第2話オズ・フライハート(2)
手を引く彼女。身長180センチのオズからすれば、その30センチの差はかなり大きい。それでも構わず彼女は引っ張る。背中の中央当たりまで伸びた長い白髪。彼女が歩く度に良い香りがする。
「待て待て!武器ってなんだよ!俺は――」オズは無理やり、手を振りほどいて彼女に尋ねる。
「あなた専用の武器ですよ。これからこの部隊でやっていくのに、何もないと大変でしょう?きっと――あなたなら。あの武器も使えますから」彼女の言葉を聞き逃す。
あの武器も――そんな言葉を聞き逃す程に、オズは困惑していた。
「さぁ――着きましたよ。武器庫です。あなたに使って頂きたいのは、これです」彼女が取り出したのは、金属製の手甲とナックルダスターが合わさったようなモノ。そして、一見、普通のスニーカーに見える靴。
「これでワンセットですので。取り敢えず――装備してください」彼女に言われるまま、彼は装備する。
「じゃあ、私と1戦しますか。さっきレナさんと戦ったところで待ってますので」そう言うと彼女は足早に去ってしまう。彼女の居なくなった武器庫で、彼は。渡された武器を眺める。
「しゃーねぇか」ため息を1つ。彼は彼女の元へ向かった。
――――――――――――――――――――
「待ってましたよ――オズさん。さぁ、私を失望させないでくださいね?」
ユイ・ラピッド。レナの部隊に所属している専属技師。
「アンタも異能力者なのか?」オズの問いかけに、彼女は首を横に振る。でも――。彼女は続ける。
「でも、私は武器があります。例えば」指を鳴らす。刹那―彼女の背後には、巨大な砲台が。上には、斧―日本刀―西洋刀―槍―鎌―鉈―薙刀―鋏―針――ありとあらゆる刃物が浮いていた。更に、オズを取り囲むように人形が現れる。その人形は、例外なく何かの刃物を持っていた。
「これは私の所有する武器のほんの1部に過ぎませんが、これで十分でしょう」笑った。彼女は笑った。それは、余裕のある者が浮かべる、優越感の笑み。
「えげつねぇ。それで?俺のこの武器はどう使うの?」そんな彼女の表情の変化など、興味ないと言わんばかりに、彼は彼女に問いかける。
「私が勝手に名付けました。〈起爆式加速ナックル〉と〈起爆式加速シューズ〉です」
その名前を見て察する。よく見てみると、手甲のような―ナックルダスターのようなそれは、ナックルの指をはめるリングと、手甲に何やら穴がある。ナックルの方は相手に向けて。手甲は後ろへ。恐らく、オズの身体能力から繰り出される拳に合わせて起動すれば更に威力が増すのだろう。ナックルのリングにある穴からは、銃弾が出る仕組みらしい。異能力故に、近距離戦に特化した彼の、遠距離からの攻撃手段だろう。
そして、一見は普通のスニーカー。その踵部分には、手甲と同じ穴が。蹴りを使う時に起動すれば、こちらも同じく―威力が増す。
問題は、その加速手段が爆発であること。それを使う度に。腕に。脚に。相当の負荷がかかるのだ。故に、生半可な身体では爆発を1回でも使えばその体が持たない。それは、あのレナでさえ耐えられない程に。しかしオズの体は生まれつき、常人の3倍。能力を使うだけで、更に倍率は上がり6倍になる。現状――誰も使えずに持て余したこの武器を使える可能性があるのは、オズだけである。だから彼女は、オズに託した。この武器を。
「さぁ――オズさん。私の磨き上げた武器と、遊びましょう!!」
――――――――――――――――――――
ちょっと待った。悪いね。話を遮って。でもさ、よく考えてみてよ。オズの能力っておかしいだろ?6倍だぜ?6倍。有り得ないだろうが。だよな?君だって疑問に思うよな。それでもここまで読んでくれた。でもやっぱり、おかしい。君にだって、常識があるはずだ。なんせ、こんな物語を見ているんだからさ。だったら、常識の範囲に、物語を歪めちゃおうか。そうすれば――――――――――
―――ゴメン。無理みたいだ。俺の力じゃたりねぇわ。
やっぱり、君は訳が分からないって顔をしてる。そんな顔をするなって。
〈
さぁ―――諦めて、見届けようか。
不幸な青年の、不幸な顛末を。
じゃあ、;@8;@8。
―――――――――――――――;@=@――
そこに立っていたのは、オズだった。血塗れのオズだった。足元には人形。刃物。粉砕された砲台の欠片。彼の正面には、ユイが笑顔で立っていた。
「もう良いだろ?俺は帰る」扉に向けて歩き出したオズをユイは止める。
「待ってください。あなた――異能力を使ってないですよね?能力との相性を見たいんです」指を鳴らす彼女。オズが振り返ると、そこには。
