5-3.何をもって浮気とするかは

「あ、あいつ、あたしに黙ってコソコソと……」

 うんうん。

「会社の人と風俗行ってたんだよっ」

 うん?

「許せない」

 わーん、とテーブルに突っ伏してしまった晃代に戸惑い、私は詩織と目を合わせる。詩織も困ったような顔をしている。

 そうだよねえ。だってさ、風俗って浮気なの?





「社長は風俗に行くじゃないですか」

 翌日、午前休憩のときに社長に話を振ってみた。

 ぶっとコーヒーを吹き出しそうになって社長はむせる。

「なんだよお。ヒドイ濡れ衣だなあ」

「行くじゃないですか」

「なにこれ、逆セクハラ?」

「行きますよね」

「そりゃあ付き合いで仕方なく……」


 あんたが率先して引っ張って行くんだろ。社長さん方が風俗大好きなのはバレバレだ。

「奥さんは怒ったりしないんですか?」

「怒るわけないでしょ」

 社長の奥さんの場合は、慣れもあるんだろうな。

「まあ、病原菌扱いだけどね」

 そりゃそうだ。


「風俗行ったら浮気になるんですかね?」

「……昔、どっかの誰かがそんなことで揉めた話を聞いたなあ」

 そらっとぼけて社長が言うから、私はにたりと笑う。

「年長者のご意見を聞きたいんです」

「ちょっときわどくなるけど、セクハラで訴えないでよ」

 頷きながら私は後ろを振りかえって由希ちゃんの様子を見る。

 興味ないだろうと思ったのに、由希ちゃんも社長の方を見て頷いていた。


「何をもって浮気とするかは人によって千差万別であるし、男女によっても大きくかけ離れすぎているからして」

 おっしゃる通り。

「ここでは法的な話をしよう。夫婦間で慰謝料が発生するような浮気行為ってのはズバリ、不貞行為があったかないかだ。では不貞行為とは何か?」

「肉体関係?」

「それもそのものズバリ、下半身が関わったかどうかだ」

 ほーう。


「映画の18禁ボーダーと一緒ってことですね」

 後ろから由希ちゃんが言う。

「そ。大事なのは下。ということで、このガイドラインに沿って各風俗を検証するとだ。あ、風俗にもいろいろあるってわかってる?」

 うーん。なんとなく。多分、私の後ろで由希ちゃんも首を傾げてる。


「まあ、いいよ。聞いてればわかる。で、まずはズバリ。ソープは黒だ!」

 ほほう。

「ソープは行った時点でアウト。言い逃れなし」

 ほうほう。

「ヘルスと性感マッサージもほぼアウト」

 どう違うかわからないけど、そうなのか。

「ピンクサロンもアウト」

 だから、どう違うのだろう?

「ストリップなら言い逃れできるけど、最近とんと見かけないからなあ」

 ずずっとコーヒーをすすって社長は肩を落とす。

「以上だ」

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