第2話 知らない場所かと思ったら

 一応自己紹介をもう一度しておこう。俺は大神 成作。急にゲームの主人公たちが集う広場、タリアン広場に降臨してしまった。


「え!? え!? ええええええ!?」


 すぐ隣にベルがいる。フェルスールもいる。


<ようこそ、タリアン広場へ!>

 等身大のベルが、俺と広場に向かって手を広げた。


<ここには、世界中のウディタリアンが作ったゲームの主人公がいるんだよ!>

<それと一緒にパーティもな、ベル?>


 ベルに普通にアドバイスするフェルスールを見て、俺は気になる事があった。


「そういえば… 二人とも、だいぶ仲がいいけど いつからなんだ?」


<えっと、タリアン広場はウディタが出来た頃からあるんだよ。作品のフォルダが一つ産まれるたびに、パーティ全員が入れるようになるの。フェルスールは私が入れるようになった頃からのお付き合いです♪>


 そうだったのか。つまり作り始めたのが9か月ぐらい前だから… 俺がウディタを開かない間も、9か月間この広場に来ていた、と! 衝撃すぎる。


<そういえばそろそろ、N助が来ると思うぜ。さっきコマンド打っておいた>


 そうだ、もうすぐ相互フォロー関係のリャーN助さんと初対面だ。招待してくれてありがとうフェルスール、初めてのオフ会だよ。


 そして、


「うわっ」


 という声と共に降ってきたのは、女の人だった。ん?この人がリャーN助さん?


<よっN助、遅かったな!こっちはせィとせィ作品の主人公のベル>


 この人だった。ハンドルネームでてっきり、男だと勘違いしていた。


「あ、あの… リャーN助ですっ!フェルスールがお世話ににに…」


 だいぶコミュニケーションが苦手なようだ。とりあえず軽く会釈しといたけど、この後何するんだっけ。何話せばいいんだっけ。作品PR?自己紹介?あ、俺も苦手だった。


「それで え、えっと…ここは、どういう所なんでしょうかっ?」


 正方形の畑があり、川が流れていて、高台もある。比較的穏やかでのどかな場所だ。そしてパン屋と、タルの置いてあるお店と、男性が屋上にいる建物…ん?!


「まさかここって… サンプルゲームのあそこじゃないっすかね、リャーさん」


「ああ!言われてみればそうですねっ…!」


「って事は、北に行くと市松模様の闘技場があって…」


「あの男性にはレベルが上がってから話しかけて…です、ね」


<何の事だろう、フェルスール?>


<さぁ、知らないな俺は。スコットは知らないのか?アイツ確か吟遊詩人だろ>


 どうやらサンプルゲームのキャラクターはこのタリアン広場には来ていないらしい。まぁ、マスコットの方々が来られたら大騒ぎだからだろう。屋上の男性はブラジル人ではなさそうだし。


