#27 バレました
瑞希とデートした翌日の月曜日の昼休み、大翔からラインでメッセージが届いた。
大翔:次はいつ会える?
幸:今度会った時
大翔:なら今夜にでも会いに行くよ
幸:陽向が今日は仕事だからダメ
大翔:むしろ好都合だろう
幸:何も都合がよくない!
予告通り大翔は、デパ地下スイーツを手土産に我が家に遊びに来た。
そして同じく、この前私が食べたいと言っていたマカロンを手土産に遊びに来ていた瑞希と出くわす。
私は陽向がいつ帰ってくるかとびくびくしながらこの二人に挟まれて夕食を食べる事になった。
大翔:今日は楽しかった
幸:私はそうでも
大翔:あんな顔であんなあられもない声を上げてた人間に言われてもな
幸:言い方!!!!
大翔:その割に身体は正直だったじゃないか
幸:美味しかったけど!!!!!!
ちなみにこれがこの日、大翔が帰った後、大翔と交わしたラインの内容である。
正直過ぎるこの身体(胃袋)が憎い。
瑞希:胸にほくろがある人って、恋愛運が強いらしいよ
幸:へー
瑞希:谷間側にある人は自分から積極的に、脇側にある人は自分を好いてくる人を待った方が成功率が高いんだって
幸:つまり?
瑞希:さっちゃんは脇側にほくろがあるから、陽向より僕にした方がいいよ
幸:陽向は私の事ものすごく好きだから大丈夫なの!
瑞希:だとして、僕の方が好きだと思う
そしてこれが同じ日の瑞希とのラインのやりとりだ。
私は左の胸の外側、脱がないとわからない位置にほくろがある。
この前久しぶりに見て思い出したのだろう。
二人とも土日に一緒に出かけて以来、毎日のように連絡をよこしてくるし、仕事が終わるとだいたい我が家に集合しては陽向が帰宅してくる前に帰って行く。
最初のうちは私もメッセージが届く度、真面目に反応していたけれど、三日経った頃からめんどくさくなってきて、ちょくちょく放置するようになってきた。
家に遊びに来る二人への扱いもぞんざいになっていった。
まあ、家に遊びに来る二人の目的を考えるのならば、その方が妥当ではあるのだけれど。
「幸、最近頻繁にスマホ鳴ってないか?」
金曜日、その日は休日という事もあり、夕食を作ってくれている陽向が鍋の準備をしながら尋ねてくる。
「うん、最近ちょっと後輩から相談を持ちかけられてて……」
「へえ……」
咄嗟に私が思いつきの嘘で言い訳をすれば、陽向はそれ以上深く聞いてくる事は無かった。
陽向が食器を四人分用意し始めた事に首を傾げていると、呼び鈴が鳴る。
「頼まれてた野菜買ってきたよ~」
「肉もあるぞ」
インターフォンを見れば、瑞希と陽向の顔が映し出される。
「瑞希、大翔」
「俺が呼んだ」
私が声をあげれば、隣から陽向がそう言いながらエントランスの自動ドアを開ける。
「最近いつもこのメンバーで鍋をやってる気がする」
できあがった鍋をつつきながら私は呟く。
というか、今週は毎日瑞希と大翔と夕食を一緒に食べている。
「うん、楽しいよね」
「そうだな」
ため息交じりに言う私に、瑞希と大翔は笑顔で頷く。
二人とも、私の言わんとしている事を理解した上であえてスルーしているのだろう事はなんとなくわかる。
「まあ、俺抜きでもかなり仲よさそうだけどな、最近」
一方、陽向はさっきからニコリともせず、黙々と鍋をよそう。
「なんで、俺と幸のベッドから瑞希の香水のにおいがしたんだろうな」
「え」
陽向の言葉に私は固まる。
瑞希を私達のベッドにあげた事はあったけれど、そんなに瑞希のにおいが移っていたのだろうか?
「どうして、脱衣所に大翔のタイクリップがあるんだろうな」
「ん?」
そもそも、大翔にお風呂を貸した憶えはない。
「最近、随分二人と仲良くラインのやりとりをしてるよな……」
「私のスマホ、勝手に見たの?」
一応ロックをかけていたはずなのに。
「幸、スワイプロックは人の目の前で堂々と開けてたら結局意味をなさないぞ」
どこか呆れたように陽向は言う。
だとして、勝手に見るのはどうなのかとは思うけれど、それをここで言っても余計に事態を悪化させるだけなので言わない。
「ああ、ばれちゃったね~」
「思ったより早かったな」
瑞希と大翔は特に慌てた様子もなく、むしろこうなる事を待っていたかのような口ぶりだった。
「二人とも、いちいち思わせぶりな事を言ってきてくれたしな」
「ああ、だが、直接は何も言ってない」
静かに怒っている様子の陽向に対して、大翔は平然と答える。
……どうやら二人は、わざと陽向に私との関係を直接的ではないにしろほのめかしていたらしい。
「なあ幸、二人は前から幸の事を知っているみたいだけど、どういう関係だったんだ?」
薄ら笑いを浮かべて、陽向は私に聞いてくるけれど、目が全く笑っていない。
これは、もうダメかもしれない。
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