20-4.演出?
さて、と私は着ていた上着の裾をなんとなく整えてから、お店へ向かった。
住宅街の一角にあるこの和カフェは、呉服屋さんが会員向けに経営していた茶道教室の茶室を改造したとかって、オープン時に話題になってたお店で、私も気になっていたスポットだ。
静かな個室が評判で、でも要予約だったよなぁといろいろ思い出しながら垣根の内側の石畳を進む。その途中でナオトくんと会った。
「こんにちは」
私を迎えに出て来てくれたみたいだ。気が利く、優しいぃ。
「さっき店員さんにダメもとで聞いてみたら、キャンセルがあったって個室が空いてて。ラッキーですね」
圭吾くんもそうだったけど、絵美のカレシのジュンヤくんもそうだけど、私たちの下の世代の男の子ってソツがないなあとつくづく実感する。ナオトくんもモテるのだろうなぁ、フツウに。
ナオトくんにくっついて店内へと入ってみれば、BGMもないとても静かな空間で、でもお客さんがいないわけでも無言なわけでもなく、聞き取れない程度にトーンを押さえたおしゃべりの声がBGMの代わりになってる、と感じるめちゃくちゃ落ち着いた雰囲気だった。
個室は奥の中庭に面した並びで、三畳間を障子で仕切られたほんとの個室だったのでちょっと驚いた。個室と銘打ちつつパーテーションで仕切っただけってお店は多々ある中で、ここは評判がいいだけあるなと感心。
そろそろと靴を脱いで畳に上がる、そろそろと掘りごたつに足を下ろして座る。静かーなお店だから、静かーに動かなきゃってなっちゃう。
ふと、座卓を挟んで向かいに座ったナオトくんと目が合う。同じこと考えてるなーとぴんとくる。ふふっと笑うとナオトくんもにこっと笑った。
「こういうお店って緊張しない?」
オーダーをすませた後で小さな声で話しかける。
「緊張するけど、そこが好きだったりします」
「はは、わかる気がする」
「こうやって小声で話すの、内緒話してるみたいで、仲良しな感じがするし」
お互い知らず知らずのうちに頭が近づいていて、目の前のこげ茶の瞳にさっといたずらな色がよぎったのを目撃して、私はやられたかな? とちょっと身構える。
ふわふわな明るい茶髪で、鼻筋の通った優しい顔立ちで、癒し系なイメージをかもしだしているけれど、意外に計算高かったりする? 無防備にものすごーく自然に個室に連れて来られたけど、ほんとはそのつもりで予約してあったのだったりして。実は昨晩から、いろいろ、演出されたのだったりして。
なーんて勘ぐっちゃうのは三十オンナの悪いクセ。
緑色が目にやさしく香りも良い抹茶入りの煎茶をゆっくり口に含んで、私はこれからの段取りを考える。
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