20-3.お誘い

「で、その」

「ナオトくん」

「いくつだって?」

「二十六」

「許容範囲じゃない?」

 私は行儀悪くテーブルに両肘をついて顎を支えた。

「見た目は二十三」

「童顔かあ」

「一緒に歩いてて恥ずかしいくらい」


 キレイだと思って、なんて言われたところで、そりゃ友だちの披露宴に出席するのに二週間前からダイエットしてボディラインを整えて、気合入れてメイクして着飾って、それなりに見目好く見えたならそれはあのときだけの話で。


 それなのに、化粧がはげ、髪もぐちゃぐちゃになってる三十オンナを目の前に、よくも言えたなあ、天使か、あなたは天使かって、私好みのキュンとくる笑顔の持ち主であるだけに。つまみ食いしちゃってごめんなさい、なかったことにしてください、とはいかず。


「それで付き合うのか」

「いやあ」

「紗紀。はっきりしないと」

 めっと静香に怖い顔をされて、そうだよね、と私も背筋をただす。

 こんなん、眉間を寄せて怒りそうな人たちの顔が他にも浮かぶ。由希ちゃんとか由希ちゃんとか由希ちゃんとか。


 また連絡しますね、なんて手を振るナオトくんに、曖昧な笑い顔で手を振り返して今朝は帰ってきてしまったけれど。ちゃんと話さないと駄目だよな。よし。

「よし。今メッセ送る。ちゃんと話そうって」

「おし。送れ送れー」


 ところが。鞄からスマホを取り出したとたんにメッセージアプリに着信があって私は驚いた。

 当のナオトくんからだ。「体調どうですか? 二日酔いには温かい緑茶が良いそうです。出てこれそうなら和カフェにご一緒しませんか。お話したいです」だって。


 やーん、優しい。しかもなんてスマートな誘い方、有無を言わさずお店の情報を貼ってあるのも好感触だ。私はこういう合理的なのが好き。


 うきうきした気分でいたら顔にもろに出ていたらしく、絵美からはしらーっとした目で見られ、静香からは苦笑いを向けられた。

「話をつけたうえで付き合うならいいんじゃない?」

 合理的思考にかけては私の上を行く静香がそう太鼓判を押してくれた。





 待ち合わせの和カフェには絵美にクルマで送ってもらった。私がグロッキーだったからお昼に家まで迎えに来てくれていたのだ。ほんと申し訳ない。


「昨日の今日でがっつくなよー」

「しないよ。明日は朝から仕事だし」

 真顔で返事を返すと、だよねーと真顔で返された。

 この年になると女だって男女の付き合いよりも仕事が大事で、翌日の仕事に影響しないような休日の過ごし方を考えちゃう。なんか本末転倒な気もするけど。

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