第26話 ガルスの炎とクロエのゲート
「うおおおおおお!!」
大男のガルスは、雄たけびを上げると全身に力を込めて魔力を解き放った。
ガルスの体から巻き上がる炎は、あっという間に辺り一面を火の海にしていった。
「バカみたいな魔法ね。私の家を燃やさないでもらえるかしら!」
クロエも負けじと魔法で対抗する。
昨日ミレノアール達に使った魔法と同様に頭の上から大量の水が降り注いだ。
それでもガルスの炎の魔力が優って火が消えることはない。
攻撃魔法に特化していないクロエは焦りを感じた。
「マカロン! やっておしまい!」
ドラゴンのマカロンは尻尾を振り回して攻撃をした。
―――― ドゴーン!!
大きな音と共にマカロンの尻尾がガルスに直撃した。
が、ガルスはその大きな体で尻尾を受け止めると、そのままマカロンを振り回し放り投げた。
「なんて馬鹿力なの!? マカロンを放り投げるなんて!」
「アルバノン王国の魔騎団を甘く見るなよ! さあ、焼き尽くされたくなかったらミレノアールを出せ!」
ガルスは先ほどにも増して、体から出る炎の力を強めた。
クロエは水の魔法で大きな盾を作り、自身を守ることで精一杯だ。
(マズいわね……小屋が焼き尽くされると、私の空間魔法も無くなってしまう。その前にお兄様には逃げてもらわないと……)
「ショコラ!」
クロエはショコラを呼ぶと耳打ちをした。
―――― 一方その頃、ミレノアールは階段を下りた先にある書庫の扉の前にいた。
「ルーシーいるか? ちょっと上で厄介なことが起こってな。開けてくれないか?」
「ヤダよ。一人にしといて!」
「そういうわけにもいかないんだ。俺の個人的なことに、これ以上お前を巻き込みたくない。出来ればルーシー一人でここから逃げてくれないか?」
―――― ガチャ
目の前にある扉の鍵が開く音がした。
ミレノアールはゆっくりと扉を開けると俯いたルーシーがポツンと立っている。
「ルーシー聞いてくれ。少し前にクロエの結界に何者かが侵入したらしい。おそらくだが俺を捕まえにきた奴だと思う。もしそうだとしたらここが戦場になる可能性があるんだ。クロエは俺に逃げろと言ってくれたが、そういうわけにはいかない。俺も上に戻ってクロエと共に戦う」
「じゃあ私も戦う!」
「バカ言うな。遊びじゃないんだ。それにこの戦いにお前は関係ない」
「そんなことないよ。師匠を助けるのも弟子の役目でしょ!?」
「逆だバカ。弟子に助けられる師匠なんていないぞ」
二人がそんな会話をしていると上の方からドゴーン!という大きな音がした。
戦いの激しさから緊張感が増していく。
「クソッ! もしかしてもう……いいか、とにかく今、上は危ない。ルーシーは奥のゲートから逃げるんだ。クロエの魔法で他の場所に繋がっているらしいからな」
「師匠もいっしょに行こうよ!」
「俺はダメだ。クロエを置いて逃げるわけにはいかない」
「ミレノアール様、ルーシー様。」
突然ミレノアールの背後から声がした。
それはゴブリンでクロエの使い魔でもあるショコラだった。
「クロエ様は今アルバノン王国の魔法騎士団の者と戦っております。やはりミレノアール様を探しに来た者でした。相手は一人ですが苦戦を強いられています」
「魔法騎士団!? 王国直属の『
部屋を出ようとするミレノアールの前に、ショコラが立ちふさがった。
「いえ、クロエ様はミレノアール様に一刻も早くここから逃げることを望まれています。失礼ですが、今のミレノアール様の魔力では足手纏いになるのは必至です。相手の狙いがミレノアール様である以上、ここは引くのが得策であると考えます」
「だけど、このままじゃクロエが危ないんだろ? あいつは戦闘に向いてる魔女じゃない」
「もちろんそうですが、今クロエ様とミレノアール様が兄妹であるとバレることの方が危険です。ミレノアール様とルーシー様はどうか奥のゲートからお逃げくださいませ。それがクロエ様を助ける一番の方法だと思って、どうか……」
ショコラは強い意思でミレノアールを諭した。
「……わかった。 ……だがクロエも危なくなったらすぐに逃げるように言ってくれ」
「はい。クロエ様は空間魔法の使い手でもありますので、お一人でしたらいつでも逃げることは出来ましょう。それともう一つ、クロエ様より伝言です。『お兄様、ルーシーを守ってあげて。私は、私の師匠を信じているから、お兄様がルーシーを、私の師匠ベルコ・リンドルに会わせてあげて欲しい』とのことです」
「クロエのやつ……わかった! また別の場所で落ち合おうと伝えてくれ」
ミレノアールはショコラにそう言うと、ルーシーを抱えて奥のゲートへと向かった。
そのゲートの向こうにはクロエの魔法によって異空間を介し、別の場所に繋がるという。
ミレノアールはルーシーを抱えたまま、ゆっくりとゲートを開けると出口の見えない異空間へと一歩踏み出した。
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