5-2.前振り



 うちらの仲間内で誰よりも早く結婚したのが、晃代だった。もう三年前になる。披露宴で、うちらには似合わないアイドルグループの曲を歌って踊ったことも良い思い出だ。


 働くのが嫌だと豪語していた晃代は、派遣先の企業でエリート候補生をゲットし絵に描いたような寿退社でゴールインしたのである。

 結婚適齢期なんてコトバは廃れて久しいけれど、若さでキラキラした晃代の花嫁姿は、それはそれは美しかった。


 仲間の中からひとり結婚すればゾロゾロ続くというけれど、そこで後続者が出なかったのが、私たちの私たちたる所以だ。

 仕事のノウハウが身に付いてやりがいが出てきて、少ないながらも自分の稼いだお金で自由に遊べる。結婚という束縛より独身貴族の自由の方が魅力だったのだ。


 結婚ラッシュの波は仲間内で三度は訪れるというが、悲しいかな二度目の波は一向に興りそうもない。

 やっぱり私たちはハズシテしまっているのだ。ひとり真っ当に安定軌道に乗ったはずの晃代の方が、取り残されたようになってしまっているのだから。


「子どももまだだし自由が利かないわけじゃないんだよ。ダンナもたまには遊んできなよって言ってくれるし」

「なら声かけてよ。うちらなんかいつだって暇なんだから」

「そうだよぉ。アキちゃんが言ってくれたらいつでも集まるよ」

 晃代のただならない様子に不安になった私は、詩織にもファミレスに来てもらった。


「そう言ってもらえて嬉しいけど、でもあたしなんか、みんなと話が合わないでしょう?」

「そんなことないさ。高校時代の話だってするし、テレビの話だってするし、食べ物の話だってするし」

「あたしなんか、すっかり世間から取り残されちゃってる感じでさ」


 おいおい。どうしちゃったんですか、この人。何が言いたいんですか。

 ……まあ、大体何があったかは想像つく。これは前振り段階だって。

 コーヒーをお替りしながら辛抱強く話を聞いてあげる。すると晃代は、ようやくそれを吐き出した。


「あたしがこんなだからダンナにまで浮気されて……」

 やっぱりね。ふうっと肩で息をついて私は身を乗り出す。しくしく泣き始めた晃代の背中を撫でながら言ってあげる。

「それって間違いないわけ? 相手はどこの誰さ? なんなら私がダンナも相手も蹴り飛ばしてあげるからさ、話してごらんよ」

 とにかく元気づけて気持ちを吐き出させてあげないと。


「私たちはアキちゃんの味方だよ」

 詩織も神妙な顔をして向かいから晃代の頭を撫でる。

「あ、ありがとぉ……」

 ぐすぐすと泣きじゃくる晃代の背中をぽんぽん叩いて私は促す。さあさあ、全部吐きやがれ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る