5-4.男の本音

 え? 終わり? 私は思わず由希ちゃんを振り返る。

 由希ちゃんは、むーっと眉を寄せて難しい顔をしている。

「とにかく風俗行ったら浮気ってことじゃないですか」

 そーゆーことだよねえ。


「だからボクが今説明したのは法的にってこと。奥さんに訴えられたりしちゃったらアウトってハナシ。だけどさ、君らの知り合いに風俗行って奥さんに慰謝料払いました、なんて人いる?」

 あったとしても、人にペラペラ話すことじゃないだろうけど。

「世の中の偉大な奥様方は、亭主の愚行を許してくれてるってこと」


「とにかく風俗は浮気ってことですね」

 だーかーらーと、社長は顔をしかめる。わかってますよ。

「男性側は、風俗が浮気とは思ってないんでしょう」

「当たり前だよ。お金で解決。後腐れナシ。それをぎゃあぎゃあ騒がれたんじゃこっちが離婚したくなるよ」

 男の本音ダダ洩れっすよ。


「だから亭主を責めたところで、そもそも謝罪なんかしないから」

 核心を突かれて私はちょっと社長を見直す。

「どうせ紗紀子ちゃんの友だちの話とかだろ。奥さんも若いんだろうけど、こういう問題は奥さんが大人になるしかないから。ダンナに説教したところでダメだから。年長者の意見ヨ、これ」

 はい、ありがとうございます。

 頭を下げたところで休憩時間の終わりのチャイムが鳴った。





 晃代のダンナは五歳も年上だ。年上の男はメンドクサイ。

 でもそうも言ってられないので私は詩織とふたりで晃代の自宅を訪ね、ダンナさんに会った。変則勤務で今週は帰宅が早いことは晃代から聞いていた。


「晃代は私のとこに泊ってます」

「ああ、うん」

 メーカーのカタログの表紙に載っていそうな対面キッチンのカウンターの内側で、ダンナさんはおぼつかない手つきで食器棚を探っている。お茶でも淹れてくれようとしてるのを察し、私と詩織はそれは遠慮してソファに座らせてもらう。


「えーと、いちおう聞きますけど。晃代のこと心配ですか?」

 まどるっこしいこと抜きに、私はダンナさんに訊く。

「戻って来てほしいですか?」

「そりゃあ、もちろん」

「なら謝った方がいいですよ」

「何を?」

 ああ。社長の言った通りだ。わかっちゃいたけどさ。


「折れる気はないですか?」

「俺は悪いことした覚えはないし。好きで行ったわけでもない。これも付き合いだよ」

 社長と言ってることが同じだ。繕う気もないのかうんざりした表情のダンナさんの腹の内は、わからないでもない。

 これも仕事のうちなんだよ、女にはわからないだろ、ダンナが稼いだ金で食べさせてもらってる専業主婦は黙ってろ、と思ってるんだろうな。

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