第2章 

#11 友達に報告しました

「え、なにそれ昼ドラ?」

 私の大学時代からの親友、岩淵いわぶち真奈まなは私の近況報告に驚いたように目を見開く。

 大学卒業後は大手証券会社に入社し、そこで有望株の旦那を捕まえた彼女は現在専業主婦だ。


 今日、私は真奈とお気に入りのダイニングカフェで遅めのランチをしつつ、婚約の報告をした。

「わあっおめでとう! 結婚式は呼んでねっ!」

 と、真奈は祝福してくれた。

 その流れで紹介された彼の兄二人が元彼と瑞希だと報告して、今に至る。


 ちなみに、真奈は私と瑞希と同じ大学で共通の友達でもあるけれど、流石に瑞希が元セフレである事は話していない。


 大翔の事は大学時代、付き合っていた頃によく話したりしていたので、すぐに誰だか見当がついたようだ。


「冗談は置いといて、もう別れたにしても、元彼が義理の兄になるなんて、ちょっと気まずいわね」

「うん、しかもちょうど元彼が復縁とプロポーズを熱心にしてくれてたタイミングだったから流石に焦ったよ~」

「…………は?」


 私の言葉にさっきまでイタズラっぽく笑っていた真奈が固まる。

「え、そのタイミングで顔合わせしたの?」

「うん」

「大丈夫? 何か言われなかった?」

「元彼が初対面ですって対応してくれたから、私もそれに合わせたし、特に何もなかったよ」


 質問に答える度に、真奈の顔がどんどんひきつっていく。

「あの、表面上は気にしてない風を装って逆恨みとかされてない? 大丈夫? 場合によっては最悪殺傷沙汰とかになる可能性もあると思うんだけど……」

 心底心配そうに真奈が聞いてくる。


「それはないと思うから大丈夫」

「なんでそう言いきれるの?」

 言い切る私に、真奈は理由を尋ねてきた。


「この前、彼と偶然町で会ってお茶したんだけど、ちゃんと祝福してくれたもん」

「そ、そう……」

「むしろ、問題は瑞希の方かも……」

「え、なんでよ?」

 まだ何かあるのかと真奈が眉をひそめる。


「だって私、元彼にプロポーズされた事とか、彼氏とどっちがいいと思うかとか瑞希に相談してたんだもん。瑞希は私と今の彼氏の両方から話聞いてて私が今、誰と付き合ってたかは結構前から把握してたみたいだし……」


「えっ、ちょっと言ってる意味がわからないわよ……?」

 ドン引きした様子で真奈が言う。

 うん、私も流石にこれは色々とどうかと思う。


「でも、瑞希がその気になれば、顔合わせの時点で全部暴露して婚約破棄させる事だってできたはずなのに、そうしなかったって事は応援してくれてるんじゃないかなって思うんだけど……」

「応援、応援ねえ……」


「最近は瑞希も元彼もよく私と彼氏が同棲してる家に遊びに来たりするし、二人共親戚というか、家族として認めてくれたのかなって……」

「えっ、家に遊びに? ……というか、未だにかなり仲が良いみたいだけど、瑞希くんは幸に何か言ってこなかったの? 告白とか」


「そういえば前にプロポーズされたけど、ほら、瑞希って女の子と二人で出かけたら結構ノリで口説くところあるし、瑞希とは幼なじみだし」

「え、プロポーズ? ……私は大学時代、二人で出かけても口説かれた事一度も無いけど……」


 私の言葉に、不思議そうに真奈は首を傾げる。

 瑞希は私以外の女の子は口説いてない……?


「えっ、でも、それじゃあなんで瑞希は途切れなく彼女みたいな子が……」

「瑞希くん、ものすごく自然にエスコートしてくれたり気遣いができたりするからじゃないかしら? 私も一緒に遊びに行った時、これはモテるなって思ったわ」


「うーん、そういうものかなあ?」

 正直、その辺は大翔も陽向も当たり前のようにやってくれていたからそういうものなのかと思っていた節はある。

 ……もしかしたら望月家の教育方針でその辺も教えられたりするのだろうか。


「瑞希くんも元彼も、弟と婚約した事を報告したにも関わらず、最近よく家に遊びに来るのよね?」

「うん、そうだけど……」

 真剣な顔で確認するように聞いてくる真奈に、私は頷く。


「なるほど、正に昼ドラみたいな展開ね! ワクワクしちゃうっ!」

「ワクワクって……」

 さっきまでは真面目に私を心配している様子だった真奈の顔がパアッと急に明るくなる。


「どうしたの、急に……」

「いやー、サスペンスと思って聞いてた話が思いがけずロマンスだったものだから~」

 頬を手で覆いながら照れたように真奈は言う。


「潤いのある人生を送るには、心惹き付けられるようなキラキラしたエンターテイメントが必要よねえ~」

「えー……人生の一大イベントをエンターテイメント扱いされても……」

 真奈は、なにか私のさっきの話を誤解してはいないだろうか。


「必要なら私も色々協力するから! もちろん秘密は厳守するし!」

「うーん……」

 そうは言っても、大翔も瑞希も祝福してくれてるし、今後何か起こるとも思えないのだけれど。


「あ、そういえばこの前、デザートが美味しいって有名なホテルのランチビュッフェの招待券を貰ったんだけど」

「やっぱりいざと言う時に相談できる相手は必要だよね!」

 真奈が期待するような修羅場は起きないと思うけど!


 こうして、私は今度真奈とホテルのランチビュッフェに行く約束を取り付けた。

 今後結婚するに向けて、色々相談できる相手は欲しかったし、ちょうどいいかもしれない。

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