第7話 ミレノアール 「其の三」

「……い、おい! 聞いているのか、ミレノアール」


 低い怒鳴り声がミレノアールの意識をこじ開ける。

 ゆっくりと目を開くとジョヴァングがこっちを覗き込んでいた。


(……ああ……そうだった。俺はこいつと話していたんだった。じゃあさっきまでのファレルとの会話は夢か……)


 いったいどれくらいの時間、意識が向こうへ行っていたのか。

 ミレノアールは少しばかり混乱する頭の中で記憶を辿ってみたが、100年という長い時間のほんの数分~数十分の出来事に整理がつかないでいた。


「お前が私との取引に応じないならもうお前に用はない。不死身の体で永遠とこの暗くて寒い牢獄で苦しみ続ければいい。次に会うとき、俺はこの世の全てを手に入れているだろうさ。んじゃあな!」


 そこまで言うとジョヴァングは踵を返した。


 そんな時だった。


――――ゴゴゴゴゴゴゴゴッ――――


 大きな地鳴りが地下の牢獄に響き渡る。


「なんだ、なんだ? 地震か?」


 たじろぐジョヴァングをよそに、ミレノアールの耳にファレルの声が届く。


「ではいくぞ、ミレ!」


 ファレルの声と共にボワァァァーっと大きな炎が舞い上がった。

 その炎は瞬く間にミレノアールを覆いつくす。


「な、な、なんだこの炎は? お前は魔法を使えないはず。いったい何をした?」


――――ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!――――


 ジョヴァングの言葉をかき消すほどの業火はさらに唸りをあげた。


――――カッ!!――――


 その瞬間ミレノアールを覆いつくしていた炎が一点に集中された。

 目の前のジョヴァングにも、その一点に集中された光がどれほどの力を持っているかは瞬時に理解できた。


 そして次の瞬間、大爆発が起きた。


――――ドカァァァァァァァン!!!!!!――――


 地下50階で起きた大爆発は力の逃げ場を失い、大きな火柱となって地上へ噴き上げる。


 地下40階、30階、20階、10階と、次々に焼き尽くすその炎は地上に出ても威力は失わない。


 下から突き上げるような爆発に、老朽化した小さな城はひとたまりもなかった。


 そして……「まるで『塔』のようだ」と言われていたその『小さな城』は、ガラガラと音をなし炎と共に瞬く間に崩れ落ちていった。

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