#19 もはやデートでした
なんでこんな事になってるんだろう……!
大翔と瑞希が帰った後、陽向がお風呂に入って一人になった私は頭を抱えていた。
さっきは大翔と瑞希の誘いを一日で済ませられるようにまとめられて、事態をなんとか乗り切ったような気がしていたけれど、冷静に考えるとおかしい。
どうして私は陽向公認で既に婚約しているにも関わらず最近プロポーズしてきた男二人と一緒に出かける事になっているのか。
「いやいやおかしいよね、おかしいでしょ……」
そんな事をブツブツ言いながらもんどりうっていると、瑞希からラインが届いた。
瑞希:ちょっと聞きたいんだけど、明日の予定って明後日の日曜日になっちゃっても大丈夫?
瑞希は土曜だと都合が悪いのだろうか?
私は日曜日も別に予定は無かったし、むしろそれでキャンセルされて大翔と二人きりになる方が気まずかったので、大丈夫だと返した。
けれどしばらくしたら大翔から明日の集合時間と待ち合わせ場所の連絡が来て、結局日程の変更はしないんだな~なんて思っていた。
そして翌日の昼頃、待ち合わせ場所で合流した大翔は清々しい笑顔でこう言った。
「残念ながら瑞希は今日来られないらしい。服の下見は明日にして欲しいそうだ」
「えっ」
やられた……!
私はようやく事態を理解した。
多分、大翔と瑞希は私達の家から帰る途中、それぞれの予定を分けて一人ずつ私と出かけようという話でもしたのだろう。
瑞希の昨日のラインはその確認の為だったのだ。
待ち合わせ場所がお台場という時点で、遊ぶ気満々だな、とは思っていたけれど……。
「さて、予約しているジビエ料理は夜からなんだ。それまではゆっくりしようじゃないか」
「予約って、昨日の今日でよくとれたね?」
「ああ、ネット予約ならともかく、電話予約なら前日や、場合によっては当日でも取れるからな」
そういうものなのか。
普段予約する時はネット予約しかしないので知らなかった。
「さあ幸、時間的に昼食もまだだろう? 今日は楽しもうじゃないか。何が食べたい?」
「……じゃあ、お任せで。待ってもいいけどあんまり歩かないとこがいい」
満面の笑みで聞いてくる大翔にイラッとしつつ、私はぶっきらぼうに答える。
こんなの完全にデートじゃないか。
「なら、アクアシティにでも行こうか。ハワイアン料理なんてどうだ?」
「ハワイアンよりは中華がいい」
「わかった。中華なら大体どこでも入ってるだろう」
自由の女神像を横目に、私は大翔についていく。
それから私達はアクアシティの中にある中華料理屋へ向かった。
思ったよりも待たずに入れて、名物らしい小籠包は中のスープが透けて見える程薄くて、口の中いっぱいに広がる豚肉の風味が素晴らしかった。
酸味の利いたサンラータンや濃厚な味わいの杏仁豆腐も美味しかったけれど、だからと言って私はごまかされない。
「幸は本当にいつも幸せそうに料理を食べるな」
「こ、これは料理が美味しいからであって、別に誰といるかは関係ないんだからねっ」
「ああ、幸が喜んでくれてるなら十分だ」
目を細めながら嬉しそうに大翔が言うので、変な空気になってはまずいと咄嗟になって否定したら、なんだか大人の対応をされてしまった。
というか、二十九歳にもなって咄嗟に出た文句がこれかと思ったら無性に恥ずかしくなる。
もっとマシな言葉は無かったのかとも思うけれど、料理に罪はないので仕方ない。
「今の季節は色々やってて綺麗なんだ」
という大翔の提案により、昼食を食べた後、私達はヴィーナスフォートへと向かった。
大翔は移動中も私が歩く速さに合わせて歩いてくれていたけれど、特に距離を詰めてきたりもしなくて、なんだか拍子抜けしてしまった。
……いや、別に期待していた訳じゃないけども!
でも、あと一週間で私を振り向かせるだとか啖呵を切っておいて、結構強引に今日のデートをセッティングしておいて、あの大翔が何もしないとは考えられない。
ヴィーナスフォートは中世ヨーロッパ風の内装と天井に青空を模した壁紙が張られている。
全体がオレンジ色の明かりに照らされていて、このショッピングモール自体が遊園地のアトラクションのような印象を受けた。
そして、大翔に連れられるがままに二階へと向かえば、エスカレーターを出てすぐの通りの天井には、明かりの点いていない大量のランプシェードが吊るされていた。
「すごいね、このモール自体がヨーロッパの一つの町みたい」
私が思わず感心していると、どこからかパイプオルガンの音がした。
すると、天井のイルミネーションが音楽に合わせて色とりどりに点滅する。
「始まったか、奥の噴水広場で三十分おきにプロジェクションマッピングによるショーがあるんだ」
大翔の言葉に誘われて、噴水広場へと向かえば、噴水の前にパイプオルガンが用意されていて、その演奏に合わせて青空が描かれた天井に様々な映像が映し出されていく。
始めはぼんやりとそれを見ていた私だけれど、ふとあたりを見回してはっとする。
カップル連れが多い。
ここに来るまでも多かったけれど、二人で立ち止まって天井を見上げている男女二人組がやけに目に付く。
そうだ、ここでうっかり大翔のペースに乗せられてはいけない。
ショーが終わると、大翔と一緒にウィンドウショッピングをする事になったけれど、私はできるだけ大翔から距離を取るように努めた。
「そんなに警戒しなくても取って食ったりなんてしないさ」
と、大翔は苦笑していたけれど、むしろなんで昨日からの流れで警戒されないと思うのか。
内装は凝ってたし、ショーに連動して明かりが灯るランプシェードが幻想的で、色々とテンションが上がってスマホで写真を撮りまくったりしてしまった。
「幸、そろそろ行こうか」
一通りモールの中を周って写真も撮った頃、大翔は私を次の場所へ行こうと連れ出した。
「それにしても、思ったより楽しんでくれて良かったよ」
「べ、別に楽しんでないしっ」
どうやら大翔の目には私が随分とはしゃいでいるように見えてしまったようで、誠に遺憾である。
「次はどこに行くの?」
「どこだと思う?」
なんて話しながら、大翔は水辺の方へと向かう。
「船?」
「水上バスだな」
連れてこられた船着場で私が尋ねれば、大翔がなんでもないように答える。
「私、水上バスって初めて」
「それは良かった」
ポツリと呟けば、満足そうに大翔は笑った。
これだとまた私がはしゃいでるみたいじゃない!?
言った直後に気づいた私は、甘い雰囲気にならないように何か感じの悪い悪態をつけないものかと考えたけれど、アホな感じのセリフしか浮かばなかったのでやめた。
そうこうしているうちに水上バスが船着場までやってきて、私達はそれに乗り込む。
水上バスは私達の他にもちらほらと乗客はいたけれど、随分と
始めは川からのお台場周辺の景色をぼんやりと見てたけど、しばらくするとだんだん飽きてきて、私達は船内の座席へと腰を下した。
「それにしても、俺も今日は新鮮だったよ」
まだ三時半にもならないのに、もう傾きかけている空をぼんやりと眺めていると、隣で大翔が感慨深そうに呟く。
「新鮮って、何が?」
意味がわからず、私は聞き返す。
「付き合ってた時は、子供みたいにふて腐れたりはしゃいだりする幸なんてほとんど見られなかったからな」
少し嬉しそうに大翔は言う。
…………なんだか今日の私の頑張りが、ものすごく曲解されている気がする。
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