今年の夏、母方の叔父と二人で釣りに行った時の話です。


 私は結構多趣味でアウトドアからインドアまでいろいろやるのですが、釣りもその中の一つです。一人で行くのはなんか面倒くさいので県外に出て一人暮らしをするようになってからは、帰省した時に叔父や友人と行きます。この叔父っていうのが釣りの師匠で小学生の頃からよく二人で行っていました。蛇足ですが、私の外見は母方の血が濃く、よく親子に間違われます。

 さてその日はお盆のど真ん中、殺生は駄目という母親の制止を無視して叔父と仲良く出発しました。目指すは海水浴場の奥の浜とテトラポット。私の地元は砂丘が有名なのですが、砂地ではキス、テトラポットではガシラがよく釣れます。上手くいけば今日は刺身に天ぷらが食える、絶対に釣ったると意気込み、叔父のジムニーは砂地を激走しお目当てのポイントに到着。道具を準備していざ勝負。波がかなり高くキスは出ませんでしたが、ガシラが爆釣、尺に近い型がバンバン上がります。今日は刺身とあら汁に唐揚げで決まり、かなり楽しい時間でした。釣った魚はバケツに海水を入れて生かしておいたのですが、かなり気温も日差しも強くバケツはすぐに温くなってしまいます。こまめに水を換えていたのですが、叔父が海草入れとけば長持ちすると教えてくれました。そんじゃあちょっくら行ってくるわと長年愛用のナイフを抜き身で海に飛び込みました。「波に気をつけろ」という声に、大丈夫と応えて潜ると違和感を感じました。引っ張られるのです。テトラポットから反対方向、かつ沖の方へ。すごい力です。これでも中学時代は助っ人で試合に出るくらいには泳げ今もジムのプールで週二で泳いでおり、泳ぎにはかなり自信があります。でもそんなの関係ありません、すごい力で岸から離されます。離されまいと我武者羅に泳ぎますが確実に岸から遠のきます。やばいかも、とりあえず落ち着こう、てかナイフ危ない、幸いにしてもみくちゃにされるような波ではないので、大きく息を吸い込み、利き手を自由にするためナイフを右手に持ち替え刃の部分を握り、体勢を整え力を抜きます、その瞬間でした。一気に持って行かれます。ほんと少しの間で10メートルくらい流されました。まじでヤバい、でも焦ったらあかん。焦らない、それだけは心に決めていました。その間も流れは止まらずどんどん沖へ体は運ばれます。はじめの地点から30メートルは流されました。一瞬流れが弱まるのを感じました、今!ここしかないと本気のクロール、波の抵抗は激しく少しずつしか進みません。それでもここしかないと、ここで泳がな死ぬと全力を振り絞りました。途中ナイフを握った右手に熱を感じましたが気にせず手を動かし続けました。息継ぎ無しの無呼吸運動はめちゃくちゃ苦しい、でも呼吸する暇なんてありません、あと少し、あと少しでテトラに手がかかる、根性だ、俺ならやれる。とにかく必死でした。左手に伝わるゴツゴツとしたテトラの感触、付着した貝か何かで指に痛みが走りますがむしろ安心感を与えてくれました。テトラにしがみつき大きく深呼吸、助かった、危なかった、死なんですんだ。力を振り絞ってテトラをよじ登り叔父の方へ向かいました。手足はガクガク、ほんの少しの時間でしたが疲労感は半端なかったです。叔父は私の様子にどうしたと驚きました。息を切らせてふらつき、右手からはダラダラと血を流していたのです。そりゃ心配もされるわっ常態です。つかんだナイフで右手の人差し指の第一関節のところをバッサリ切っていました。血は止まらず、骨まで見えていました。応急処置できつく巻いたタオルはすぐに血まみれで、一向に止まりません。流石に釣りしている場合じゃないと帰宅しました。


 帰っても勢いはだいぶ弱まったのですが出血は続いていました。母親が救急をやっている病院を調べてくれました。大げさかとは思ったのですが、一応ということで行くと、これは来て正解、縫わないかんよと医者から言われてその場で処置してもらいました。四針縫われて八千円、救急はかなり財布に厳しかったです。

 私を沖へ引っ張ったのは“離岸流”でした。毎年多くの犠牲者を出すアレです。お盆の頃はよく発生すると叔父が言っていました。お盆の時期、海で泳いではいけないと昔から言われていますが、宗教的なことだけでなくこういう自然現象のことも含んでいたのかもしれません。皆さんも海で泳ぐ時には注意してください。とにかくパニクらない、冷静に対処することが重要だと思います。

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