第4話 製作者のこだわり

 青い狼のパネルを強く押すと、俺の愛用していたパソコンが現れた。作業環境は本人に準ずるらしい。よし、これで作れる!


「ギルドに関する処理、製作開始!!」


 速攻で作っていく木材入手イベント。そして、すぐに入手を手伝ってくれる仲間たち。さて次に俺が作るべきなのは、ギルド建設処理だ。


「やっぱ思うんだけどさー、ギルド作るのに木材集めるのはいいよ?でも建設に必要な木材数を表示するとか、作れますとか表示する、って面倒じゃない?条件分岐じゃダメなの成作おにーさん?」


 悠歌さんが疑問に思うのは、悠歌さんのゲーム『純愛順不同』がアドベンチャーゲームだからだろう。純愛順不同ファンの作者たちから聞いた話によると、『何々を持っていればストーリーが進む』という感じらしい。


「駄目なんだそれじゃ、俺のゲームはクラフトも出来るんだ!」

「そういえば、前からクラフト画面の進捗載せてましたよねっ?」

 リャーさん…腕田李杏さんは、俺の進捗を見ていてくれたらしい。少しうれしい。

「代わってよ、うちが作るから!条件分岐で終わるし!」

「これは俺のこだわりなんだ…!」


 面倒くさい奴、みたいな顔をされたが とりあえず早く完成させなければ。


<ねぇ成作、私たちに手伝える事ってないの?>

 ベルがひょっこり顔を出してきた。

「悪いけど、木材採取しててくれないかベル?木材は他にも用途あるから」

<うん、分かった!>

<…試しに木材にアナライズをかけてみたが…だいぶ簡素な説明だった。それほど切羽詰まった製作だという事か…>


 確かに、ここまで脳が刺激されるようなゲーム製作は初めてである。


「私たちも何か手伝えないでしょうか…?」

「開発環境がありゃなー、うちが簡単なイベント作ってやるんだけど」


「あ、じゃあハカセの所に行ってみればあるかもしれないな、エディター」


 ここで言うハカセとは、サンプルゲームに出てくる女性の事。エディターを俺だけの特権にしておくには、少しもったいない気がした。ひょっとしたら人数分用意されているかもしれないし。


 だが、探してもエディターは無かったらしい。残念。


「ジュン、もうちょっとだけ人集めてきてくんない?」

<それは難しいですね…さっき集めた人数がわたくしの出来る精一杯なので>

「何だよー、ファンの人数が足りないって事?」

 向こう主人公は向こうで、何とかしてくれそうだが 所詮相互フォロワー2の自分じゃあベルとスコットに人を集めてきてもらうのは厳しそうだ。


 待てよ?相互のもう片方の、あの人に手伝ってもらえれば!


