14-2.野望と無謀は違いますよ
頃合いを見計らって社長に退職を申し出ると「ちょっと話そうか」と外に誘われた。
「なになに、急に」
「すみません」
「すぐ辞めたいの?」
「できれば早急に」
「まあ、じゃあ、一か月前ってことで、二月いっぱいいてもらうってことで」
「三月までいなくていいんですか?」
「奥さんが早く戻りたいって言ってんのよ。家にいるの飽きちゃったみたいでさ。子どもは姑さんが見てくれるし」
「あ、じゃあ……」
なんだ、ホントに都合のいい人だな、私。
「紗紀子ちゃんにも由希ちゃんにも辞めてもらうつもりなんかなかったけどね。事務所の花って思えばいてくれて全然かまわないし。支社を出すことも考えてるからさ」
「は!? マジですか?」
「これナイショよ。誰にも言ってないんだから」
ボクだって一応考えてるんだよー。
ガソリンスタンドに隣接した狭いコーヒーショップ。アメリカンをすすりながら社長はぼやく。
「大丈夫なんですか? 野望と無謀は違いますよ」
「苦く……ッ。言うねえ」
歯ぎしりしてから、社長はほんわか笑った。
「そういう紗紀子ちゃんがいなくなるのは寂しいなあ。キミも由希ちゃんも聡明な人だからさ、あやかりたいと思ってたわけだよ」
らしくないっすよ、社長。
「林となんかあった?」
せっかくしんみりしてたのに、いきなり斬り込まれて私はコーヒーを吹きそうになる。
「無粋なコト聞いてごめんねー。ボクさー、これでも鼻が利くから」
「やめて下さいよ」
「うん。ごめんごめん。ボクが口出して解決することならそうしてあげたいけどさ」
「お呼びじゃないですよ。林さんと私とじゃ会社にとっての価値が全然違うでしょう。わかってます」
「だよねー」
広いおでこを撫でながら社長はまたぼやく。
「この後はどうするの? 仕事だったら紹介するよ」
「いえ。自分でなんとかします。今度は別の職種にしようと思ってますし」
「ああ、そうだよねえ。紗紀子ちゃんならなんでもできるもんね」
はい。そこは自信がある。
「じゃあ、そういうことで。あとしばらくヨロシク」
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