21-3.めまぐるしい




 今日は私がクルマを出していたので、晃代の家を出たあと詩織の新居へと向かった。


 キョウスケさんは一人息子なうえにお母さま大好きな気配があったから、親と同居なのかと思いきや、もっと職場の近くに住みたい、というキョウスケさんの希望で、新婚夫婦ふたりでとりあえずの賃貸暮らしをすることになったのだそうな。

 営業職あるあるで、社内ルールが厳しくなって直行直帰がしにくくなったのだそう。それなら通勤にかかる時間を短縮したい、と。


 それもとりあえずで、いずれ別にマイホームを購入するか、キョウスケさんの実家を二世帯住宅に建て直すかを考えないといけないらしい。

 聞いてるだけでめんどくさそう。なんて決して他人ごとでもないのだけど。


 最近は、家賃を払い続けるのなら早めにマイホームを、という考え方が主流らしく、結婚してすぐに二十代で家を購入する層が多いらしい。

 確かに、不動産の広告を見ていると頭金なし毎月の返済は手の届く範囲の価格表示で、それならって気持ちになるのもわかる。


 単身女性向けの分譲マンションのチラシを見て、私もちょっとその気になったことは、今のところ誰にも話していない。

 静香あたりはとっくに不動産購入を視野に入れていそうで、今度そういう話をしてみるのもいいかもしれないと思ってる。


 なんにせよ、三十になる前に漠然と感じていた将来への不安とか焦りとか寂寥感とかは、三十歳になったとたんにぱっと開き直れてポジティブになったというか諦めがついたというか、それで楽にはなったのだけど、今度は四十代へ向けての心配がさっそく頭をもたげてきてしまって、やはり二十代の頃とは違うんだよなぁって感じちゃう。


 今だって、以前ならこのまま詩織と夕飯時までぶらぶらして、一緒にご飯を食べてってスケジュールだったろうに、キョウスケさんが帰宅するまでにごはん作らないとだからこれでお別れなのだ。ちょっと寂しく感じちゃうのはしょうがないよね。


「夕飯の買い物は? 必要ならスーパー寄るよ?」

「んーん、大丈夫。紗紀ちゃんは気が回るね」

「えー、照れるぅ」

 褒められてこそばゆい気持ちになったものの、詩織の声のトーンが低いのが気になった。


「どうした? 疲れてる?」

「んーん。なんか、目まぐるしい一年だったなぁって。去年はまだ、アキちゃんは不妊で悩んでたじゃん? 私だって結婚するとは思ってなかったし」

 確かに。詩織はキョウスケさんと結婚するのかなって予想してはいたけど、プロポーズから入籍、結婚披露宴までが驚異的なスピード進行で驚いた。すべてはキョウスケさんの段取り力がなせる業だ。

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