「ベル!仕事が出来た!『演じ庭』さんを探してきてくれ!」

<演じ庭さんって、相互フォローの人?>

「ああ、その人にも俺たちの作業を手伝ってもらおう!急いで!」

<分かった、探してくるね!>


「とりあえず私と根戸瀬さんで木材を集めましょうか」

「ちぇ、今はそうするしかないかー」


 各々、分担して作業をすることに。ジュンとフェルスールとベティカも木材採取班に入った。


<演じ庭さん、演じ庭さん…いた?スコット>

<いや…見つからないな。もしかするとタイムラインを見ていない可能性がある…>

<えっ、そんなぁ!>


「呼んだ?」


<あっ、あなたが演じ庭さんですか!?>

「そうっすけど…ってああ! せィ氏のベルちゃん!!」



 俺がギルドの処理の半分ほど作り終わった頃、ベルが戻ってきた。

<演じ庭さん見つかったよ~!>

<間違い無さそうだ…>

「本当か?!」


「あっどうも、演じ庭こと 槐庭 勤えんじにわ つとむっす いや~せィ氏にここで会えるとは」

 槐庭さんはぺこりと頭を下げた。


「実は、槐庭さんにやって欲しい事があって…手伝ってくれますか?」

「もちろんオケっす!」

 良かった、かなり協力的だった。彼は『コモンイベント集』の常連投稿者なのだが、自作ゲームもいくつか公開している。


「ギルド作るってのは聞いてるんすけど、具体的には?」

「とりあえず木材入手イベントを広場に追加したんですけど、急いでたから指摘して欲しいポイントがあったら指摘して欲しいんですよ」

「あ~そっすね、入手個数を乱数にしてたまに5個手に入るとか」

「なるほど! 1個のままだった」

「あとはマップ移動しないと再び入手できない所をやめれば効率的なんじゃないっすかねえ」

「あっ、それいつもの癖です よし修正!」


 腕田さんと悠歌さんは、唖然としながら木材を採取していた。

「さすが、分野の似てるゲーム作ってるだけありますね…」

「えっそなの?うちあの人全然知らないんだけど。ところでおねーさんが作ってんのはRPGだっけ?」

「そうですよ?」

「いいなー、うち正直長編RPGなんて作んの無理だからうらやましいな」

「じゃあ、エディターが手に入ったらRPGっぽい事に挑戦してみます?ふふ」

「ほんと?! ありがとー♪」



「よし、修正完了!ありがとうございます槐庭さん!」

「せィ氏の手伝いが出来るならこれ以上光栄なことはないっすよ~ははっ」


 さて、木材の入手効率が上がった事で、より木材が手に入るようになっただろう。早めにギルド処理を完成させないと。


「後は、ここにギルドをピクチャで表示して…スクロールにリンクして…………出来た!出来たぞ、ギルド建設の処理が!」

「本当ですか?! おめでとうございます!」

「じゃあみんな、ジュンの後ろに並んでよ!木材をギルド建設予定地につぎ込んでくからさ!」


 悠歌さんの呼びかけで、4人の作品の中で一番知名度の高いジュンの後ろに次々と人が並んでいく。予定地に木材を投げていくと、『残り89個』といった感じで表示されていく。そして、パソコンをチラ見した槐庭さんは驚いていた。


「凄いっすよ、急いで作ったのに他の所にも使いまわせそうな処理になってる」

「旅先で入手したアイテムで地元の町を強化するシステムだから、色んな施設で使えるようにしておいたんですよ!」

 そう、『Growry Fantasy』は拠点強化をしていくアドベンチャーなのだ。出来る事が増えれば増えるほどより旅が豊かになっていく。


「残り8個ですよ!…あれ、意外と皆さん手に入ってないんですね」

「途中まで入手個数が1個だったからか…次から気をつけよう」

「あっでも見なよ、多分ゲーム慣れしてるあの人すっげー効率良く集めてる」

「最適パターンが読めてるタイプだな、あれは…」

 俺たちは唖然と凄腕プレイヤーを見ていた。


 そして、最後の1個がギルド建設予定地にそそがれると、ギルドの建設が始まった。タリアン広場が暗転していく。


「えっ嘘、もう隕石来たの!? やばくない!?」

「違う、これは暗転処理入れただけだって!!」

「…あ、終わったみたいですね」


 暗転が終わると、そこにはギルドが建っていた。


「よっしゃああああ!!」

「だからおにーさん声でかいってのー!」

「ついに出来ましたね、ギルド!」

「中のマップも平行して作れれば良かったんすけどね」


 そうだ、まだ中身が無いんだ。中に入ってもスカスカしているだけだ。エディターも1個しかないし、どうするべきか…



『実力を認めました…これを授けましょう…』



 と、謎の声が聞こえたと同時に、急に他の3人の手に青い狼のパネル、エディターが降りそそいできた。


「こ、これは…っ、エディターですか!?」

「マジ!?うちらも作れんの!?」

「僕もコモンイベント作れるんすね!? 百人力っすよ!?」


 さっきから聞こえるこの声、タリアン広場の女神様か何かかもしれない。


「それじゃあおねーさん、RPGの作り方教えてよね!」

「その前に、マップ作りましょう!マップチップはデフォルトみたいですね」

「うちにも手伝わせて、マップ作り!」


 今度は、マップ作り班とシステム作り班に分かれた4人。槐庭さんは、必要なコモンイベントをリストアップしている。


「『情報ポップアップ表示』とか『アイテムグラフィカル入手』とか作ってていいっすか?」

「そっちは任せました!」


 たとえ隕石が近づいていようと、グラフィカルにするその心意気!これが製作者のこだわりなのだ。


「やっぱ、アイテム入手をグラフィカルにする必要ないと思うんだよねーうちは」

「いいじゃないですか、あの人たちのこだわりなんですから」


 出来ていくギルド内部を生で見ている、集められたギルド隊員たち。

「すげえ、ギルドがどんどん出来てく」

「ほんと凄いなー」

「ウディタリアンの力ってすごいね」


 さて、次はゴブリンを探しやすくするぞ!

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