第3話 ミレノアール 「其の一」
ここは7つの国の中でも、最大の勢力と広い領土を持つ国『アルバノン王国』。
そのアルバノン王国領土内の最北に位置する街のはずれに小さな城があった。
いや城というよりは少し大きな塔というくらいか。
そんな小さな城の地下50階に作られた牢獄に、とある魔法使いが100年もの間捕まっていた。
その魔法使いは、直径3メートルもの大きな水晶の中に身動きも取れず閉じ込められている。
魔法を使えなくするため特別に作られた水晶だった。
―――― 彼の名は『ミレノアール』 端正な顔立ちと長いブロンドヘア、そして青い瞳が特徴的な青年である。見た目は25歳ほどであったが、長い年月とこの牢獄という場所のせいで痩せこけた頬が、憔悴しきっていることを如実に物語っていた。
彼の着ている青いローブも、元々は高級な仕立てが施されいたと思われるが、長い年月のせいでこちらもまたボロボロな物へと変化していた。
だがしかし、彼の最大の特徴と言えば 『
彼は不死身であるが故に、死ぬことはない。老いることさえない。
しかしそんな彼は今、『死』を望んでいた。
当然と言えば当然だ。身動きも取れない、食事も与えられない、話相手もいない。
そんな状態が永遠と続いているのだから。
(……この牢獄に閉じ込められて、どれだけの時が経っているだろうか……外の世界は今どうなっているのか……魔法さえ使えれば……)
そんなことをただ頭の中で巡らせるだけの日々が続いていたある日のこと、ミレノアールのもとに一人の男が現れた。
白髪と大きなヒゲをたくわえた男だ。
「久しぶりだなミレノアール。老けることもなく未だに生きていられるということは、いよいよその不死身の力、本物ということか」
何十年ぶりに聴く人間の声もミレノアールの気持ちが上向くなんてことはない。
聞き覚えのあるその低い声は、他でもないミレノアール自身をここに閉じ込めている張本人なのだから。
ミレノアールはゆっくりと目を開き、自分の目の前に立つ男を睨みつけた。
―――― 男の名は『ジョヴァング』 薄ら笑みを浮かべているこの男もまた魔法使いだ。不死身ではないが、かなりの実力者であることはミレノアールがよく知っている。
「……よう、ジョヴァング。わざわざ王都からこんな辺境の地にやって来たってことは、そろそろ俺をここから出してくれる気になったのか?」
ミレノアールは目一杯の強がりを見せたが、久しぶりに声を出したせいもあり、ところどころが擦れていた。
「笑わせるな、重罪人のお前を助けるわけないだろう。今日はお前がこの牢獄に来てから、ちょうど100年だそうだ。もうこの国でもお前を知るものは少なくなってきた」
「そうか……あれからまだ100年か。時の流れが遅すぎて1万年くらいには感じるさ」
「本当ならお前はとっくに死刑のはずだった。ところが殺しても殺しても死なんお前は厄介でならん。不死身などという力、今は後悔しているんだろう?」
「そうでもないさ、でなきゃ今頃こうしてお前と話しなんか出来ていないからな……」
お互い「敵」と認識はしているものの立場的にも力関係はあきらかだ。
ミレノアールは心の底では死を望んでいても嫌いなやつの前でそれを表に出すことはない。
それでもジョヴァングは、ミレノアールの言葉を聞き流すように自分の話をし出した。
「私はこの世界のすべてを手に入れるために不死身の力が必要だ。お前がどうやってその力を手に入れたか知らんが、お前には持て余す力のはずだ。早く私にその力の秘密を教えろ! そうすればここから出してやると何十年も前から言っているだろう!」
「誰がお前なんかに……そんな分かりやすい悪党が不死身になったら、それこそこの世の終わりだ。死んでも教えん!」
「ふん。このアルバノン王国を乗っ取ろうとした重罪人が私を悪党呼ばわりするとは笑わせるな!」
「乗っ取ろうとした? 俺は守ろうとしたんだ! この世界を!」
「ふん。不死身の力を手に入れてまで守ろうとしたお前は、何も守れなかっただろう。勝者こそ正義を語る権利がある。お前は俺に負けたんだ!」
「お前にじゃない。お前
ミレノアールの怒りは最高潮に達していたが自分を覆いつくす魔法の水晶によって身動きすら取れない。
手が出せないミレノアールに対してそれでもジョヴァングは薄ら笑うような態度で話す。
「まあいいさ。不死身などという力がなくても、いずれこの世界は私が統べることになる。お前は知らないだろうが、この100年で世界情勢は大きく変わった。アルバノン王国は世界でも有数の魔法国家となり、今や『魔法協会』ですら対等に渡り合える存在。私が協会の頂点に君臨する日も近い。邪魔者を徹底的に排除してな! フハハハハハッ」
地下50階の牢獄にジョヴァングの高笑いが響いた。
(もう我慢できない。こいつはほっといたら本当に世界を壊しかねない。)
――――
そうミレノアールは心の中で叫んだ。
世界の果てのさらにもっと遠くへ届くように祈りながら。
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