14-3.「私はあなたが嫌いです」




 引継ぎのために由希ちゃんをバシバシしごいたりマニュアルを作ってあげたりしてるうちに忙しく時間はすぎた。

 少しずつ私物の片づけも始める。


「まさか紗紀のが先に仕事辞めることになるとはねぇ」

 上司との交渉の結果、年度末まで仕事を続けなければならなくなった静香は、複雑そうに言う。

「めでたく退職したらのんびり旅行に行こうよ」

 私が誘うと静香は頬を綻ばせる。

「そうだね。でも、失業保険貰えるまではバイトしようと思ってるから。夏になっちゃうけど」

 さすが現実的だなあ。


「理沙と順子のハナシ聞いた?」

「付き合い始めたって?」

 私は結論しか聞いてないけど、静香は逐一報告という名の相談をされていたのだろう。うんざりした表情になる。男性サイドからもきっと話を聞かされてたんだろうなあ。うわあ、ゾッとするわあ。


 例の件の際、理沙と順子に詰め寄られたコウジは狡猾にもユウタくんに助けを求め、以来四人はタブルデートを重ねたそうだ。学生かよ、まったく。

 それで最終的には理沙とコウジ、順子とユウタくんとカップル成立したそうだ。


「収まるふうに収まったってことだよね」

 似た者同士でくっついたならそれがいちばんだ。静香はいっそ感心したようでもある。

「なるようになるんだねえ。とはいえ傍から見てても疲れるわ。当分合コンは懲り懲り」

 私もそれには頷く。

 心静かに。今年の目標を忘れてはいない。


 だから私の近寄るなオーラを読んであのことには一切触れてこなかった林さんに追及されたときには、ただごとじゃなく身構えてしまった。


「辞めるのって俺のせい?」

 決めたことなんだからそういうのはもういいんだよ。

「悪いことしたとは思ってないよ。好きだから抱いたんだ」

 そうやって。表情を作る余裕もなく私はくちびるを噛む。

 そうやって、コトの後でとってつけたように言う。男ってやつは。


 卑怯者。無粋にもほどがある。もう辞めるのだし言ってもいいよね。

「私はあなたが嫌いです」

 心静かにさよならしたかったんだけどな。

 波風立てずにおくのは難しい。男と女のことならば。

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