5-5.メンドクサイ
私たちが黙っていると、沈黙に耐え切れなくなったのかダンナさんは深く息を吐き出した。
「だいたいあいつは我儘なんだよ。友だちのあんたらに話すことじゃないけど」
躊躇するように言葉を切る。
「子作りのことですか?」
小さな声で詩織が尋ねると、水を向けられたダンナさんは小刻みに頷いた。
「俺だって子供は欲しいと思ってるし協力はしてる。だけどさ、すべてがあいつの思い通りになるわけなんかない。わかんないだろうけどさ」
また間を置いてから、ダンナさんは思い切ったように言う。
「排卵日だってわかった途端に、今夜ねって言われたって、簡単にその気になれるわけじゃないんだ。男はナイーブなんだ」
いや。そう言われても。
「あいつは妊娠することしか考えてないんだ。俺のことなんか子種としか思ってないんだ。外で出してきたことを怒るのはそういうことだろ?」
これは相当、拗らせていらっしゃる。私が天井を仰いでいると、まずは優しい詩織がそっと取りなす。
「彼氏やダンナさんが風俗に行ったら、女の子は嫌な気持ちになります。それは普通のことです。好きだから怒るんですよー。普通のことです」
「それにショックだよね。自分に興味なくなったのかって」
ぱちくりとダンナさんは顔を上げる。
「晃代はダンナさんのために頑張ってるんだと思いますよ。あなたに喜んでもらいたくて子作りだって頑張ってるし、あの子が頑張ってることは全部ダンナさんのためだと思うなあ。それなのに外でイタシてこられたらショックだよなあ」
「そうは言うけど」
「男の言い分もいろいろあるでしょうけど、まずは晃代に帰って来てもらうのが先決では?」
「ごめんねって迎えに行ってあげてください」
「そうそう、ここはダンナさんがオトナになってさ。こういうことは長引いたっていいことないでしょ? お互いの実家に知られたりしたら面倒ですよね?」
ぐっとダンナさんは考え込む表情になる。
「認めたくなくても嘘も方便で謝って見せればいいんですよー。それで晃代も気がすむんだから。それからまたふたりで話し合えばいいじゃないですか」
のらりくらりと詩織が説いたがダンナさんは不機嫌な顔つきだ。
まあ、しょうがない。今日の所はこれくらいにして私と詩織は帰ることにした。
「迎えに来る気になったら、住所ココなんで」
私が置いたメモにダンナさんは目もくれようとしなかった。
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