「オズ・フライハート。あなたの攻撃、行動は全て記録しました。それをふまえた上で、あなたと全く同じ体重、身長、身体能力の人形を用意しました。さぁ――もう1戦」
「めんどくせぇ。俺は帰る」それでも、オズは扉に向けて歩き、ドアノブに手をかける。だが―それを許さない人形。オズの肩を掴み、連れ戻す。
「これが最後だ。俺は帰る」
後ろを向くが、やはり人形が、オズを掴んで離さない。仕方なしに、オズは。隠していた殺気を放つ。
「――ッッッッッッッッ!!!!!!!!」
怖い。怖い。怖い。ユイは恐怖を覚える。
振り返ったオズに。ユイは恐怖を覚える。そこにいた、〈
「あ――」声が出ない。恐怖を感じた刹那。既に人形は破壊されて。
「――」その力に驚くよりも早く。ユイの意識は飛んだ。
―――――――――――――――――やぁ。僕だよ。僕。本編に登場してみたんだけど、やっぱりオズには、僕が分からないみたいだね。
「誰だ?テメェ――」
あまり構えないでよ。警戒しないでよ。僕は君と違って平和主義なんだ。この世界の傍観者とも違ってね。
「何を言ってる?」
「なんでも」な「いよ」。だって「僕には」全部「わかってるんだから」。「い」つかはこっちに登場しようと思ってた「けど」、君には分からないみたいだね。無理もないか。
「さっきから」言ってる事が分からないんだが――「か」んけつに「質問」す「る」ぞ。アンタは「て」きか――味方か?
「僕は、君の味方だ。君のために、僕は。今まで頑張って来たんだよ?この世界を、誰かに」見届けても「らうためにね」?
さっきから何の話をしてる?全く話が見えて来ないんだが?
「
しょ
うがな
いなぁ。
僕だってほ
んとは、こん
な事をしたいと
は思わないんだよ
。でもねぇ―君があ
まりにも理解力がない
せいで、こんな苦労をす
るハメになってるんじゃな
いか。少しは感謝して欲しい
けど。今はまだゆるしてあげる
よ。だってほら。僕は貴方とちが
って。心は広いと自負しているから
ね。――――それにしても、まだわか
らないのかな?僕の正体が。そろそろき
づいてくれないと、僕としてもさ。やる気
が出ないんだよ。ねぇ?ねぇ?――――――
ホントは分かってるんじゃないの?だって
ほら。見れば分かるでしょ?僕にはわか
るよ。君の正体が。それにしても、の
んきな傍観者さんは、きっと。こう
思ってる。いや、思うんだ。おま
えの独り言が、長いせいで、あ
きて来たってね。いや、実際
ね?僕だって君が気づいて
くれれば、それで十分な
のにさ。あまりにも君
が鈍いせいで、こん
なにも、長々とか
いせつしなきゃ
ならないんだ
から。早く
気づいて
欲しい
んだ
」
――――――〈
「まぁいいや。――もしかしてオズ。僕と戦おうとか思ってる?やめといた方が良いよ。それじゃあ――バイバイ」
――――――――――――――――――――
オズは、全てを忘れていた。さっき、目の前に現れたその男のことを。そもそも何もなかった。それだけだ。
「オズ。その武器が合って良かったよ」いつの間にか、そこにはレナがいた。今、彼女が着ているのは白いスーツ。全方面が白いこの部屋では、これ以上なく見にくい。
「今のオズなら――リファと一緒に帝都に出られるかな?―その前に、キミのその囚人服はマズイから、君のためのスーツを用意した。着替えて」手渡されたスーツ。その場で着替える。オズは、レナがいても、何の抵抗もなく。
「じゃあ、行こうか。私の管理する部隊―帝都警備隊――罪人の1番隊へ」
彼女はそう言って、確かに微笑んだ。
――――――――――――――――――――
彼女に連れられるままに、建物の中を歩く。この建物の中には、帝都警備隊の10部隊のうち、2つがある。レナの管理する第1部隊と、第2部隊。それだけしかないのに、無駄に広いのは、この中に、警備隊の寮があるかららしい。
いろいろと説明を受けながら、オズは、とある部屋に着く。
「さぁ―皆。オズ・フライハートだ」レナが紹介する。視線がオズに集まる。レナとオズを含めても5人しかいない。
「はは!!君がオズだね?よろしく!!はははは!!」笑顔で。煩い程に笑いながら話しかけてくる女性。
室内にも関わらず、傘を持っている。漆黒とも形容すべき傘。着ている服も漆黒。靴も。髪も。だが――その手にはめた手袋だけは、真っ白だった。
「私はリファ。リファ・ドリーミング。よろしくね!!はは!!はははははは!!」何がおかしいのか。オカシイのか。彼女は笑う。
「よろしく」だが―オズは。何も気にしない。別に構わない。そう言いたげな彼は、リファの顔を見て。挨拶をした。
