宇宙人
中学三年生の晩秋の話です。
美術の課題が終わらず、放課後居残りをしていました。場所は美術室で、担当の教師からは終わるまで帰っては駄目と言われて、いやいや課題をこなしていました。一緒に帰ろうと友人数人が待っていてくれたのが救いでした。
私は黒板から向かって奥の方の席で黙々と課題に取り組み、友人たちは私の邪魔にならないようにと前の方の席でトランプをしていました。俺も大富豪したい、絵なんか描けても何の役にも立たんのになんでこんなことしてんだろと思いながらも、早く終わらせたい一心でかなり集中してやっていました。そんな時です、いきなり背後から抱きつかれました。いきなりに驚いた私は文句を言ってやろうと振り返り、再度驚きました。友人がいたずらをしてきたと思っていたのに予想がはずれていたからです。
「なーにやってんの?あはっ、課題が終わってないの?もうちゃんとやらなきゃ駄目だぞ。」
私に抱きついていたのは、二年生の頃の美術担当の女性教師でした。私に後ろから抱きつき、頬と頬が触れ合う距離で、笑顔でした。
「じゃあ私用事あるから。頑張ってね。」
女性教師はそう言って、美術準備室に向かい、しばらくすると何かを持って美術室を後にしました。部屋を出て行く際、またねと一言をそえて。
その間私は固まっていました。余りのことに状況が理解できず、呆然としていたのです。彼女とは二年生のころ、美術の担当教師と生徒というだけで、特段深い関わりがあったわけではありません。すれ違えば挨拶くらいはしますが抱きつかれたり、頬と頬をくっつけて話をする関係ではありません。なんなんこれ、気持ち悪さでいっぱいでした。
教師が出て行くと友人の一人が駆け寄って来ました。
「えっ、因幡って宇宙人とそういう関係?」
宇宙人というのは美術の女性教師のことです。25才、若い女性教師ということで男子の間では期待されていたのですが、期待を裏切ったためにつけられたあだ名でした。小柄で目が大きくやや離れており、無表情、抑揚のないしゃべり方により命名されました。
友人の問いかけに否定しながらも、私は、あの人なんであんなことしてきたんだろうと考えていました。当時恋愛の真似事は経験していましたが、性交の経験はなく性については綺麗な人とキスしたいとかおっぱいを揉んでみたいとかそんな中学生らしい漠然としたものでした。女性教師の行動が理解できず、言いようのない気持ち悪さと怖さがつのるばかりでした。私にとって彼女は外見だけでなく内面も理解できない“宇宙人”でした。結局美術の課題は器用な友人にジュース一本を報酬にかわってもらい、早々に帰宅しました。
今考えれば完全にセクハラ案件だと思います。一人だけですが、友人も目撃していましたし、私自身かなり嫌な気持ちになりました。当時は誰にも相談できず、友人にも噂になったら嫌だから言わないでと口止めをしておきました。その後その女性教師からはアクションがなかったのですが、姿を見かける度に嫌な気持ちになりました。
男性から女性へのセクハラ、痴漢等の事件はよく耳にしますが、女性から男性へのセクハラも相当数あると思います。実際これ以外にも大学生の頃と社会人一、二年目の頃に経験しました。
「女性」を怖いと思ったのは、中学三年のこの件が初めてでした。私自身この経験があったためにかなり女性と接する時は注意しています。自分が相手にとって気持ち悪い、理解できない、“宇宙人”になりたくないからです。
ちょっと毛色の違う話でしたがどうしても書きたかったのであげさせてもらいました。
次話からは通常運転に戻ります。
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