10-5.ピュア

「わたし自信ありません」

「セックスに正解なんかないよ。でも我慢するのは違うと思うし、それは自己開発でどうにでもできる」

 樹里は重く息を吐いて私の隣に横たわった。


「多分、わたしにとって彼が最初で最後になると思います。それっておかしいですか?」

「ううん。とっても素敵なことだよ」

 くすりと笑って私は切なくなる。可愛いことを言うなあ、この子は。

「それなら尚更、相性がよくならないと」


「肌が合う合わないってあると思いますか?」

「あるかもしれないけど、そういう相手が見つかるまで手当たりしだいに寝るなんてできないもん。お互いの努力だと思うよ」

「努力……」

「何度も言うけど、我慢するってことじゃないよ。お互いに気持ち良くなるための努力」


 こっちを向いた樹里の頭を撫でてあげながら私は話す。

「もう彼氏だけって決めてるなら尚更さ、怖い気持ちも恥ずかしい気持ちも全部さらして見せればいいんだよ」

 本当に気持ちイイことはその先にあるんだから。


「大丈夫だよ。愛して愛されてるなら」

「わたし、怖がらないでやってみます」

「はは、まずはリラックスだね。一緒にお風呂入る?」

「もうっ。先輩!」

 だって可愛いんだもん。食べちゃいたい。





 ……よくも言えたものだな。樹里との会話を思い出し、私は自分が嫌になる。

 好きじゃなきゃできない? 愛して愛されてるなら? そんなの関係ないってよおく知ってるくせに。

 樹里があまりに初心で可愛かったから、良識ぶった振る舞いをしてしまった自分を苦々しく思う。


 本当は。私くらい汚れてしまえば愛とか恋とか関係ない。

 セックスに愛は関係ない。そんなものなくても誰とだって寝れる。誰としたって気持ちイイ。

 それをよぉくよぉく知ってるくせに。見栄っ張りだなあ、ワタシ。


「大丈夫?」

 少し飲みすぎて部屋に入るなりダウンしてしまった。

 駄目な大人の私を圭吾くんが膝枕してくれてる。優しいなあ、この子は。

「うん、もうだいぶ楽。ごめんね」

「いいよ。今日はお泊りだもんね。ゆっくりしよ」


 手慣れた仕草で彼は私の髪を梳いてくれる。こういうことをしてくれる子は久しぶりかも。

 これも手管だってわかってても甘えてしまうのは、本当にダメになってる証拠だ。樹里のピュアさに中てられてしまった。

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