「へぇ――凄い。リファ・ドリーミングと言えば、薬物のバイヤーとして有名なのに。全く引かないんだ」いつの間にか、背後を取られていた。気づかない。あまりにも自然に。何の違和感もなく。彼女はそこにいた。
「リファにはね、きっと君が―人には見えていないんじゃないかな?――おっと。挨拶が遅れたね。私は、ウォーカー・ハイエスト。趣味で暗殺稼業している者だ」なるほど――オズは得心する。それなら、ここまで気配を消せるのは当たり前だ。グレーの髪を束ねるのは、輪ゴム。見るからに安いサングラス。ヨレヨレのレディーススーツ。サンダル。あまりにも暗殺者らしからぬ格好に、オズは疑問を持つが――尋ねない。
「オイオイ。あんたが入ると、俺のハーレムが崩れるじゃんか。まぁ―俺は男もいけるからいいんだけどな。――てなわけで、宜しくな――イケメン。俺は、ロア・ラウンドってんだ。こう見えて参謀だ。とっても頭が良いんだぜ。まぁ――結局は俺もハッキングで捕まったんだけどな」
何やら危ない香りがする男。ニヤニヤと上がった口角。熊のキャラクターモノのスリッパを履いている。左手には、見るからに高そうな腕時計。
そんな彼の周りには、大量のパソコンが置かれていた。
「と、こんな感じのメンバーだ。あとは、ユイと――ウチの専属医師がいるんだが――そこに隠れてないで出て来たらどうだい?」
レナに言われて、恐る恐る出てくる。白衣を纏った彼女。肩で切りそろえられた、黒髪。ヘッドホンを付けた彼女。スラリと伸びた長身。だが―その見た目に反して。
「あ、あの―あの―」人見知りが激しかった。
「私は、ノア・マーリンって言います!闇医者です」
オズは、理解した。
全員が、揃って罪人なのだ。だからレナは。
罪人の1番隊と言った。そう表現した。だが――レナとユイの罪は?
オズの顔を見たレナは、オズの疑問に答える。
「私は国家反逆罪。ユイはエアガンの違法改造だよ」
なるほど――オズは理解する。
「じゃあ、次はオズのコードネームを決めよう。私達は、皆――コードネームを持ってる」レナの提案。
「コードネーム?そんなの、オズで良い」オズは要らない。これ以上、何か付け加えられると、いよいよ頭がパンクしてしまう。
「例えば――」
例えば。
レナのコードネームは〈
同じようなルールで付けていけば、必然的にリファは〈
ウォーカーは〈
ロアは〈
そしてノアは〈
「オズは、そうだな―〈
だから――――オズは。
――――――――――――――――――――
オズに生じたこの感情って、何だろうね?
知らないわ。私に聞かないでよ。
ごめんごめん。いや――じゃあ、そうだな。やっぱり君を頼るしかないのかな?
どう思う?傍観者さん。あなたは、どう見る?
それから――――――どんな未来が見える?
そんなの、どうでも良いじゃない。私はもう飽きたわ。早く終わらせましょうよ。私は、待たされるのが大嫌いなのよ。ねぇ―あなたもそうでしょう?停滞者さん?
――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
オズはリファと共に、帝都に出た。彼女の奔放な行動も、オズには気にならなかった。リファは、自由に行動してこそいるものの、オズにはしっかりと説明はした。
「帝都はね、いろいろと治安が悪いんだよ!ははは!!犯罪者が多くてね!まぁ―私も元は犯罪者だけど!ははは!!――それから、レナさんに貰ったこの帝都警備隊のバッジね。通信機の役割も持ってるから、無くさないように!ははは!!」
その他にも、いろいろと説明されたが、特に覚えていない。否、覚える気がなかった。
「オズ。止まって」リファは、笑うのを辞めて、オズの腕を引っ張る。オズはリファの顔を見る。――オズにはわかる。リファの瞳に、ハッキリとした殺意があることを。彼は、彼女の視線の先を見る。
そこには。
「敵だよ――オズ。奴等が帝都の敵。つまり、私達の敵。〈教会〉だよ。見つけ次第殺す。それがレナさんの命令だよ。ははは!!さて――オズ。いこうか。はは!!」隣に立つ、リファの確かな殺意に震えるオズ。だがしかし。オズにはある疑問があった。
「レナは、叔父を殺すのが目的なのに――なんでコイツらと戦うんだ?」
「レナさんとね、〈教会〉は、目的が違うんだよ。レナさんは帝都の改革。奴等は支配。だから―殺して良いんだよ」
「分かった」オズはそう答えて。深呼吸を一つ。
リファの前に立った。
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