続・自殺の名所

 社会人二年目の夏のお話しです。


 以前「自殺の名所」というタイトルで話をあげましたが、それの続きです。


 当時は仕事で福井在住でした。仕事が忙しくて盆も実家に帰れなかったのですが、友人が遊びに来ました。東京からE、金沢からS、福井で働いていたMの三人、大学生の頃東尋坊に行ったメンバーです。

 因幡の家で宅配ピザを食べ、酒を飲みながらフレッシュな社会人の愚痴をぶちまけあっていたのですが、一段落して大学時代の思い出話に移りました。当然、東尋坊に行った話もでました。そこで福井が地元のMから「雄島」について情報がもたらされました。東尋坊から身を投げた人の遺体が流れ着く、東尋坊以上の恐怖スポットだというものです。神様が住む島だとか、島に入ったら一周しなければダメだとか、その際時計回りじゃないと死ぬとか、心霊写真がめちゃ撮れるとか、嘘っぽい話でした。酒で濁った頭にはこれは行かなあかんということしか浮かんできませんでした。早速、車で来ていたため飲んでいなかったMの車に乗り込み出発しました。

 Mの車は買ったばかりの新車でお値段三百万円弱という高級車で、車内ではタバコが吸えずイライラしたの覚えています。出発から一時間半くらいで目的の雄島に到着しました。駐車場に車を止めると、意外にも二十台くらい周りに停まっていました。時刻は深夜0時を過ぎていたので、なんでこんなに車があるのかと不思議に思っていたのですが、謎はすぐに解けました。釣りです。雄島は島っていうくらいですから陸続きではないのですが、橋が架かっていて歩いて渡ることができるのですがその橋の上で20人くらいが釣り糸を垂らしていました。はっきり言ってがっかりです。全然雰囲気がありません。橋自体は赤色に塗ってあり、月明かりに照らされてなんかそれっぽい感じなんですが、釣り人って。こっちは恐怖を求めて来ているのに興醒めです。まあでも折角来たんだからと橋を進むと途中から釣り人の姿が消えました。ちょうど橋の半分くらいから境界でもあるかのように釣りをしている人がいなくなったのです。釣れるポイントから外れてんのかなと思ってその時は気にせず先に進みました。

 周りに釣り人がいなくなると一気に恐怖心がわいてきました。心なしか、月明かりも弱くなったようでした。

 なんて表現したらいいのかわからないのですが、とにかく心細い、不安になりました。四人で歩いていたのですが、周りに釣り人がいなくなってからみんな無言でした。そんな中、「もう無理」と言ってSが戻りました。いきなりの、止める間もない逃走でした。「あの腰抜け野郎」、「くそチキン」、「雑魚が」、三人でSを罵りました。一目散という言葉がぴったりの逃走でしたが、彼の気持ちもわかります。なんか一歩進む毎に嫌な感じが強くなるのです。それを誤魔化すために罵っていたのです。気づけば私を中心にEとMの三人で手をつないでいました。そうしていないとそれ以上進めないくらいに怖かったのです。Tシャツから覗く腕には三人ともサブイボが浮かんでいました。島まであと少しというところでどえらいものが見えまた。

 “鳥居”です。神の世界と人の世界をわけるものです。月明かりの中で見るそれは、畏しさというか、近づいては行けない雰囲気がすごく、私たち三人の足は完全に止まってしまいました。恐怖から鳥居を越えて島に入ることできないのです。これ以上行ったら駄目だと体の内からストップがかかっているような状況でした。つないだままのEとMの手は汗でベッタリでした。それでもここまで来たんだからと気合を入れて進もうとするんですが、行けません。一、二分そうしていたのですが、遂に恐怖に耐えきれずMが手を離して逃走、そのままEと私もダッシュで引き返しました。

 駐車場まで戻るとSが街灯の下で一服していました。人工の灯りがとにかく頼もしかったのを覚えています。

 結局島には入れなかったと言いながら車に乗り込むと、運転席のMが「うおっ!ふざけんなよS!」といきなり怒り始めました。Sはもちろん、私たちもポカンとしているとMは語気を荒げたまま、「こんなんすんなや、新車やぞ」と言います。フロントガラスに白い手形がベッタリと二つ付いていました。「知らんよ、俺じゃないって」とうろたえるS。演技ではなさそうです。確認のため手形に手を合わせてみると明らかにSより小さい。小柄なSより小さい手形。当然、Eのものでも、Mのものでも、私のものでもありません。女性や子供のサイズです。「うげっなんじゃこりゃ」、「気持ちわる」、車内はパニックでした。釣り人のいたずらかもとEと二人で確認に向かうも、その日いたのはおっさんばかり。じゃあ誰の手形だよ。答えの出ぬまま、ワイパーを操作するM。ウォッシャー液とワイパーの力で手形は綺麗になくなりました。

 帰りの車内では、とにかくMに安全運転をしてくれとみんなで声をかけ続けました。無事帰宅することができました。


 結局あの手形がなんだったのか、いたずらなのか心霊現象的な何かなのかわかりませんでしたが皆さんも心霊スポット的な所に行くとき注意していきましょう。何度も行ってる私が言っても説得力がないかもしれませんが、軽い気持ちで行く所ではないと思います。ちなみにこれ以降は行ってません。

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