあてながら顔を出した。ハイ、静かに静かに。


 私も詩織も息を殺してリビングへとお邪魔する。以前来たときにはテレビの前に鎮座していたオシャレなソファがキッチンカウンターの方へと寄せられていて、あいたスペースに敷かれたベビー布団の上でまだおサルさんみたいなちっちゃな人間が眠っていた。


 子ども用の小さな布団でも三分の一くらいにしか収まっていない。ちっちゃーい、かわいい~。

 まだはえそろっていない眉毛に小さな鼻、薄い唇。小さな手をかるくこぶしに握ってばんざいの形ですやすや眠っている。うーん、癒しだ、めっちゃ癒し。


「ごめんねえ、やっと寝てくれたところで」

「ううん、たいへんだよねえ。おやつ買ってきたけど、お昼は? ちゃんと食べた?」

「うん。大丈夫、大丈夫」


「授乳中はクリームは控えたほうがいいっていうから、あんこ系にしちゃったんだけど」

「そういうねぇ。でもあたしは完全母乳にこだわってないから、出ないならそれでもいいかって」

「そうなんだ」

 それこそ美樹ちゃんがコーヒーやケーキを我慢したりマッサージしたりと、大変そうだったのを知ってる私は目をパチパチしちゃう。

「ひとそれぞれだもんね。先に訊いておけば良かった」


「だねぇ。なんの苦労もなくじゃんじゃん出る人もいれば、あたしみたいに出ない人もいるのに、母乳母乳ってうるさいんだよ。うちのお母さんがそうでさ、お姉ちゃんはあんなに出たのに何であんたはって比べられてイラっとしてケンカになっちゃった。担当の助産師さんは、無理しなくてもミルクに頼ればいいんだよ、今のミルクは品質だっていいんだからって言ってくれて。あたし根性ないからさ、無理するのやめようってすぐに決心しました」


 どら焼きを頬張りながらそう話す晃代は、なんだかたくましくなった気がした。既婚者組が増えたのが嬉しいみたいで、詩織とふたりで披露宴当日のあるある話が始まったので、私は話の輪から抜けてかわいらしい赤ちゃんの寝顔を眺めてた。話に入れないのが寂しかったわけではないぞう。

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