15-2.再会




「田島さんが来てくれてよかったよ」

 閉店後、一緒にレジの清算作業をしながら店長がほくほくしながら言ってくれる。

 あっさり採用されバイトに通い始めて二週間がすぎていた。


 さすが老舗の個人のお店で、やり方は昔と何も変わっていない。すんなり仕事に慣れることができた。

「ほんと紗紀子さんとシフト入ると安心です。わたし領収書とか伝票の書き方わからないから」

 現役女子学生のバイトの子も言ってくれる。頼られれば素直に嬉しい。私は単純だから。


 ブラインドを下げた店舗の入り口からノックの音がした。

 閉店だというのにこうやって駈け込んで来るお客さんは頻繁にいる。

「いいよ。入れてあげて」

「はい」

 店長がオーケーするから私はブラインドを上げ、自動扉のロックをはずして手で片側だけを引いて開ける。

「どうぞ」


「すみません」

 背広の首元にマフラーを巻いた男の人が寒そうに首を竦めながら入ってくる。

 私の横をすり抜けざま、じろじろ眺めてくる視線を感じ私も目を上げた。

「サキじゃん」

 げ。「いらっしゃいませ」のいの字に口元を凍らせたまま私は固まる。

「何やってんの? 副業?」

 佐藤のヤツが矢継ぎ早に訊いてくる。

 なんだ、こいつ。戻ってきたのか。


「いらっしゃいませ。お客様、御遣い物ですか?」

 カウンターの中から店長に促され、ヤツは私から離れてレジのそばに行く。

「二千円の詰め合わせを三箱お願いします。のし付けて」

「短冊でよろしいですか? 宛名はどういたしましょう」

「入れなくていいです。あと領収書ください」

 店長が先にお会計してる間に私とバイトの女の子とで品物を準備する。


「お待たせいたしました。こちらお品物です」

 カウンターの向こうに回ってヤツに手提げ袋を渡す女の子に合わせて、私もお辞儀をする。

「じゃあな」

 ヤツはあっさり手を振り出て行った。

「知り合いですか?」

「昔の友だち」

 私もあっさり言って閉店作業に戻った。





「あらら、佐藤氏戻ってきたのか」

「うーん」

「仕事も辞めたことだし、接点もうないんじゃない」

「そうだね」

「残念?」

 絵美がにたにたする横で、詩織が無言で心配そうな顔をしている。


「今さあ……」

 いつもの日帰り温泉の露天風呂。顎までお湯に浸かって私は話す。

「いい感じに心穏やかなんだよ、私」

「男断ちできてるもんなあ」

「でしょ? このまま自分のペースでのんびりしてたいんだ」

「紗紀ちゃんがそう言うならいいけど」

 詩織は少しひっかかるような顔をしてたけど、何も言わないでいてくれた。友だちは優しい。

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