舞台:『崩嵐の祈り』 前半

それは遠い昔、神話の時代のこと。とある少女は世界各地を旅して回った。

彼女は大地の果てまで歩き、大海原を渡り、天空の城や異世界まで旅をしたと言う。

その少女の名はシューレン・ニク・マーヴェル。その兄、テレスティア・マク・マーヴェルと共に世界にその名を馳せ、その冒険譚『シューレン・ニク・マーヴェルの冒険』は誰しもが知るところであろう。

しかしその旅路の多くは後世の創作であるとも云われている。


だがしかし、この物語、この旅路だけは紛れもない事実だと云う。


それは遥か彼方の頂"東方大山脈"、その一角に抜け落ちたかのように広がる"神威台地"を見れば明らかだ。

決して人の身では作れぬ、だが自然にも出来ぬ、この不自然な台地。

これは"崩嵐"の爪痕だと伝えられている。

そしてその東方の大山脈を呑み込んだ神話の災害を鎮めたとされるのがシューレン・ニク・マーヴェル。

これはその冒険を記した物語『崩嵐の祈り』


この大それた所業の証人はかのソルナ王国建国の英雄タクトであったという…。


それは未だ王国統一最後の戦い『キルク戦争』の傷跡が残るソルナ王国、首都グルーナの王城でのこと…。

此度の戦争の勝利の立役者タクトは王の間へと王との謁見に来ていた…。


「陛下、まだ先の戦争も冷めやらぬ中ですが、私は再び旅に出ようと思います。どうかお許しを」


「ふむ、そなたにはまだ褒美をやって労ってやりたいものだが、無理に引き止めはせぬよ。かねてより言っておった神託でも出たのか?」


「まだハッキリとはわかりませんが少しばかりの心当たりが見つかりました。『夜会の広間』へと一度赴こうと思うのです。」


「次は『冠位の夜会』の遺跡へとな…。うむ…そなたに幾人かを同行させてやろうと思うたのだがな…、そこまでの旅となると疲れの癒えておらぬ兵士達に行かせる訳にはいかぬからのぅ…」


「お気遣い感謝します、陛下。ですが私一人で大丈夫ですのでお気になさらないで下さい」


「ふむ、そうか…。すまぬのう。では気を付けて行ってくるが良い」


タクトは国王にお辞儀をすると王の間から退出をした。


王との謁見を終えた彼は旅の荷をまとめると、出発の準備を終えた馬車を1つ呼び止め、それに乗り込んだ。


「いやぁ、あんたが乗ってくれて助かるよ!英雄タクトの護衛だなんて願ってもないことだ!駄賃なんていらねぇ、こっちが護衛料を払いたいくらいだ。やはり道中に危険は付き物なんだ!」


「と言いますと、何か噂でもあるのでしょうか?」


「最近だと風の噂みたいなもんなんですがね、『夜会の広間』の方から魔物がよく現れるらしいってんだ…。それもなんかから逃げてくるようだったって話なんだ。占い師達は神話の怪物が解き放たれただなんて騒いでるって話まであるそうなんですよ。タクト様も気を付けてくだせぇ」


荷馬車の商人の話を聞いてるうちに、いつのまにか街道の離れ道まできました。


「ほいっ、付きましたぜ。あっしはこっちらの道ですからな。さっきの噂の魔物でも出たら討ち取ってしまってくだせぇ!戦果を楽しみにしてますぜ!」


「あぁ、ここまで連れてきて貰い助かりました。あなたの今後の道中の無事を祈ってます」


商人と別れを告げたタクトは『夜会の広間』へと向けて歩きだします。

そしてそれから暫く行くと道の真ん中に何者かが立っているのが見えました。


「あれが噂の魔物だろうか…。人の形をとってるとは驚きだ…。」


それは確かに人の形を取っていましたが、その黒い霧の輪郭はボヤけており悪魔族とはまた違った容姿、やはり魔物なのであろう…。


「ヴォォオオ!!」


その魔物は彼を見つけるなり雄叫びをあげ襲いかかってきました。

タクトが剣を抜きながら軽く後ろに下がると魔物の腕が空を薙ぎます。

続いて振り抜かれる大振りの一撃を剣で弾きます。

そして今度はタクトから攻撃を仕掛けます。

魔物をその攻撃を爪でしっかり受け止め両者、暫し睨み合います。

そうして何度か切り結んだ末、大振りの一撃を仕掛けようとした魔物にタクトが鋭い一閃を浴びせます。

怯んだ魔物にタクトは斬り返してトドメを刺します。

魔物はよろめき、後ずさり、そして倒れ込み、その衝撃で崩れるようにして霧のような身体は煙となって消え失せました。


「ふぅ、なんとか倒せました…。先程の商人の方のお話では縄張りを追い出された弱い魔物かと思ったのですが想像以上の強敵でした。これ程のモンスターが追い出されるとは…。嫌な予感がします、先を急ぎましょう…」


タクトは街道を急ぎ日もくれて夜の帳が降りる頃、『夜会の広間』へと辿りつきました。

大理石で出来た広間は長年の風雨に晒され柱は折れ、『7つのアーチ』もところどころ崩れ落ちていました。

広間の中央でタクトは満天の星空を眺め…


「ここまで導きに従い、きましたがどうしたものでしょうか…」


「そこにどなたかいるのでしょうか?」


突然の声に驚きタクトが振り返るとフードを被った二人の男女が立っていました。


「悪いことは言いません。すぐにここを引き返し下さい」

「そしてグルーナの王に終焉が来ていると伝えるのです」


「終焉とは…。何があったのですか?」


「東方で…『ファーブニル』の封印が解かれました…」

「直に『崩嵐』がやって来ます…。全てが呑み込まれてしまうでしょう…」

「私達はその怒りを鎮めるためにも『ファーブニル』への旅路を探しているのです」


「そうでしたか…。ならばその旅路、この私ソルナの騎士タクトにお任せ下さい!この剣は彼の"冠"を称する剣、『崩嵐』を打ち払い、『ファーブニル』への道を切り開きましょう!」


「それはなんとも心強い申し出です」

「時間は余りありません。被害の出る前に急ぎましょう!さぁ、こちらへ!!」


「えぇそうですね、ゆっくりもしていられません。そう言えば、まだ貴方々のお名前を伺っていませんでした…!」


既に先に先導しようとしていた二人は振り返り、そしてフードを外します。



「シューレン…。シューレン・ニク・マーヴェル。それが私の名です」


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