#31 厳しく追求しようと思いました

「ねえ陽向、私、デートしたい」

「デート?」

「うん、一緒に住み始めてからは毎日顔を合わせてるけど、最近二人で出かけてないなって思って」


 陽向の両親に結婚の挨拶に行った夜、晩ごはんのうどんを食べながら私は陽向に言った。

「今日は俺の両親に挨拶に行っただろ」

「そういうのじゃなくて、全然高い所とかじゃなくていいんだけど、二人でどっか遊びに行きたいなって」


 最近、立て続けに大翔や瑞希とデートをしたけれど、そういえば陽向とは長らくデートらしいデートには行っていなかった事を思い出してしまったのだ。

 私が話せば、陽向は少し考える素振りを見せる。


「確かに最近そういうのも無かったし、いいかもな……いつ行く?」

「本当? じゃあ今度の陽向のお休み!」


 こういうのは早い方が良い。

 思い立ったが吉日、鉄は熱いうちに打てとも言う。


「その日は木曜日で平日だぞ?」

「有給取るもん」

「……わかった。じゃあ次の木曜は二人でどっか行くか」

「うん!」

 私が頷けば、陽向も嬉しそうに笑った。 


 その翌日の昼休み、瑞希から電話がかかってきた。

「やあさっちゃん、うちの親への挨拶はどうだった?」

「歓迎されたよ」

「それは良かった。ところで今夜、ちょっと時間あるかい?」


「なにか用?」

「この前言ってた牡丹鍋の店に行きたいなあと思って」

「いや、今はあんな事があったばっかりだし、やっと陽向の機嫌も直ったのに……」


 そういう事はもう少しほとぼりが冷めてからにしたい。

 ……別に特別何かするつもりがある訳ではないけれど。


「大丈夫、僕から陽向にもう話は通してあるから」

「どういうことなの!?」

 何も大丈夫じゃない。

 通話で伝えたのかメッセージとかで伝えたのかは知らないけれど、せっかく昨日陽向の機嫌が直ったというのに、瑞希は何をしてくれているんだ。


「この前の話し合いでさっちゃんと出かける時は陽向に許可は取らなくてもいいけど報告はするって事にはなったんだ。もちろん決めるのはさっちゃんだから、嫌なら断っていいよ」

 違う、問題はそこじゃない。


「えっと……嫌ではないけど、ごはん食べに行くだけにしても、もうちょっと間を空けたいかな」

「そっか、じゃあまた誘うね」

「う、うん……」


 嫌じゃない。嫌ではないのだ。

 ……ただ、また瑞希と二人で出かけたらそのまま流されてしまいそうな気もするので怖い。


 通話を切って、私はため息をつく。

 という事は今後、大翔や瑞希に誘われる度に陽向に連絡が行く訳で、それは誘いに乗っても乗らなくても気まずい。


 どうしろっていうんだ……とぼやきながらスマホの画面をなんとなく見れば、ラインにメッセージが届いている。

 メッセージは陽向からで、なんだろうとラインアプリを起動して内容を確認した直後、私は固まった。


 陽向:どうせ俺は今日帰り遅くなるんだし、飯くらい食ってこいよ


 どういう事だ。

 あの陽向が、私が他の男と出かけると言っただけで拗ねていた陽向が、堂々と婚約者である私を狙っていると宣言したに等しい瑞希からの報告を受けて、むしろ一緒にごはんを食べて来いと背中を押してくる。


 でも、昨日や今朝の陽向の様子からして、私と別れたいとか、そういう気配は全く無いばかりか、とても情熱的……じゃなくて! なんでそんな陽向がむしろ浮気を推奨するような事を言ってくるのかだ。


 一昨日、陽向と大翔と瑞希の三人で修羅場の後に一体何があったっていうんだ。

 陽向の機嫌がずっと直らなかったのは、それも理由のような気がする。


 大翔も瑞希も、一体どうやって陽向を丸め込んだというのか。

 いや、それだけでなく、陽向は何か二人に傷ついて自信を失くすような事を言われていないだろうか。

 そう思ったら、早急に大翔と瑞希に問いたださなければいけないような気がして来た。


 私は早速瑞希に電話をかける。

「あれ、どうしたの? 気が変わった?」

「うん。今日行こう、牡丹鍋。今日の六時、浜松町の駅で待ち合わせでいい?」

「わかった。よろしくね」


 瑞希との通話を切ると、今度は大翔のスマホに電話をかける。

 しばらく呼び出し音が続いた後、留守電に切り替わってしまったので、ラインにメッセージを入れておこうと電話を切った直後、大翔から電話がかけなおされてきた。


「どうした幸、何か用か?」

「ああ、大翔、今は少し話しても大丈夫?」

「問題ない」


「そう、じゃあちょっと急なんだけど、この前行った牡丹鍋のお店で今夜ごはんに行かない?」

「今日、か……」

 大翔が言いよどむ。

 もしかしたら今日は忙しいのかもしれない。


「忙しいなら別の日でもいいよ、それなら今日は瑞希と二人で食べるから」

「待ってくれ、瑞希も来るのか?」

 気持ち大翔の声が硬くなったような気がした。


「うん、大翔と瑞希に話があったんだけど、そしたら今回は瑞希と二人で……」

「わかった、時間は何時からだ?」

 少し早口のキリッとした口調で大翔が尋ねてくる。


「夕方の六時集合なんだけど、これそう?」

「……少し遅れるかもしれないが、絶対に行く」

「うん、じゃあ待ってるね」


 電話を切って、私は考える。

 大翔と瑞希は結託して陽向を丸め込んだのだと思っていたけれど、もしかして、それと同時にお互いを警戒し合ってもいるようだ。


 ……そりゃそうか。

 とにかく、今夜はその辺の話も含めて、一昨日何があったのかきっちり二人に追求しようと思う。

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