5-7.気づけっての

 はっきりと涙まじりに晃代は話す。

「あたしが悪いのかなあ? あたしが全部悪くて、こんなふうになっちゃったのかなあ?」

 晃代に悪いところがあるとするなら、わざわざ自分から自分の世界に閉じこもってしまったということ。自分からひとりきりになってしまったということ。いちばん肝心なダンナと向き合うこともしないで。


 だけど今の晃代にそれは言うべきじゃあない。少なくともこうやって、私に助けを求めて来てくれたのだから。

 私は黙ってベッドを下りて晃代の布団に入った。


 のんべんだらりと一人でお気楽に生きている私には、家庭に入って苦しんでいる晃代の気持ちの全部はわからない。結婚は複雑怪奇で、想像で何を言ったところで上滑りの言葉にしかならない。

 ダンナさんが子作りでの不満を抱えていたように、晃代もたくさんの不安や悲しみを抱えていて、風俗で浮気がどうのなんてのは、その表層に出てきた一点の事件でしかない。夫婦の問題は私には想像もできない。


 でもさ、晃代がこんなふうにぼろぼろになってしまった原因の根っこはさ、わかる気がするんだよ。同じ女だもん。

 女なら誰でも同じ。まだ幼い女の子でも、思春期の少女でも、私たちみたいな独身貴族でも、お母さんでもおばあちゃんでも。

 女がこんなふうにぼろぼろになってしまうなら、その原因は、報われないから。


 女の人は真面目なんだよ。一途なんだよ。一生懸命なんだよ。頑張りすぎちゃうんだよ。

 その頑張りを認めてもらえないことが何よりツライ。誰かに見ていてもらえないなら、自分には存在価値なんかないんじゃないか、そこまで思い詰めてしまう。


 君は頑張ってるね、偉いね。ありがとう。ただ一言そう言ってもらえたら、それだけで全ては報われる。また、もっともっと頑張っちゃう。

 いちばん褒めてほしい人から労ってもらえれば、舞い上がっていくらでも力が出ちゃう。そんなカワイイ生き物なんだよ。オンナなんてさ。

 男はナイーブなんてどや顔で言ってる暇があったら、気づけっての、バカヤロウ。


 私なんかじゃ代わりにならないだろうけどさ。精一杯優しく頭を撫でてあげると、晃代はびっくりしたみたいで泣き止んだ。

 かと思ったらまたしくしく泣き始める。

「ありがとう……。やっぱりさ、友だちは優しいね」

「当たり前じゃん」

「ごめんね、紗紀」

 なんのことやら。

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