20-5.負けてる気分

「改めて、ちゃんと話さなきゃだなって」

「昨日のこと?」

 丸い瞳に笑みをにじませながらナオトくんはちょっとだけ首をかしげる。くそ、小動物みたいでカワイイ。リスだ、リス系男子だ。


「というより、これからのこと」

「いいね、そういうの大好き。じゃあ、僕が紗紀子さんの考えてること当ててみる」

 うう~、あざとい上目遣いはやめてください。

「どうやって断ろうって言い訳を探してる。どう?」

 言い訳だって、やな言い方するなあ。私はつい人の悪い笑顔になっちゃう。なのにナオトくんはあくまでカワイイ笑顔だ。いろいろ負けてる気分。


「正解だね。じゃあ、僕の考えてること当ててみて」

「私をからかって楽しんでる。どう?」

「はずれー。僕はいたって真面目に話してます。紗紀子さんをモノにしたいから」

「ほら、からかってる」

「そーゆーふうに相手の本気をかわそうとするのが紗紀子さんのダメなところ。違う?」

「降参」

 私は両手を上げてみせる。


 会話が途切れたタイミングで障子の向こうから声がかかり、店員さんがスイーツセットを運んできた。私とナオトくんの手元の湯呑にささっとお代わりも注いでいく。実にありがたい。

「いただきます」

 ひとまずクールダウンだと思って手を合わせて見つめると、ナオトくんも心得た様子でにっこりして手を合わせてから匙を手に取った。


 クリームあんみつに抹茶ラテ、なんて組み合わせでオーダーしちゃったあたり、頭が回っていなかった、と私は反省しながら甘味をたいらげ煎茶をすすった。お冷の代わりにお茶で良かった、ほんといい店。


「ごちそうさまでした。じゃあ、僕から提案するよ」

「うん」

「おためしってどう?」

「私はそういうのは好きじゃない」

「なんで?」

「軽く感じるから」

「えっちしといて?」


 面と向かって言うのは気がひける、でも正直に話さないと通じない気がして、私はぶっちゃけた。

「ヤるだけなら好きじゃなくてもできるでしょ。でも、お付き合いは好きな人としたい」

 ふはっとナオトくんは噴き出した。

「紗紀子さん、かわいい」

 なんだとコラー。カワイイ顔して上から目線。すっかり掌で転がされちゃってる。


「ナオトくん、モテるでしょ」

「モテないモテない」

「うそうそ」

「うそじゃないって。僕こういう話し方でしょ? 馬鹿にしてるって嫌われちゃうんだ」

「そう? 私は話しやすいけど」


 うっかり口がすべっちゃって、しまったと思ったけど遅かった。ナオトくんは憎らしいほど嬉しそうに笑う。

「……僕ね、自然体なのが好きなんだ」

 リラックスする姿勢になって彼は私を見つめた。

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