「そ、そうだ!ベル、スコットは呼んでないのか?」

「そうそう、フェルスール君、ベティカも呼んできて!」


<うん、呼んでくる!>

<おう!>


 二人の主人公が呼び寄せた事で、ようやくお互いの作品の相棒が来た。無精ひげを生やした沈黙の吟遊詩人、スコット。そしてカチューシャの似合う美女ベティカだ。


<…ども。>

<ハァ~イ?ってN助来ちゃったの?どういう風の吹き回しよ~!>


「何だか分からないけど、今主人公たちが現実に飛び出してくる騒ぎが起こってるんだ、スコット。何か知らないか?」


<…いや、俺は何も…すまない>


<あたしは知ってるわよ?一連の騒ぎのコト>


「「本当!?」」 リャーさんとセリフが被った。


<地球にとある飛翔物体が接近しているの。それが原因だって聞いたわ>


「ああ、そういえばそういうニュースやってたな…」


「それって地球にぶつかっちゃうとどうなるの、ベティカ?」

リャーさんは心配そうである。


<別に?少し騒ぎになるだけだと思うわよ、たいして大きくないし>


「で、その飛翔体とこの現象にどう関係があるんだ?」


<あたしそこまでは知らな~い、別の人に聞けばどう?>


「別の人って…誰にしましょうか、せィさん?」


「ん~そうですね、じゃあ適当にあの人で」



 我々作者と主人公たち6人組が近づいた人は、何やら不穏な雰囲気を漂わせていた。それに気づくのが少し遅かったようだ。


「すみません、あのー…」


 俺が話しかけると、振り返ったその人はゴブリンに変身した。


「うわっ!?」


<下がってて成作!! 私とスコットで片づけるから!>

<うむ… 大して強くは無さそうだ…>


「せィさん、成作って本名ですか?」

「あ、まぁそうです…ハハハ」


 本名バレしてしまったが、まぁ非常時だからとりあえずそこは置いといて。なぜ人が急にゴブリンに変化したのかは不明だが、ベルの剣とスコットの魔法、そしてフェルスールの短剣とベティカのクロスボウでそのゴブリンはあっけなくやられた。


<あっさりやられたわね~、もう少し戦いたかったわ>

<…見ろベティカ、何かを落としたようだ…恐らくドロップアイテムだ…>


 スコットが拾い上げたそれは、何かの欠片だった。


「スコット、それ何の欠片か分かるか?」


<アナライズをかけてみる…>


 アナライズ、ようするに対象を調べる魔法を欠片にかけると、どうやらそれは隕石だという事が分かった。


<ん?地球に近づいてる飛翔体って、多分隕石だよな?ベティカ>

<そうねぇ、隕石だと思ってたけど…地球にも隕石があるってどういう事かしら?>


 フェルスールとベティカが首を傾げていると、スコットが再びアナライズをかけて何か閃いたようだ。


<…これは、双子隕石だ>


「「双子隕石!?」」 また被った。


<片割れを探しに、宇宙をさまよって飛んでくる…と、聞いたことがある…>


「何でそんな隕石を俺らよりスコットの方が知ってるのかは置いといて…じゃあ、地球に近づいてきてるその飛翔体が隕石だと仮定して! 片割れを探しに来てるとして! 今のゴブリンから片割れが出てきたって事は、タリアン広場に隕石が落ちるって事か!?」


<そんな、まだお世話になって9か月しか経ってないのに?嫌だよ成作!>


「ゴブリンが人に化けられるって事は…あっ、まずいですよ成作さん! 主人公たちは製作者を呼び寄せてここに来る…そのうちの一部に化けてるんじゃ!?」


「そうか、人間がここに集まれば集まるほど隕石持ちゴブリンが探しづらくなる!」


 しかし、主人公たちは次々と製作者を呼び寄せているようだ。中にはグループ製作で一気に8人ほど来たりしている所もあった。


「ゴブリンを探す方法はないのか…?!」


<人間が人間を探しても、疑心暗鬼が生まれるだけだ…>


<じゃあ、私たちが探せばいいんじゃないかな?他のパーティも集めて!>


<よっし、タリアン広場にギルドを作ろうぜ!>


<隕石が落ちるまでに集まるかしら?隕石の欠片。そもそも、隕石が完成したらどうやって外に出すのよ>


 そうだ、どうやって外に出すのか… 答えが一つ思いついた。


「…隕石が完成したら、お前たちの力で俺を広場から外に出してくれればいい!」


<そんな、成作の地元が隕石の被害を受けちゃうよ!>


「大丈夫だ、俺んちの裏に凄く広い畑があるから!そこに置いておけばいい!」


「成作さんって田舎住まいなんですか!?」


「あ、まぁそうです…ハハハ」


 どんどんボロが出てくるが、仕方ない。


<それでいこう…とりあえずパーティを募るぞ…ベル>

<待ってて、協力者を何とかして集めるから!>


<あ、そうそう知ってた?この広場にいる時は時の流れが遅くなるのよ?>

<だからしばらくは安全だぜ>


 それがどれくらい遅いのかは不明だが、恐らく猶予はここに居て1~2か月ほどだろう。その間に隕石の欠片を集めなければ!




『…広場を、救って……』

どこかから、声がした気がした。

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