第5話 ミレノアール 「其の二」
心の中で
気が付くと辺り一面真っ暗だ。自分を閉じ込めていた水晶もなければ牢獄もない。
もちろん目の前にいたジョヴァングもいない。
ここが現実ではないと気づくのに時間はかからなかった。
「久しぶりだな……ミレ。およそ100年ぶりか……魔法使いとは言え人間のお前にはとてつもなく長い時間なんだろう……オレ様にとっちゃ100年なんてあっという間だがよ」
ミレノアールは声のするほうを見た。
すると目の前にパッ!と一筋の小さな炎が灯った。
その小さな炎には、よく見ると鋭くとがった『目』も付いている。
すぐにそれの正体が分かった。
「ファレル……だな。ここは……いったい?」
ファレルと呼ぶ炎の正体は『悪魔』だ。
ミレノアールと契約している。が召喚するのは実に100年ぶりだった。
「ここはオレ様の精神世界だ。他の奴に会話の邪魔をされたくないからな」
「ファレル……なんで100年もの間、俺の呼びかけに答えなかった?」
「ハハッ、笑わせるな。お前は現実の世界で魔法を封じられていただろう。オレ様を召喚出来るはずがない」
「……じゃあなんで今、お前は俺の前に姿を現している?」
「勘違いするなよ、ミレ。ここはオレ様の世界だ。お前の声が久しぶりに聞こえたから、ここにお前を招待してやったのさ」
「届いたのか……? 俺の声が……?」
「まあな。魔法を介さないでオレ様の耳に届くなんざ初めてのことだが、契約している以上あり得ない話でもないさ。要はオレ様がお前の声に耳を傾けるかどうかだな。それよりミレ、オレ様を呼んだってことはやっと契約を終了する気になったってことか? ようやくお前の魂を食えるときが来たってことだな! ハハッ!」
悪魔のくせにおしゃべりな奴だ。
「そうじゃないさ、ファレル。契約は終了しない。俺は今捕まっている場所から脱出したいんだ。そのためにお前の力を借りたい。そのために呼んだんだ」
「ハァァァァァァ!? 脱出する?」
ミレノアールの答えがよっぽど意外だったのか、それまで静かに燃えていた一筋の炎が大きく揺らめきだした。
「ミレ、お前はついさっきまで死にたいと思ってたんじゃねえのか?」
「!!! なんでそんなこと知ってるんだ!?」
ミレノアールも目の前の炎の悪魔に負けじと声を荒げた。
「オレ様はお前の心の中を覗くことが出来る。もう忘れたのか?」
(……そうだった。俺が今、話をしている相手は悪魔だ。悪魔は契約する際、相手の魂の一部を借りることで成立する……)
「それならもっと早くに助けに来てくれてもいいだろ!」
「ミレよ、お前はオレ様との契約まで忘れちまったのか。オレ様はお前が望む限り、不死身の力を与える。だがその契約が終われば、オレ様はお前の魂を頂くことが出来る。それが交換条件だ。強い魔力を持った人間の魂は格別だからな。だがオレ様から契約を終了することはできない。だからオレ様はお前に少しでも早く契約を終了してほしいんだよ。本来ならば100年前のあの戦いが終われば、お前は契約を終了するはずだった。あの戦いにさえ勝てれば、その後の魂はくれてやる! とお前は言ったからな。それなのにお前は負け、挙句の果てにあんな地下の牢獄に100年も幽閉されおって。だからオレ様は、お前を助けるよりもお前が死にたいと願い契約を終了するのを待つことにしたんだよ」
炎はより大きくなり鋭い目を見開きながら、今にもミレノアールに襲い掛かりそうなほどだった。
「確かに俺はあの戦いに負け、お前を失望させたかもしれない。ついさっきまであの地獄のような日々に嫌気がさし、死にたいとも思っていた。……だがあの男、ジョヴァングをこのままほっておくわけにはいかない。ファレル……お前が助けてくれないなら、俺はあの牢獄で水晶にほころびが入るまで何百年だって生き続けてやる! だがもしもう一度あの男たちと戦うことが出来て、世界を救えたのなら、その時は喜んでお前に魂を差し出そう!」
何倍も大きくなったファレルの炎を前に、ミレノアールも目を逸らすことなく力強く言い放った。
それから少しの時間、静寂の闇に先ほどより小さくなった炎だけが揺らめいた。
「……いいだろう、ミレ。お前がそこまで言うのならもう一度だけ助けてやる。今からあの地下の牢獄で大爆発を起こす。不死身のお前なら死ぬことはないと思うが……覚悟しとけよ! ハハッ!」
不敵な笑みを浮かべるファレルにミレノアールは期待と不安でいっぱいになった。
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